第33話 世界が終わる前に
イルカに指定された『いつもの場所』
俺が思ういつもの場所は、いつもの噴水広場だと思ったんだが、それだったらログアウトしないよな。
「だったら、どこだってんだよ……」
VRゴーグルを外し、天を見上げた。
そこには見慣れた天井──あ、汚れがある。
そもそも見慣れた天井なんて言うが、実際、自分の家でも天井なんて基本的に見ないだろ。
「ぁぁあああぁ、わっかんねっ」
俺はスマホを操作し、イルカにチャットを送る。
『なぁイルカ。いつもの場──』
文章を作る途中で、自分が野暮ったいことをしていることに気が付いてしまう。
「俺はバカかっ」
急いで文章を削除し、スマホを投げ捨てる。
これは俺が自力で探さないといけない。
イルカの相棒として。自力で。
♢
「自力で探すったって……」
高校生の俺には限界がある。
そりゃ相手だって高校生だが、クイズの出題者と回答者だった場合、圧倒的に回答者がフリに決まってんだろ、ちくしょう。
内心でぐちぐち言いながら教室に到着。
自分の席に座り、一軍キラキラ女子達を見ると、そこに青井瑠夏の姿はなかった。
♢
それから、朝のHRが始まっても、一限に突入しても、青井瑠夏は教室に現れない。
休みか……?
そう思ったが、このタイミングでの休みは、もしかするとエクレガにいるのではないかと思えてしまう。
「いつもの場所で待ってるから。ずっと、待ってるから」
これで俺が来なかったらあいつはずっとネトゲの世界に閉じ込められるということになっちまう。
だめだ、だめだ、だめだ。早く見つけないと。
いつもの場所……エクレガで? 噴水広場以外で? いや、それを言い出したら、エクレガの世界そのものがいつもの場所の定義に値する。
「わかんねぇよ……」
呟いて天を仰ぐ。家でも見慣れないってのに、教室の天井なんてもっと縁がねぇよなぁ。とか思いつつ、この上には屋上があるんだよな。
「……まさか」
いや、まさかな。そこが俺達のいつもの場所なんかじゃない。
でも、今は、そこがまさにそうなんだろうと思えて仕方ない。
ガタッ。
気がついたら俺は授業中に立ち上がってしまった。
いきなり立ち上がるもんだから、悪目立ちしちまっている。
「トイレ、行きます」
「あ、どぞ」
いきなりのことで、先生もキョトンとした顔をする。
「大きい方です」
「ごゆっくり」
いらぬことを発言してしまった。このあと俺はう◯こマンかくそ野郎のどちらかの称号を得ることだろう。
「これでいなかったらただのやられ損だぞ」
階段を駆け上がりながら、色々な意味で青井瑠夏がいることを願った。
♢
屋上の扉を開けると、校内が負圧になっているのか、一気に風に押し寄せられる。
乱れた髪を手で軽く整えながら屋上に出ると、そこに目的の女の子がいた。
「──なんで屋上がいつもの場所なんだよ」
ミディアムヘアの髪が風に揺れ、外の景色を眺めている彼女の背中に第一声を投げた。
「色々あったでしょ」
「まぁ……でも、いつもの場所って言われると……微妙だろ」
「だったら、いつもの噴水広場が良かった? エーヒレさん」
そう言いながら振り返って来る彼女。
その目は俺がエーヒレだと確信してしたかのように真っ直ぐと俺を捉えていた。
これは、どう足掻いても誤魔化しきれない。
「いつからわかってた?」
「高校の入試で、私を助けてくれた時から」
「は⁉︎ んなわけっ‼︎」
「エーヒレさんとは中学から一緒よね」
「まぁ、そうだな」
「声。一緒だもん」
……。
…………。
声、かぁ。
「もちろん、声だけじゃわからないから、色々試したわよ。エーヒレさんにいきなり名前呼んだりとか、鬼チャット送ったりとか色々と、ね」
突然、エクレガが俺の名前を呼んだのって、カマかけてたのね。他にも色々とんでもないことしてたよな。あれってのは、全部カマかけだったってわけか。
「私を助けてくれた時、瑛くんが蹴り飛ばした鞄が私の足元に転がってきて、それを拾い上げた時、もう決まってたのかもね」
瑠夏は遠くを見つめる。
「エーヒレさんと声が一緒だって思った時は心臓が止まるかと思ったわよ。でも、エーヒレさんはそれでも自白しないから、本当に違うのかなぁって思ってたんだけど、家に行った時に確信した」
「攻略本?」
「そうね。あれはわかりやす過ぎ」
「……悪かった。別に騙してたとか、そういうんじゃなくて……だな……」
「わかってるわよ、エーヒレさんがそんな人じゃないってことなんて」
小さく言うと、彼女は顔を真っ赤にする。
「や、その、覚悟してたことではあるんだけど、私、好きな人本人に恋ばなして、好き好きアピールしてたんだ……」
「あ、えっと……瑠夏、その……」
「待って。ほんと待って。まだ私のターンは終わってないから」
彼女が深呼吸をすると、真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「エーヒレさん。ううん、永友瑛くん。私はきみが好きです」
シンプルな告白。シンプルだからこそ、胸に響く言葉。
「俺は、イルカから俺のことを好きだって聞いた時、怖かった。なにか裏があるんじゃないか、とか。俺とは釣り合わないとか。だから、相手の気持ちがわかってるのに、答えを出さずに、ずっと逃げてた。長い間、相棒のイルカが、リアルを知って遠くの存在に感じてしまった」
そうだ。これが俺の深層心理の思い。
「エクレガがサ終になるってわかったら、イルカと別れないといけない。瑠夏と別れないといけない。勝手に絶望して、イライラして、怒鳴って……でも、イルカが言ってくれたよな、『私達の関係は、エクレガだけのものなんですか?』って。そこでわかったんだよ。俺達の関係はゲームだけの関係じゃないって……」
だからまぁ、なにが言いたいかって言うと……。
「俺は青井瑠夏に惚れてんだなって……好きだから逃げてたんだって……」
もう逃げるな。
「これからも、相棒として……いや、恋人として一緒にいて欲しい。だめ、かな?」
緊張なく言えたのは、これが俺の本心だから。
「……答えなんてわかってるくせに」
拗ねたような顔の後、彼女は頬を赤らませながらも、頬んでくれる。
瑠夏は、頬を真っ赤に染めながら、でも最高の阿修羅顔……ではなく、少女の笑顔で微笑んだ。
「よろしくね、相棒。……ううん、瑛くん」




