第21話 歴史館でのエンカウントは更なる地獄への門出
雨の日は別に嫌いじゃない。とかなんとか言うと中二病臭いな。
でも、本当に嫌いじゃない。なんか、こう……なんていうか、文学的になる? みたいな感じ。ちょっとエモさとかあるじゃん、なんとなく。
でも、今日に限っては雨は嫌いになりそうだ。
「おぃぃ、なんで雨なんか降ってんだよぉ‼︎」
校門前に止まった複数の大型バスの前で、一軍陽キャ集団のリーダー格である山路勝利が嘆きの声を出す。
本日は遠足の日。本来ならBBQだった予定が歴史館に変わった。それにより、一軍陽キャ集団のテンションは奈落の底であった。
別にこいつらのテンションなんてどうでも良いんだけどさ。
「おぃぃ、永友ぉ……晴れ乞いしろよぉ」
こうやって、変な絡み方をされるのが面倒くさい。
「手本見してくれよ」
「んぁ? あー、こう……」
山路は踊り出した。ナ◯トダンスやん。
「ぎゃはは‼︎ えぐいえぐい‼︎ えぐいえぐい‼︎」
「勝利、キレッキレ‼︎」
続いて一軍陽キャ集団も山路のダンスに加わり、現場はカオスになる。
付き合いきれん。さっさとバスに乗ろう。
「えーちゃんはダンスしないの?」
適当な席に腰掛けると、隣にペーペーが座る。
「バカ言うなっ。なんで俺が踊らにゃならん」
「あはは。遠足だからはしゃいでんだねぇ。山路も悪い奴じゃないけど……なんか高デ感が否めないよなぁ」
「高デでもなんでも、今、ああやって青春してるんなら良いじゃないか。俺にさえ危害がなけりゃなんだって良いよ」
まぁ、ちょこちょこうざ絡みがあるが、別に怒るまで達しない。
「危害って言えば……その……えーちゃんに相談があるんだけど……」
ペーペーはキョロキョロと周りを見渡した後、こっそりと言ってのける。
「青井さん、なんだけど……」
ドクンと心臓が鳴った。チラリと青井瑠夏の方を見ると、目が合ってしまう。
いや、エーヒレとしてちょっと意識はしてしまうよね。
瞬間的に目が合ったので、いつもの魔王みたいな顔ではなく、綺麗な顔と目が合ったため、更に俺の鼓動が加速しちまった。魔王になる前に目を逸らし、ペーペーとの話しに戻る。
「青井さんがどしたん?」
「いや、その……ここ最近、謎絡みがあってさ、いきなりポエムぶちかましたかと思ったら、俺の三半規管を潰しに来て……そっから、絡み方が普通に戻ったんだよ。俺……なにかしたのかな……」
ごめん。全部俺のせい。
なんて素直に言うと話がややこしくなる。
「……青井さんも色々とストレス溜まってんじゃない? 学園のアイドルだなんだとか言われて」
「なるほど。だからえーちゃんを下僕呼ばわりしたり、俺へ謎絡みをしたりした、と。青井さんも大変だぁ」
なんとかペーペーが納得してくれた。まぁ謎ポエマーとしての誤解は解けなかったが、これ以上踏み込むのは事態の悪化を招くことになる。許せ、青井瑠夏よ。
♢
BBQでテンションが奈落だったにも関わらず、バスのエンジンがかかった途端、彼等のテンションにもエンジンがかかったみたいで、車内は騒がしくなる。
今から歴史館に行くとは到底思えないが、まぁ、遠足という非日常体験に違いはないから、はしゃぐのはなんとなくわかる。
ペーペーと、BBQの合間に食べるはずだったお菓子を交換。
プロテインバーをかじりながら、そういやコイツは筋肉に憧れがあったなぁとか思いつつ、歴史館に到着。
「はーい、みなさーん。他のお客さんの迷惑にならないようにしてくださーい」
担任の先生の注意事項を聞いたら、歴史館へ。
中に入ると自由時間。
自由時間っつっても、どうやって時間を潰したら良いのやら。
ペーペーはバスケ部仲間達と行ってしまった。ちくしょう。同中より、部活仲間かよ。ま、今の仲間が大事だよね。
それにしても、俺達の他にも制服を着た学生集団を見かける。
もしかしたら、俺達と同じく、雨でここになった連中かな。しかし、どっかで見たことあるような制服だな。ま、制服なんてどこも似たり寄ったりか。
「──ふむ。なるほど」
結局、ぼっち行動となったもんだから、歴史館を堪能。歴史の成績は別に普通だが、こうやって改めて見ると感慨深いもんだね、こりゃ。
「ちょっと、きみ」
もはや聞き慣れた声に振り返ると、そこには青井瑠夏が立っていた。
「ちゃんと勉強してる?」
「おのれは先生かっ」
「や、そ、そうじゃなく……」
青井瑠夏はスマホを取り出し、高速でタップしていた。すると俺のスマホが震える。
『エーヒレさん……実は遠足が雨で歴史館になっちゃったんです。それでですね、友達と逸れたら瑛くんとエンカウントしたです。ワンチャン一緒に回りたいんですけど会話が続かないんです‼︎ 助けてください‼︎ 歴史館の名前は──』
この量の文章を瞬時に──お前は生成AIかなにかかな?
彼女がスマホを眺めているうちに、俺はこっそりと返す。
『そこの歴史館の刀は記憶を喰う』
へへ。ちょっとしたイタズラ心だ。まぁ、流石に適当ぶっこいでいると思うだろうが。
『記憶、を?』
おっと。信じちゃってる?
『ああ、だから持ち主は無敵だ。なんだって記憶を喰っているんだからな』
『そんなエクレガみたいな刀が現実に……さっすがエーヒレさん‼︎ ありがとうございます‼︎』
……マジで信じた?
「きみ。スマホを見ている場合じゃないわよ。ほら、ここにある刀。この刀は記憶を喰べるらしいわ」
──ごめんイルカ。お前は無条件に俺を信用してくれているんだな。今度レアアイテム送るよ。
「あっはは‼︎ んなわけっ‼︎」
俺達の後ろから、ケタケタと笑う声が聞こえて来る。
「あ、桃ちゃん」
「やっほ、えーくん」
そこには見知ったサイドポニーの女の子が制服姿で立っていた。
「も、も、ちゃん……えーくん……⁉︎」
隣で青井瑠夏が驚愕の声を出していた。
こりゃ壮大な勘違いをしているに違いない。
「あ……やばっ」
青井瑠夏の反応に気が付いた桃ちゃんは、すぐさま、「ごめんね」と手を挙げた。
「またね」
流石は空気読める系JKの桃ちゃん。青井瑠夏の反応を見ただけで、すぐさま去って行った。
まぁそれなら最初から絡んで来るなって話だが、まさか俺が青井瑠夏と一緒しているとは夢にも思っていなかったのだろう。それはそれで失礼な話だが。
桃ちゃんが去った後、瑠夏はスマホを握りしめたまま、般若のような形相で俺を凝視していた。
「……今の、誰?」
「ひっ‼︎」
やばい。やばいやばい。
青井瑠夏が般若のような顔になってる。怖すぎる。
「誰って聞いてんだけど」
「あ、いや、そのバイト先の──」
「……バイトぉ?」
──声が低い。冷房の効いた歴史館の気温が、さらに五度くらい下がった気がする現場で、俺のスマホも震え上がっている。
『エーヒレさん!!!!! 事件です!!!!!』
『瑛くんに、私以外の……私以外の「女」が接触してきました!!!!!』
『バ先の女らしいですけど、瑛くんのこと名前で呼んでるし!! 私、聞いてません!! 許せません!! エーヒレさんが教えてくれた刀で叩き斬ってもいいですか!!?』
イルカの怒涛のチャット。目の前の青井瑠夏の顔がやばいことになってる。
俺は、スマホを握る手の震えを必死に抑えながら、絶望的な気分になってしまう。
まぁたややこしいことになっちまったなぁ。




