第23話 祝砲のグランドレクイエム。その先に待つは幼馴染ポジション
エクレガをしたくない。そう思ったのは初めてだ。
こんなに楽しいゲームを、こう思う日が来てしまうとは。
エーヒレとしてなら楽しめただろう。エーヒレとイルカとならどれだけ楽しいか。だが、今回はAとしてログインしないといけない。
いつも楽園へ導いてくれるVRゴーグルは、今日に限っては地獄への片道切符に早代わり。
『エクリプス・レガシーへようこそ』
視界が開けた瞬間、そこはいつもの噴水広場。
この前、Aとしてログインした時、レベリングでレベルは20に上がった。装備も初期の布服から少し光沢のある『見習い騎士の革鎧』と、腰には店売りの『青銅のロングソード』に変わっている。
まぁレベル20ならこんなもんだろうと思うんだけどさ、目の前にいる奴を見ると怖気付くよな。
白銀のフルプレートに巨大な剣を背負って仁王立ちしている。俺とは違うタイプの前衛スタイル。これ、中々の廃人だぞ。
「遅かったわね」
パチンと鉄仮面を開けると、中から美少女アバターが顔を覗かせる。
イルカかいっ。
いや、おまっ、いつの間にこんなガチガチの前衛防具手に入れてたんだよ。
「……これでも急いで帰って来たんだ」
そういうと、パチンと鉄仮面を閉じた。
「そ、そう。私のために早く帰って来てくれて嬉しいわっ」
恥じらいながらもそんなことを言って来る。
なんか違和感な態度だ。
あ、そっか。ネトゲの時はエーヒレでもAでも素直になるんだ。
画面越しなら素直になれるタイプなのね。
感心していると、俺のスマホが、ブブブと震えた。
『エーヒレさん‼︎ 瑛くんが来ました‼︎ ちょっと遅かったんですよ。これ絶対、あの泥棒猫(幼馴染)とイチャイチャしてたせいですよね⁉︎』
ちげーよ。と即レスしたいのを、グッと我慢する。
「でもでも、『お前のためにマッハで来たんだぜ』とか言われたらなにも言えませんよぉ」
おのれはどんな耳してんだよ。一言も言ってねぇわ。
『どうしたら良いですか? このまま泥棒猫(幼馴染)のことを詰めても良いんですかね? それとも、このままラブラブエクレガライフを過ごせば良いんですかね?』
この流れでラブラブエクレガライフにはならんだろ。
『イルカ。まずは落ち着け。深呼吸しとけよ』
そうチャットを返してやると、目の前でイルカが深呼吸している。エーヒレに従順だねぇ。
『まずは、落ち着いて幼馴染のことを聞けば良いんじゃないかな』
悪いなイルカ。これを利用して桃ちゃんのことを説明させてもらうぜ。
「……ねぇ、瑛くん」
この子、ネトゲならほんっとうにナチュラルに呼んでくるね。つかネットリテラシーどうしたよ。
「バイト先の女の子、その、幼馴染、なのよね?」
「いや、瑠夏……それはさ……」
やばぁ……向こうに合わせて自然と名前で呼んでみたけど、これはやばい。顔あかぁ……。自分でも血液の温度上昇がわかっちまう。
「ちょっと待った‼︎」
イルカはいきなり大剣を高く放り投げた。彼女自身は地面を蹴って空中で剣を掴む。落下の勢いに自身の全身鎧の全質量を乗せ、隕石のように垂直落下してくる。
|万象を圧殺する鉄の墓標
この子はなんでこんなところで大技ぶっかましてんだが。そらみろ、そんなド派手なことしたから、悪目立ちしてんぞ。
『エーヒレしゃぁぁぁ‼︎ 瑛くんが、瑛くんが名前を、私の名前を呼んでくれましたあああ‼︎』
瞬間、青空に花火が上がる。いや、これ、あれだわ。イルカが無駄に大技出したから、周りの連中がそのノリに合わせてそれぞれ大技出してやがる。なんか大技祭りみたいなのが始まったんだが。
その大技がイルカの内面を表しているかのようだ。
「ここで本名で呼んだらダメって言ったでしょ。もう。私じゃないと縁切られてるんだからね」
どの口が言うとんねん。なんて言うと拗ねるからやめておこう。
「とにかくだ。桃ちゃんとはそんなに深い関係じゃない」
話を戻すと、鉄仮面がソッポを向いた。
「幼馴染なのに? そんなわけ──」
「幼稚園が一緒だっただけだ。小学校も中学も違う。バイト先がたまたま一緒だったってだけ」
しかも、その幼稚園も途中で向こうが引っ越したから、そんなに絡みはない。
「あ、そうなんだ」
納得しかけたけど、「でも」と拗ねた声を出される。
「名前、で、呼び合ってた……」
「名字だよ」
「へ?」
「桃ちゃんの名前は桃城環。だから桃ちゃん」
「そ、そうなんだぁ」
へぇ。あ、そう。なんて納得しながらも、「でもでも」と拗ねた声を出される。
「あっちは瑛くんをえーくんって呼ぶじゃん」
「俺の永友の名字の読み方を変えたら、えいゆうになるんだよ」
「あ、ほんどだ」
「んで、面白がって最初は俺のこと英雄って呼んでくるから、やめてくれってなって、えーくんになった」
と思う。幼稚園の時の記憶だし、曖昧だが、だいたいこんな感じだったと思う。
「名字呼び……」
「そうそう。お互い、名字の名前呼びなんだよ」
イルカは大剣を忠誠を誓う騎士のように構える。剣からエネルギーの塊が出て来ると、それを天空に向かって撃ち放つ。
『終焉を穿つ鉄の咆哮』
物凄いエネルギー波が天空を破った。
『エーヒレしゃぁぁん‼︎ 色々解決しましたあああ‼︎ 瑛くんの幼馴染は幼馴染じゃないっぽいし、名前の呼び合い方も、名字呼びでしたああああ‼︎ これ、もはや私が幼馴染ですよね⁉︎』
『幼馴染ではないけど、まぁ良かったな』
『今後は幼馴染キャラ出せば良いですよね⁉︎ だって、私達は名前で呼び合っているし、高校も同じだし‼︎』
『ちがうよ。それは違うよ』
「瑛くんっ」
話聞けよっ。
この子は鼻息荒くして、剣を突き立ててくる。
「覚悟しなさいっ」
これ、俺が事情を知らなかったら、いきなり大技ぶっ放して剣を突き立てて来るベテランって構図で、めっちゃ怖い状況だろ。
……。
…………。
いや、待って。これ待って。
なにを覚悟すんの?
まさか幼馴染ごっこがはじまんの?




