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第2話 恋の作戦会議。攻略対象は俺らしい

「あの、エーヒレさん? 聞いてます?」


 消え入りそうなイルカの声が聞こえてくる。


 リアルの青井瑠夏からは想像もつかない、守ってあげたくなるような可憐な響き。


 目の前でアバターをいじいじさせている小柄な魔法使い。


 こいつの「中身」が、さっき教室で俺のことをゴミでも見るかのような目で見て来た、あの学園のアイドル青井瑠夏?


 ……いや、待て。落ち着け、俺。


 イルカ=青井瑠夏が確定したわけじゃない。


「あ、ああ。聞いてるよ。えっと、その……永友瑛くん、だっけ? が好きなんだよな。参考までにどういうところが好きなんだ?」


「ええ……聞いちゃいますぅ?」


 もじもじとさせながらも、まんざらでもないと言わんばかりにイルカが答えてくれる。


「まず見た目が超タイプなんです。落ち着いた感じで、ザ・クールな男子でぇ」


 落ち着いた感じのザ・クールって、これ、ワンチャン俺じゃなくない? 主観的に見ても、客観的に見てもクールなんかじゃない。同姓同名か?


「でも見た目とかはどうでも良くて、人で判断しないんですよ。誰が相手だろうと、態度を変えないところとか、超良いって感じです」


 ……一応、自分のプライドとして、そういった姿勢で生きているつもりではある。


「てか、永友くん窓際の席なんですけど、朝とか太陽の日差し浴びてると、まじで神降臨って感じで、こっちサイド浄化しそうになるくらいしゅきなんですよね」


 窓際の席の永友くんは、もう俺だな。これ、もう俺で間違いないな。


「もう毎日しゅきが更新されてしゅき無双状態なんですっ。我ながらよく心臓が耐えてくれてると思いますよ、ガチめに」


 なんだよしゅき無双って。てか、毎日しゅきが更新されてんの? 俺、なんかしたんか?


「でもでも、さっきも言った通り、今日も失敗しちゃって。ノートを奪い取るみたいに受け取っちゃったんですぅ」


 奪い取るみたいに、だと? ありゃスケバンのカツアゲの所作だったぞ。完璧にこっち側が刈られる側だったわ。


 俺の心の中のツッコミなど知る由もないイルカは、熱っぽく語り続ける。


「本当はですね、『永友くん、ノートありがとう。なんなら先生のところに一緒しよ♪』って、笑顔で言いたかったのに‼ エーヒレさん、どう思います? 今の私、永友くんから見たらただの嫌な女ですよね?」


「いや、まあ。嫌な女というか、ちょっと怖かった」


「うわぁぁぁん! やっぱりぃぃ!」


 イルカのアバターがその場に泣き崩れる。


 現実なら「自業自得だろ」と切り捨てられるのに、このしおらしい態度を見せられると、どうしても毒気が抜かれてしまう。


「でも、まあ。その永友ってやつも、別に怒ってないと思うぞ。ノート出しただけであんなに美少女に話しかけられたんだ、役得だろ」


「本当ですか⁉ ……ん? 美少女って……なんだか私のことを見たことあるような言い方ですね」


「や、ややっ‼ あれ、声。そう、声が明らかに美少女だったから‼」


「わぁい、ありがとうございますっ♪ エーヒレさんに褒められるとめっちゃ上がります♪♪」


 イルカは立ち上がると、今度は拳を握りしめて鼻息を荒くした。


 急なテンションの切り替わり。これ、現実で俺に詰め寄ってくる時の勢いに似てる気がするな……。


「よっし。自信めっちゃついたから、明日こそは永友くんとの距離を縮めたいと思います。そこでエーヒレさん。なにか作戦ありませんか?」


「え、さ、作戦……?」


 作戦ったって……自分を落とす作戦を自分で組むとか、なんかなんとも言えない気分になるんだけど……。でも、ここで変なこと言うのも気が引ける。


「りょ、うり、とか?」


 わぁぁん。俺の恋愛遍歴のなさが丸わかりになる。料理なんて仲がもう少し深まってからだろうに。でも、これ以外思い浮かばない自分の浅はかな人生が嫌になる。


「なるほど。胃袋を掴む作戦ですね。わかりみが深すぎて、マリアナ海溝まっしぐらです」


「ごめん。深すぎて意味が浮上してこないわ」


「恋は盲目、ですよ」


「その例えはマリアナ海溝に沈めとけ」


「そんなマリアナ海溝より深い人間の永友くんってなにが好きなんだろ……参考までに、エーヒレさんの好物ってあります?」


「俺の好物……ラーメン、とか?」


「なるほど。次郎系で攻める感じですか……家庭科室借りれたかな……」


「わーわー‼ まった、まった‼ 本気で作る気か⁉」


「あ……そうですよね」


 流石に冗談というか、学校でラーメンはないとわかってくれているみたいだな。


「学校で次郎系は流石に、ですよね。京都背油醤油くらいにあっさり度を下げておきます」


「そうじゃねーよ」


 普通にツッコミを入れてしまった。


 んで、なんでこの子は、「はい?」と心底不思議そうに見てくんのよ。まじでラーメンを作ろうとしたの?


「玉子焼き。そう、玉子焼きが良いと思う。好きとか嫌いとかないだろ」


「なるほど‼ お弁当の定番‼ 流石はゲームでも無難な立ち回りのエーヒレさん。コメントも無難です」


 それは褒めていないだろうけど、テンション的には褒めている気でいるようだ。


「さっそく今日、お母さんに頼んで最高級の卵を仕入れます。ごめんなさい、今から準備するので、今日はこれで落ちますね」


 大きく手を振るイルカは、目の前から消えていった。


「大丈夫なのだろうか」


 ……。  


 …………。  


 これ、明日、俺はお弁当を渡されるということになるのか?  あの学園のアイドル青井瑠夏から?


 クラス全員の前で? 男子全員の殺意を買いながら?  


 ど、どど、どうすんの、これ……。俺の平穏な学生生活、明日で爆散するんじゃね?

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