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第24話 真・幼馴染への道‼︎ 究極にわけわかんねぇ属性だな

 エクレガの世界の空に上がった祝杯の火花がゆっくりと消えていく。


 広場にいた他プレイヤーたちが「今の凄かったな」「新手のイベントか?」とザワつく。


「なぁ瑠夏」


「──っくぅぅ」


 白銀のフルプレートアーマーが身体をクネクネしているのきもいな。ギヂギヂとかゴリウっとか、鳴っちゃいけない音が響いてる。名前を呼ぶ度に悶えるのかな、この子。


「街中で最強技ぶっ放すのはやめろよ。運営にBANされんぞ」


「い、いいのよ。エクレガの運営は寛容って私の相棒が言っていたわ」


 あ、うん。なんかそんなこと言った覚えあるわ。


「そんなことより、決めたわ」


「……何をだよ」


 イルカは、鉄仮面の奥にある美しい瞳を爛々と輝かせ、一歩詰め寄ってきた。


「今日から私が、あんたの『真・幼馴染』になってあげる。光栄に思いなさい」


「……はい?」


 なんだ、その究極にわけわかんない属性。


「あの桃……なんとかさんは、ただの名字呼びの知人でしょ?」


「名字呼びの知人、なのか?」


「でも私は違うわ」


 鉄仮面の奥の顔がドヤ顔なのがわかる言い草。


「瑛くんと毎日学校で会い、放課後はこうしてエクレガで密会している。これを幼馴染と呼ばずなんと呼ぶ⁉」


「ネトゲ仲間だろ。一番大事な幼少期の思い出が、一秒も含まれてないし」


「ぐふっ‼」


 あ、イルカのHPが半分くらいいった。


「──今のは効いたわぁ」


 意図せずイルカへ正論パンチを放ってしまったみたいだ。正論パンチは彼女に効くらしい。


「でもね、瑛くん。今からの私達の関係は、『真・幼馴染』なの。普通の幼馴染とは訳が違うのよ」


「どう違うんだよ」


「さぁ、まずは、『幼馴染っぽいところ』で作戦会議よ‼」


「エクレガにそんな場所ねーだろ」


 俺の言葉は虚空へ消えた。


 こちらの腕を掴み、問答無用で引きずり始める重騎士。


 レベル20の俺(A)の筋力では、廃人装備にピクリとも抗えない。


 その時、俺のスマホが「ブブブッ!」と鳴った。


 ……またか。


『エーヒレさん! 瑛くんに『幼馴染宣言』しちゃいました。それで相談なんですけど、幼馴染って、具体的に何をすればいいんですか⁉』


 なんで知識ねぇのに幼馴染宣言なんてしたんだよ、この子。


『とりあえず、あーんとかですか⁉ でもこれ、鉄仮面が邪魔で私が食べられません‼ どうすれば⁉』


 なんで幼馴染といえば、あーんなんだよ。


『おいイルカ。幼馴染ってのは、「家が近い・昔からずっと一緒・お互いの黒歴史を知ってる・距離が近すぎて恋に気づきにくい・名前呼び捨て or あだ名呼び・家族ぐるみの付き合い(親同士も仲良い)」これが王道幼馴染なんだぞ‼ 安易に幼馴染を語るな‼』


『な、なるほど。これさえクリアすれば幼馴染認定ってことですよね⁉』


『ま、まぁ?』


『おーけーです♪』


 なにが?


『つまりだな、「空気のような自然さ」が大事だ。無理にイベントを起こそうとするな』


 即座に、前を歩く瑠夏の肩がビクッと跳ねた。


 彼女は足を止め、鉄仮面を閉じたまま、ボソッと呟く。


「……空気……自然体……そうね。わかったわ」


 イルカはくるりと振り返ると、俺の横に並び、不自然なほど「普通」を装って歩き出した。


 だが、全身フルアーマーの重騎士が、初心者の横で「空気」になれるはずがない。一歩歩くごとに『ガシャーン! ズシーン!』と地響きがしている。


「……ねぇ、永友くん。……お腹、空いてない?」


「……は? まあ、バイト上がりだし、リアルでは空いてるけど」


「そう。じゃあ、これ。……幼馴染なら、こういうの、作るでしょ?」


 イルカがアイテムボックスから取り出したのは、ゲーム内のスタミナ回復アイテム『特製マンドラゴラ弁当』だった。


 見た目は……お世辞にも「家庭的」とは言えない、紫色に発光する禍々しい代物だ。


「……これ、お前の手作りか?」


「……スキルスロットに『料理』を入れてみたのよ。……ほら、食べなさいよ。真・幼馴染の、手料理を……」


 フルプレート重騎士が弁当を差し出してくる、とんでもない光景。


 だが、彼女の指先は小刻みに震えていた。鉄仮面の奥で、彼女がどれだけ勇気を振り絞っているか、俺には(エーヒレとしての経験上)手に取るようにわかる。


 ……くそ。ここで『毒々しいから嫌だ』なんて言えるわけないだろ。


 俺は覚悟を決め、その発光する物体を口に運んだ。


「……ん。美味いな」


 ゲーム世界なのに美味しいと感じてしまう。


「リアルでも料理上手いし、ゲームでも料理上手なんて、すごいな瑠夏」


 素直に褒める。


 重騎士様が、目に見えてフリーズした。


 ブブブブブブッ!!!


 スマホが、これまでにない勢いで爆震する。


『エーヒレしゃあああああん!!! 瑛くんが! 私の! 毒弁当(試作)を! 笑って食べてくれましたあああ!!! しかも名前! また名前呼んでくれましたあああ!!! ああああもう無理です死にます! 今すぐ全財産を瑛くんに貢ぎたあああああああい!!!!!』


 止まんねぇな、おいっ‼ どんだけ興奮してんだ相棒。返信の隙を俺に与えろ。


 お前の愛情表現、重すぎて物理法則だけじゃなく経済も破綻させる気か。


「……ふ、ふん。……当然よ。あんたの好みくらい、把握してるんだから」


 鉄仮面の奥から、精一杯の強がりが聞こえる。


 だが、彼女の装備からは、嬉しさを隠しきれないお花のエフェクトがボロボロと溢れ出していた。


 俺は、胃の中で暴れるマンドラゴラの感触に耐えながら、遠い目をした。


 明日からの学校、この『真・幼馴染』とどう向き合えばいいんだ……。


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