第27話 炭酸と共に毒が抜けたアイドル。俺に向けてくれる微笑み
ナ◯ト走りの代償は、著しい体力の消耗と最下位という汚名。そして背中に相棒を背負うということになってしまった。
いや、学園のアイドルを背負うのは役得になるのかな……。
ま、そんなこんなで、最初は、柔らかい身体とか、いやらしいことをあれこれと考えてしまっていたが、数秒もすれば、重いという感想に早変わり。
「ぜぇ……はぁ……」
「だらしないわよ。男の子でしょ」
「この、ジェンダーレスの、時代に、男、とか、女、とか……ぜぇ、はぁ」
「なにぶつぶつ言ってんのよ。ほら、はやく、はやく」
まるで馬車馬を働かせる主人だな、この子。そういや、俺は下僕だったか。この前の空気感でそういうのなくなったと思ったんだけど……真性のドSかっ。
「待って、タンマ。本当に無理……」
「ちょっと、また私のこと重いとか言うつもりじゃないでしょうね」
「違う、もう無理……喉かわいた……あそこ、で、休憩しよう」
俺は自動販売機を指差して提案する。
「最下位だし、別に良いけど、お金持ってないわよ」
「でぇじょぶ」
よっこいっしょっと彼女を下ろすと、ハーフパンツのポケットからスマホを取り出す。
そして、コーラを選択して、ピッとな。
「きみ、マラソン中にスマホなんて持って来たらダメじゃない」
「おいおい優等生。更衣室なんかに置いといたら取られるかもだろ」
「ウチの学校はそんな野蛮じゃないわよ」
「わかんねぇぞ。偏差値が高かかろうが、低かろうが、取るやつは取るんだから」
言いながら自販機の中よりコーラを取り出す。
「瑠夏もいる?」
「い、いの?」
「まぁついでだし」
「じゃあ……」
瑠夏は自販機に手を伸ばして──やめた。
「ふ、ふんっ。べ、別に喉なんて渇いてないからいらないわ。それより、なんでそれを選んだの?」
「おいおい。炭酸の抜けたコーラは疲労回復に良いって知らないのかい?」
「──漫画の知識?」
「え、もしかしてバ◯読んだ? 女の子なのに?」
「このジェンダーレスの時代に、女がバ◯を読まないと思わないことね──じゃなく‼︎ この会話、前に……」
あ、やば。エーヒレの時にこの会話でめっちゃ盛り上がったわ。
「だ、誰かとしたのかねぇぃ。まぁ、バ◯なんて男の子なら通る道かもしれんし、通らんかもしれんし、とりあえず、まぁ、飲むよ」
言いながら俺はコーラの蓋を開けた。
すると、漫画みたいに勢い良くコーラが発射された。
メントスコーラかな?
「──ぶべぶっ‼︎」
そのコーラが青井瑠夏に直撃。
「ぁわわわわわ……」
ど、どどど、どうしよう。どうしよう。怒られる。つか、殺される。
「ご、ごごご──」
「ぷっ──あっはっはっはっ‼︎」
瞬間、青井瑠夏は豪快に笑い出した。学園のアイドルとは到底言えない笑い方。手を叩いて大笑い。
「やばぁ……コーラで溺れかれるのとか初めて」
笑いすぎてなのか、コーラが染みているのか、涙目で言ってくる。
「ごめん、だ、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。全然、もう……あはは‼︎ 今のやばかったよね♪」
顔面コーラまみれで、体操服にもコーラがかかっているのに、青井瑠夏は学園のアイドルスマイルで微笑みかけてくれる。
いつもの阿修羅顔は見られない。
なぜ、どうして、ホワイ?
この子、ドSの皮を被ったドM?
「──ははっ……あー、あ。もうベットベト、最悪ぅ」
言いながら可愛らしく睨みつけてくる。
「どうしてくれんの?」
「や、その……なんでも言うこと聞きます」
「なんでも? 今、なんでもって言ったわね」
言うと、青井瑠夏は俺の口元に指を持ってくる。
「言質取ったから。ウソだったら許してやんない」
なにこの天使。惚れてまうやろ。
「は、はぃ」
「ふふっ」
ありふれた町にある、どこにでもある自販機の前で、なんとも甘ったるい雰囲気が流れている。
「『ふふっ』じゃねぇよ。おめぇら」
「「──⁉︎」」
そんな空気を壊すのは、いつもおっさんだ。
ママチャリに乗っかったクロマティのご登場だ。
「お前らよぉ。俺は確かに青春に加担したやるって言ったけどよぉ……おまっ、これ、青春過多だろ。コーラのぶっかけ合いとか、羨ましいなぁ、このやろうがっ」
「え、ええっと……どこから見てました?」
「おんぶしてるところから見てんだよ。そしたらおめぇら、コーラぶっかけて、唇に、こう、ピッとしやがって。くそがっ‼︎ 俺が卓球部の頃なんてなぁ──‼︎」
ガミガミとお説教が始まってしまった。
まぁ、悪いのは俺達だし、なんの反抗もできす、黙って怒られる。
数分したところで、「──ったく」と呆れた声が出て、ようやくと解放されると思ったのだが。
「お前ら明日プール掃除だ」
「「え?」」




