第28話 氷上(プール)のお姫様が家にやって来るってよ
真・幼馴染(?)との甘い空気の代償は強制プール掃除というものだった。
今の時代に強制なんてなにを考えているんだクロマティ。
しかし、マラソン中に勝手にコーラを買ったこちらにも非はある。というかこっちが悪いんだから応じるしかない。
だが、今日はバイトだった。
だから桃ちゃんにシフトを変わってもらった。
『ごめん、桃ちゃん』
『全然大丈夫。お互い様だよ』
なんて優しいんだ桃ちゃん。今度なにか奢ろう。
「そんじゃ瑠夏、プール掃除がんばってー」
「ウチら先にオケっとくから、来れるなら来いよー」
教室で青井瑠夏だけを置いて帰る一軍キラキラ女子達。
一軍女子達から、一番ビジュ良いじゃんな女子が俺の席にやって来る。
「はぁ……やれやれ。なんで私がプール掃除なんてしなくちゃいけないのよ。今日はみんなでカラオケに行く予定だったのに」
昨日の甘い感じがウソのような仏頂面。本気でやりたくない雰囲気を出して来る。
「用事があるなら俺だけでやるからカラオケに行っていいぞ」
「は? なに言ってんの? そんなんがバレたらこっちが面倒なことになるでしょ」
「瑠夏はなにも悪くないわけだし、俺が一人でやるべきと思うんだけどな」
「ぐちぐちうっさいわね。手伝ってあげるって言ってんの。さっさと行くわよ」
♢
「あー、面倒ね。ほんと面倒。これはあれよ。ガチで面倒」
という割に、制服の袖をまくり、裸足でプールの中を掃除している青井瑠夏。
青い空。水の抜けたプールを駆け巡る美少女。なんかのCMですか?
「ほら瑛くん。さっさと水を出しなさい」
「へいへい」
もう俺の名前を呼ぶのも慣れたのか、噛まずに呼んでくれる。こちらとしては、まだちょっとばかしこそばゆい。
俺は青井瑠夏の要望通りにホースでそこら辺に水をばらまく。本当に適当にバシャバシャと。それを彼女がデッキブラシでスーイスイ。まるで氷上の姫の如き動き。まさかこやつ、フィギュアスケートの経験者か?
「瑠夏が部活してないのって、フィギュアスケートしてるから?」
「え? なんでいきなりフィギュアスケート?」
あまりに唐突な質問だったため、いつもの阿修羅な顔ではなく、何言ってんのこいつって顔で見られてしまう。
「いや、今の動き、フィギュアスケートっぽかったから」
「あら、そ」
言いながらダブルアクセルをかませる辺り、ガチ勢の匂いがぷんぷんするぜ。
「でも違うわよ。フィギュアスケートなんてやったこともないわ」
「ええ⁉︎」
んなアホな‼︎ 初心者がダブルアクセルなんてできるはずなかろうて。
「中学までは水泳部よ、水泳」
わぁ、イルカっぽぉい。とか言ったらしばき回されるだろうな。
「高校ではやらなかったのか?」
「そうね。高校は……」
青井瑠夏は言いかけて、顔をそらした。
「高校は遊びたかったから。水泳とかつまんないし。ここ水泳部なくて良かったわ」
それがイルカの強がりだなんてすぐにわかる。ネトゲだろうが長年相棒をしているんだ。本当は水泳が好きなんだろう。
なにが理由があって高校で水泳をやめたのは明白。
だからかな。エーヒレにはそういった話をしなかったのは。
エーヒレとはただ、ひたすらに楽しい相棒でいたいから、わざわざそんなことは言わないでおいたのかな。
「そ、そういうきみは? 部活入ってないわよね?」
これ以上水泳部の話題は出したくないのか、話題をこちらに振ってくる。深入りして欲しくない話題だろうから、簡単に答える。
「やってないな。中学まではサッカー部だったけど」
「サッカーなんだ」
「んだよ。イメージできねぇってか? ほっとけ、よく言われる」
「違うわよ。全然イメージできる」
ほんまかいな。
「高校じゃ続けなかったの? ここ、サッカー部あるわよね?」
聞かれてつい足を見つめてしまう。それも一瞬。
「単純な話だ。エクレガ──」
「エクレガ?」
やっべ。エクレガにどハマりしたから部活はしないって言いかけた。瑛としてエクレガを始めたのは最近だからな。話の辻褄が合わなくなる。
「瑠夏がエクレガに誘ってくれたおかげで、今の俺はエクレガ部だ」
ふぃ。なんとか誤魔化せたな。うん。
「ふ、ふん。そう。私のおかげでエクレガにハマって良かったわね‼︎」
──そうだな。イルカ。お前のおかげでエクレガが楽しいよ。
♢
「ふぅ。ざっとこんなもんね」
何事もなく終わった。
実は、持っているホースで美女をびしょびしょにしようという三段もあったが、神の声が聞こえてきて、『それはもうやめておけ』と言っていた気がした。
昨日、コーラぶっかけたし、そりゃねぇよなってことで、ホースで美女美女作戦は中止だ。
「悪かったな。俺のせいでプール掃除巻き添えになって、友達とカラオケいけなくて」
「全然。みんなとカラオケなんて──」
自然と本音を出したのに、敢えて引っ込める青井瑠夏。
「ほんとよね。これはあれよ。昨日のあれをあれする時よね」
「昨日のあれ?」
「は、はあ? 忘れたとは言わせないわよ。なんでもいうこと聞くって話でしょ」
「あー、ね」
そういえば言質取られてた。
「まぁなんでも言うこときくよ」
もちろん。できる範囲でだけども。
「き、きみの、い、え、で、私を、もてなし、なさいよ」
……。
…………。
「はい?」
この子、今、なんてった?
「だから‼︎ きみの家、行くから‼︎ 真•幼馴染なら当然だから‼︎」
まだその設定生きてたの⁉︎




