第7話 愛は爆発。スープは乳化。家庭室に咲く背脂の花。ただし許可は取ってない‼︎
キーンコーンカーンコーンと鳴り響く鐘の音。四限の終わりを告げる合図の鐘は、いつもなら喜ばしい鐘の音なのだが、今日に限ってはその限りではない。
青井瑠夏から下僕として家庭科室に来るよう指示があったからだ。
嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
ペーペーと山路がこっちを憐れみの目で見て来やがる。
やめろ。そんな目で俺を見るな……‼︎
なんだか惨めな気持ちになりながらも、イルカのためにも行かないと、ってわけで教室を出ようとする。
「あ、永友くん」
教室を出ようとしたところで、赤山愛莉に手招きされた。
おいおい。手招きの先が、学園でもビジュ最強軍団じゃねぇかよ。
赤山愛莉。黄原莉乃。緑川乃亜。そして学園のアイドル青井瑠夏。
この四人を前にしたらトップアイドルも裸足で逃げる。そんなグループ。
こんなグループの中に行きたくはないが、派手な一軍女子達の手招きを無視したら、今以上に学園生活が崩壊してしまいそうだ。
素直に俺は一軍女子達の元へと歩み寄る。
「どうした?」
「いやー、永友くん。瑠夏に何したの?」
赤山愛莉が苦笑いで質問してくるもんだから、俺も苦笑いになっちまう。
「何、したんだろうな……」
俺が聞きたいよ。
嘆きに近い俺の声に、黄原莉乃が言って来る。
「今朝、瑠夏に鞄持たせてたよね?」
「信じられんかもしれんが、強引に持たされたんだ」
「あはは。まぁ、瑠夏ってそういう意味不明なとこあるもんね」
あり? 信じてもらえないと思ったら、案外信じてくれた。一軍女子って実は優しい?
「ほんとだよねぇ」
黄原莉乃の言葉に緑川乃亜が乗っかった。
「今も瑠夏が家庭科室占領しにいったんだよね。『九条ネギが大事』とか言いながら出てった」
あっはっはっ、と手を叩いて笑ってらっしゃる。確かに、仲間がいきなり九条ネギとか言い出したら笑ってしまう。
「ごめんね永友くん。下僕とかなんとかって気にしないでね。瑠夏の気まぐれだろうから」
あー。なるほど。あいつ、グループ内でも不思議ちゃんって立ち位置なのか。
ちょっぴりビジュ最強グループの立ち位置を理解しながら俺は家庭科室へと足を運んだ。
♢
「失礼……しまぁす……っ!?」
家庭科室を開けた瞬間、食欲をそそる醤油の上品な香りが漂って来る。
ここ学校だよね? なんで京都の銀閣寺近くの老舗ラーメン屋みたいな匂いしてんだよ。
「……いらっしゃい」
んで、なんで青井瑠夏は超絶かわいいエプロンを付けて、一見さんお断りみたいなラーメン屋の雰囲気出してんだよ。
エプロン姿が普通に映えてんな、おい。
「……‼︎」
青井瑠夏は見事な包丁捌きで九条ネギを切っている。
凄い技術だ。
あっという間に九条ネギの山の完成。
次に青井瑠夏は麺を湯がきにかかった。
「あのー……青井さん? ええと……毒味ってのは玉子焼きでは?」
「は? 見てわかるでしょ。今日はラーメンよ。ラーメン」
そりゃそんな見事な湯切りを見たらなにをしているかはわかるけど、意味はわからんのだよ。ここ学校だぞ。
「いつまで突っ立ってんのよ。空いてる席どうぞ」
本物のラーメン屋みたいな席案内に、適当なところに腰を下ろす。
「おまち」
すぐさま目の前に京都背脂醤油ラーメンが置かれた。
「あ、ごめ、ちょっと待って」
ラーメン屋店主みたいな雰囲気を出す青井瑠夏は、今、この瞬間だけ雰囲気をJKに戻した。スマホを取り出し、ラーメンを撮影。
すると、すぐさま俺のスマホが鳴り響く。
『エーヒレさん。見てください。永友くんへ今日は京都背脂醤油ラーメン、愛情マシマシを作りました』
俺のスマホには目の前のラーメンの画像が送られて来た。
『ちょっと待てイルカ。なんでラーメンなんだよ』
言いたいことを言えない世の中はポイズンだけど、チャットの中じゃ言いたいこと言える。
『だってエーヒレさんが男の子はラーメン食べさせたら惚れるって言ってたじゃないですか』
んなこと言った覚えがまったくないんだが?
『でも、流石に学校で次郎系はえぐいんで、京都背脂醤油で抑えました』
抑えてねぇんだよ。学校で京都背脂醤油ラーメンは、はっちゃけが過ぎるんだよ。
『なぁイルカ。学校でラーメン作って、永友くんはどんな反応なんだ?』
『超喜んでます♪』
そうか。お前には俺のドン引きが喜んで見えるのか。ドSの才能あるよ、お前。
「ねぇ。食べないの? 麺伸びるじゃない」
チャットと現実のテンションの高低差が凄すぎて風邪引きそうになる。現実の青井瑠夏が随分とローテンションで言って来るので、俺は箸でラーメンをすすった。
「……うまっ」
え、うそ。
なんでこんな本格的にうまいの? 意味わかんない。
「は、はあ? うまいとか当たり前なんですけど」
そんな強気の言葉を吐きながら、ブブブ‼︎ と俺のスマホが連打される。
だけど、スマホなんて見てる余裕もなく、このうまい京都背脂醤油ラーメンを食べ続ける。
「──エーヒレさん、返してくんない……」
はっ⁉︎ まずい。いや、ラーメンはまずくないが、状況がまずい。相棒が寂しげな声を出してしょんぼりしている。
俺はすぐさまスマホを開くと、すげーチャットが流れてきていた。
その全てが彼女の喜びの表れ。
これはチャットではなく、現実で言ってあげるべきだ。
「ありがとう青井さん。めちゃくちゃおいしかったよ」
改めて言うと、青井瑠夏はみんなに見せる笑顔とはまた違う、なんだか乙女の顔をしてくれた。
それも一瞬、すぐさま親の仇を見る目で俺を見る。
「だから、おいしいとか当たり前って言ってんでしょ。何回も同じこと言わすな、ばか」
ふんっと鼻を鳴らす青井瑠夏。この顔だけを見れば、相変わらずだが、これが明らかに照れ隠しなのは明白であった。
ちょっとだけこそばゆい空気が流れる家庭科室。
しかし、それを壊す、ドアが開く音。
「こぉら。お前らーここでなにしてんだー」
生徒指導の先生に見つかってしまった。
お前、許可取ってなかったんかよ。




