第30話 女子会(瑛解体ショー)の序章
土曜日の朝。リビングにて。珍しく家族四人がリビングに集まった。
父親はソファーにてタブレットよりニュースを見て、隣には妹の紗奈が座り、60V型モニターで動画を再生している。母親はキッチンで洗い物をしてくれている。俺はダイニングテーブルからソファーに座る紗奈へ話しかけた。
「なぁ妹よ」
「なんだね兄よ」
「お前、今日部活はないのか?」
「ふっふっふっ。土曜日なのに休みという、運動部ないないが発動しているのだよ」
なんで今日に限って運動部ないないを発動させやがった、どちくしょう。
「そんなゴールデンタイムなのに出かけないのか?」
「はっはっはっ。今日は昼までゴロゴロし、昼過ぎから出かけるのだ。まさにゴールデンタイム!!」
とうっ。とソファーで正座に切り替える。
「パパ上殿下」
「うむ」
「お小遣いが欲しいでござる」
「よかろう」
父親は懐から3万円を取り出し紗奈に渡した。
「おいこら、パパ上。そりゃ渡し過ぎだろ」
「なにもわかってないな坊や。パパ上は娘には甘いのだ‼」
「てめぇみたいなパパ上がいるから、世の娘は付け上がるんだ‼」
「まぁまぁ瑛。紗奈はいつも部活で遊びに行くなんて滅多にないんだし、瑛みたいにバイトもできないんだから、少しは大目に見てあげなさい」
キッチンより母親の援護が入る。
まぁ、母親の言う通りだ。中学になって紗奈が遊びに行くなんて数えるほど。厳しい部活に入ったもんだ。俺がサッカー部の時はもっと緩かったんだが、バスケ部というのは厳しいのだなぁ。
「パパ上。中学生で3万は引くので1万で良いです」
「なんて良い子だ。おいこらドラ息子。紗奈を見習え」
「パパ上殿下。俺も遊びに行くからお小遣い頂戴」
「お前に、だと。ふざけんなっ‼」
そう言って俺に1万円くれた。
「これで足りるか男子高校生‼」
「え、なに。今日機嫌良いの?」
勢いに任せて俺にもお小遣いくれたんだけど。
「普段瑛もバイト頑張ってるからな。ま、少ないけど、これで今日を楽しめ」
「パパ上……」
今度父の日になにかを買う計画だけ立てよう。なにをするかは知らんけど。
「今日、パパ上殿下はママ上女王とデートなそうな」
紗奈がこっそりと教えてくれる。なるほど。道理で両親の機嫌が良いわけだ。この夫婦、めっちゃ仲良いもんな。
「ほんじゃ紗奈。お小遣いももらったし、朝から出かけろよ」
「うん。昼からね」
くそ。
♢
今日は真・幼馴染が家にやって来るとかぬかしやがった。土曜日だし、家族がいるのにと思ったが、両親は出かけるみたい。
妹だけが残った。
どうする。どうにか家から追い出したい。
「紗奈……」
「あきらめなおにぃ。おにぃの算段はわかっている」
「なに⁉」
「どうやってもあたしを家から追い出したいらしい。でも、この永友瑛は他人から家を出ていけと言われ、おいそれと出て行くほど甘い妹じゃあ、ないぜ‼」
「俺達は他人じゃなく兄妹だ」
「おっと、失言。この代償は家を出て行くことでチャラにしてくれな」
甘い妹で助かった。
そう思った時、マンションのロビーからのインターホンが鳴り響いた。
「ここで有能妹の永友紗奈は颯爽と来客対応するZE☆」
「やめろおおおおお‼ 今、その行動は無能ダ‼」
「うっは。くっそ美人が立っとる。美人局じゃね?」
はーいと紗奈が対応した。
『あ、えと……初めまして、私、瑛くんの、えと……友人というか……』
モニターの青井瑠夏はなんかもじもじしている。
「本当に知り合い?」
「……クラスメイト」
「うそだー。こんな美人、おにぃのゲームでしか見たことないぞ」
っとと、どうぞー。と紗奈が青井瑠夏を通した。
「あれがおにぃのクラスメイト? くっそ美人だったね。あ、くっそ美人ってのは、くそを塗ったとしても美人って意味だからね」
「汚ねぇな、おい」
「つか、あれじゃん? おにぃの持ってるラノベみたいなやつじゃないの? あの、
『罰ゲームで告白した陰キャが本気になってるのガチで草』みたいなん」
「俺の持ってるラノベにそれはないが、ラノベ以上のことが起こっているのは確か」
「現実は小説より奇なり?」
「それそれ」
適当返して、俺は紗奈を彼女の部屋へ押し込む。
「わかったら大人しくしとけ」
「両親のいない家。休みの日──はっ⁉ わかったぞ、こいつらえっちぃことするんだ‼ えっちぃことするんだ‼」
「だあああああ‼ うるせーよ思春期‼」
「おにぃもでしょ」
ピンポーンと正解音みたくインターホンが鳴った。
「とりあえずおめぇは部屋に入っとけ‼」
「男子高校生の圧倒的パワーにこの永友紗奈は逆らえない」
紗奈を自室に押し込め、玄関を開ける。
そこに立っていたのは、学園のアイドルをどこかに置き忘れてきたような、ひどく落ち着かない様子の青井瑠夏だった。
「こ、こんにちは……」
「こんにちは……」
学校やエクレガとはまた違った新鮮味のある空気に、二人して立ち尽くしてしまう。
「残念だったな、おにぃ。あたしは何度でも蘇るっ‼」
「「⁉」」
部屋に押し込めたはずの紗奈が堂々の登場。そりゃ鍵もなにもないわけだから、やりたい放題だよね、ちくしょう。
リビングに入ると、瑠夏はキョロキョロと辺りを見回した。
その視線は、まるで見知らぬダンジョンのトラップを警戒する重騎士そのものだ。
「あ、初めまして。瑛くんのクラスメイトの、青井瑠夏です」
青井瑠夏がすかさず自己紹介をすると、「ぐぉ」と太陽でも直視するかのようなダメージ音を発していた。
「は、初めましてぇ! 妹の紗奈です! いやー、さっきモニター越しで見るより、生青井さんは一万倍美人ですね」
「あ、ありがとう。紗奈ちゃんも美人さんよね」
「うっわ、名前呼ばれた! おにぃ、これ完全にお義姉さんルート入ったZE☆」
「やかましいぞ妹」
「あたしのテンションに助けられているくせに」
それはそう。あのまま二人だったら沈黙が続いていただろう。
「瑠夏さん! 瑠夏さんって、うちの兄のどこがいいんですか? 偏食だし、部屋はエクレガの攻略本だらけだし、寝言で『レイドバトル、左から行け!』とか叫ぶ男ですよ?」
「ちょ、紗奈、おまっ――」
「えっ、そ、そうなの……? レイド、左……?」
「あ、すみません。おにぃは廃人が服着て歩いているよう──もごぉ」
「ちょっと黙ってようか、紗奈」
彼女の口を塞いでいると、ごもぉ、と抜け出した。
「そんなことするおにぃには公開処刑で後悔させたやる。瑠夏さん。おにぃの部屋を特別に案内しますよ。卒業アルバムとか、中学時代の黒歴史ノートとか、いろいろ完備してますから!」
「……え、見たい。すごく見たいわ」
「瑠夏! お前まで乗っかるな! 紗奈、お前は今すぐ三万円分遊び倒してこい!!」
俺の声も虚しく、二人の「女子会(瑛解体ショー)」が、俺の自宅で幕を開けようとしていた。




