第26話 これも幼馴染の条件? いいえ、ただの糖分です
俺が出した幼馴染の条件……。やべぇ。んなもん覚えてねぇ。大体こういう時はノリで喋ってしまうのが俺の悪い癖。
「えーちゃん、朝からどったの?」
自分の席で頭を抱えていると、朝練終わりの爽やかバスケ部が絡んで来やがった。
「ぺーぺー。幼馴染の条件ってなんだ?」
「は? なに、いきなり」
「答えろ。幼馴染とはなんだ?」
「えー……将来のお嫁さん?」
かあああ‼︎ ぺっ‼︎
あ、うん。もちろん唾なんて吐いてません。吐きそうになったけども。
「なんだよ、その哀れむような目は」
「哀れんでんだよ」
「哀れむなよ。だったらえーちゃんの思う幼馴染ってなんだよ」
「それがわかんねーから悩んでるんだろうが、くそぺーぺー。んだよ、ペーペーって‼︎ バーコード決済か⁉︎ 将来バーコードハゲになんの⁉︎」
「おい‼︎ やめろ‼︎ それ以上いじるな‼︎ つうか、このあだ名つけたのえーちゃんだからなっ‼︎」
「俺だってまさかこんなあだ名が全国的になるとは思ってねぇわ‼︎」
「──えーちゃん。これじゃない? 幼馴染ってやつ。こう、自然体で話せる間柄というかさ。普通、バーコードハゲとか言われたら怒るけど、えーちゃんなら許せるよ」
かああああ。
「唾を吐かれたら流石にキレるけども」
「だよな。自然体……そう。自然体って言ったわ、俺」
それはなんか言った気がする。
するってぇとなにか、青井瑠夏は今後俺に自然体に接するということか。
チラリと一軍キラキラ女子に目をやる。
青井瑠夏と目が合うと、復讐相手を見つけたかのような形相になる。
ブブブ。
スマホが震えた。まぁたエーヒレになんかを報告かぁとか思っていると違った。
L IMEだ。
『どうかした? もしかして喋りたい?』
その鬼の形相からは思いもよらない文章が送られて来る。
『お昼、一緒する?』
その顔で言われたらなんか色々深読みしてしまうんだけど。
『は、はい……お昼奢らせていただきます……』
『なに言ってんのよ、ばか』
いや、その顔はマジで勘違いするんだが。
♢
「あーい、おまえらー。今から地獄の町内マラソン大会だぞぉ」
なんで生徒指導のクロマティ(黒松)が体育を仕切っているのかはさておいて、クロマティはやる気なさそうに指示を出す。
本日の体育はクロマティの言う通り、男女混合でマラソンを行うらしい。町内をぐるっと一周。そしてここ、学校のグラウンドに戻って来るってパターン。
「現代学生は体力がなさすぎる。俺が野球部だった時はなぁ、そりゃもうケツバンとかバンバン受けたもんだ。んもう、そりゃ痛くてなぁ。あれね、反射的に手で防ごうとすんじゃん。違うんよ、案外ケツで受けたらいけるんよね。ほんと、昭和の野球部やっべぇわ。知らんけど」
クロマティこの前はサッカー部とか言ってなかった? その前は剣道部だった気がする。ま、どうでも良いか。
グダグダと説明をしていると
「というわけで、男女混合ランニング=青春。俺はお前らの青春に加担してやってんだ。感謝しろー。じゃ、よーいどん」
パンっと手を叩くもんだから、いきなり地獄の町内ランニングが始まった。
走者一斉にスタート。
「えーちゃん。一緒にゴールしようね」
「じゃかましい、シャトルランNo.1。さっさと先頭に行きやがれ」
「先頭、いただいちゃいます」
爽やかバスケ部が、ものすげー勢いで先頭に行った。バスケ部に体力で勝てん。奴らは化け物だ。
「ぜぇ、はぁ……うぇぇ」
「ありゃま。これはこれは一軍陽キャの山路勝利がしおれてらっしゃる」
「いや、ごめんなさい。マラソンだめ……本当に……」
「ほらほら。ナ◯トダンス。みてみてー」
「永友ぇ」
「ノリ良いじゃん」
そのまま山路はしおれてしまった。
俺はナ◯ト走りをしていると、めちゃくちゃ気持ち悪くなってしまった。
「ぜぇ、はぁ……」
めっちゃ気持ち悪い。この走り方は体力の消耗が激し過ぎる。
「あはは‼︎ ざまぁ‼︎」
そのまま山路にざまぁされ、俺は女子達にも抜かれて最下位になってしまった。
「きみ……なんでこんな後ろにいるの?」
スッと隣にやって来たのは青井瑠夏だ。
「……ノリ?」
「なによ、それ」
「瑠夏だって、最後尾じゃんかよ」
「は、はあ⁉︎ な、なな、なに、なになに⁉︎」
「いや、だから瑠夏も最下位だろって」
「じゃなく‼︎ 名前‼︎ 今、名前呼んだ‼︎」
「え? だめなの? 名前で呼べってエクレガで言ってたろ」
「だ、ダメじゃ、ない、けど、リアルでいきなり……しかも、マラソン中に……」
「おいおい、興奮してんのか、瑠夏。息が上がってんぞ」
「ち、違う‼︎ これはマラソンで──きゃっ‼︎」
青井瑠夏はいきなり足がもつれてその場で転んでしまう。
「お、おい。大丈夫か」
彼女に駆け寄ると、足を痛そうにしている。
「大丈夫、じゃない……」
そう言いながら、苦しそうな顔をして、両手を差し出してくる。
「ん」
「ん?」
「んんん‼︎」
これがなにを意味しているのか。すぐにわかる。おぶれということだ。
良いのか? 良いんだろう。本人が望んでいるんだから。
俺は彼女を抱っこ……はさすがにきついから、おんぶすることにした。
「お、重いとか言ったら、処刑だからねっ」
「おもっ……」
「あー‼︎ 瑛くんが言っちゃいけないこと言った‼︎ 言っちゃいけないこと言った‼︎」
ポコポコと背中を叩いて来る。
こいつ、リアルなのにナチュラルに名前を呼んで来やがった。ドキッとすんじゃん。
「マラソンで汗かいたから、匂うと思うんだけど……」
「そ、そうね。めちゃくちゃ匂うわ」
「できれば口呼吸してくれれば」
「別に……嫌な匂いじゃないから鼻で思いっきり吸うわよ」
わざとらしく鼻で呼吸してくる。めっちゃ恥ずかしい。
「──ごめんね。瑛くん。迷惑かけて」
「迷惑じゃないけど」
「違う……今回のことじゃなくて……その……」
顔を見ていないからだろうか。青井瑠夏が素直になっている。
「いつも強く当たっちゃうこと」
ポツリとこぼれた彼女の言葉がしっかりと俺の耳に入る。
「別に、気にしてない」
そう言うと、少しだけ強くギュッとされた。
現場にはしばらく甘い空気が流れていた。




