表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/34

第32話 三日月が嘲笑う街で君は微笑む。さよなら。そしていつもの場所で……

 青井瑠夏はすぐに帰ってしまった。


 そりゃ、まぁ、そうだろうな。


 あのエクレガがサ終だなんて知らせが入れば、血相を変えて帰るのも頷ける。


 俺だってまともな顔色はしてないだろう。


 あそこは俺とイルカの大切な場所。それなのに……。


 ガセかもしれない。なにかの間違いかもしれない。


 だけど、エクレガの公式サイトには、『サービス終了の件』と大きく書いてある。


 今日はエープリルフールだっけか? いいや、違う。違うんだ。本当にサービスが終わるんだ。


 何度見ても、何度ブラウザバックして戻って来ても、サービス終了の文字は消えてくれない。


 このまま、本当にエクレガは終わってしまうのだろうか。



 エクレガ内は地獄のような混乱に包まれていた。


 空には昼間から異常に巨大な三日月が浮かび、刻一刻と地上へ接近している。


 運営が用意した終焉の演出だろうか。皮肉にもそれは、残酷なほど美しかった。


「っざけんなよ、運営!!」


「俺たちがどれだけここを愛してきたと思ってんだよ!」


 阿鼻叫喚の噴水広場。俺もまた、溢れ出す怒りを抑えきれずにいた。


「エーヒレさん……」


 いつも元気いっぱいの魔女っ子は、なんともいえない哀愁を漂わせている。いや、それは彼女視点から見た俺もそうなのだろう。


 お互い会えば、どちらから会話を始め、好きなだけ喋れば、黙り込む。別に黙り込んでしまっても居心地の良い関係。


 だけど今は、今だけはエーヒレとイルカという関係ではなく、永友瑛と青井瑠夏という関係性のように思えてしまう。


「俺はさ、イルカ」


 ギュッと騎士の誓約紋を握る。


「これを一生大事にして、これからもエクレガの世界をイルカと一緒に旅をしたかった。もっと高難易度のクエストをこなして、時には失敗して、でもなんとかクリアして……ずっと笑っていたかった」


「エーヒレさん……」


「ずっと一緒にやって来て……これからもずっと一緒だって思ってたのに……」


 こんなの……こんなのって……。


「運営ありえないよな。あり得ないよ。抗議してやる……そうだ、抗議してやろうぜ‼︎」


「エーヒレさん。落ち着いてください。私達が抗議したところで、この事実は絶対に覆りません」


 わかってる。わかってる──。


「んなこたぁわかってんだよ‼︎ だったらなんだ⁉︎ 俺とイルカはどうなる⁉︎ せっかく仲良くなれたのに、こんな形でお別れか⁉︎」


 つい怒鳴ってしまったが、イルカは恐れる様子はなく、ただ哀しそうな目で俺を見つめた。


「私達の関係は、エクレガだけのものなんですか?」


「……ッ⁉︎」


 その言葉に、殴られたような衝撃を受けた。


 俺はイルカという魂そのものを見ていたはずなのに、無意識にゲームが消えれば彼女も消えると思い込んでいた。


「俺、は……」


 そんなの……相棒失格じゃないか……。


 自分はなんて言葉を発してしまったのだろう。自分の発言に酷く後悔してしまう。


「いやだ。俺は……イルカともっと……仲良く……イルカを失いたくない……」


 アバターは無表情を貫いている。でも俺の声は、リアルの俺は瞳から涙が溢れてしまっていた。


「ね、エーヒレさん。オフ会しよ」


「……ぐす。オフ、会?」


「そ。オフ会。二人だけのオフ会」


 そういうとイルカはクルリと背を向けてしまう。


「いつもの場所で待ってるから。ずっと、待ってるから」


 ──ピロリン。


 乾いた電子音が響き、目の前から魔女っ子の姿が消えた。


「あ、おい、待てよイルカ!!」


 一人残された広場。


『いつもの場所』


 それは、ゲーム内のどこかを指しているのか。それとも、現実の──?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ