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第11話 ご注文は顔面にエスプレッソで

「ご注文は?」


 俺が伝票を構えて催促すると、一軍キラキラ女子達がメニューを指差しながら楽しそうに騒ぎ出した。


「私はパンケーキセット。ドリンクはアイスラテで!」


「私は季節限定のフルーツタルト。永友くんのおすすめって何?」


「そうだな……マスターが今朝焼いたスコーン、かな」


「おー、じゃあそれ‼︎ 意識高い‼︎」


「乃亜が意識高いとかウケる」


 三人の注文をテキパキと捌いていく。その間、瑠夏だけはメニュー表に顔を埋め、時折、こちらを見ては迷子みたいな顔になっている。


「青井さんは後にする? ゆっくり決めてくれて良いよ」


「は、はあ? なに気を使ってくれてんのよ」


「店員だからな。気くらいは使える」


「て、店員じゃないから。きみは、私のす──」


 なんか勢いで言いかけてやめた青井瑠夏は、メニュー表をパタンと閉じてから睨み付けてくる。


「きみは私の下僕なんだから、相応しいものを持って来なさい‼︎」


 お。初めて下僕扱いしてくんじゃん。


 俺としては感心なんだが、他の三人が、「ごめんね、永友くん」みたいな顔をしてこっちを見る。


 いや、良いんだ。下僕宣言したのに、青井瑠夏自身が下僕みたいになっているより幾分かマシだから。


「ではエスプレッソをご用意します」


「え……?」


「では少々お待ちください」


 ふふふ。イルカよ。お前がさっきチャットで所望したエスプレッソを持って来てやろう。ここのエスプレッソは苦いぞぉ。


 くっくっくっ。と内心ほくそ笑んでいると、またチャットが入った。


『エーヒレさん。私と永友くんは以心伝心みたい‼︎ 私がエスプレッソを欲していたら、彼からエスプレッソを提案してくれました‼︎ やばぁ……私達の甘い愛にはエスプレッソの苦味が必要ですよね‼︎』


 そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ。


 ♢


 青井瑠夏は学園のアイドル。


 バイト先のカウンターから見ると、それを思い知らされる。


 気の知れた仲間達と楽しそうに話しをしている彼女の姿はまさにそれだ。


 四人でコーヒーを飲んでいる姿なんて、絵になって仕方ない。これこそ盗撮してネットに流せば大バズりするだろう。つうか、ここの店のエスプレッソは超苦いのに、よくもまぁあんなに優雅に飲めるな。


 俺にだけ見せるあの不機嫌な顔なんてまるで感じさせない。


 あれこそが、本来の青井瑠夏の素顔。


 つうか、あそこの四人テーブル席だけ次元が違うんだけど。眩し過ぎて直視できんわ。


「瑛くん。手、止まってるよ」


「あ、すみません、マスター」


 カウンターでコップを拭いている手が止まっていることを注意してくれるマスターの黒鉄さん。初老の渋い感じだが、その奥には大人の余裕と優しさが感じられるダンディな人だ。ただ、マスターと呼ばないと反応してくれないのがたまに傷。


「あの子達は友達かい?」


「いえ……ただのクラスメイトというか……なんというか……」


 あの一軍キラキラ陽キャ女子達を友達だなんて言える根性はない。けど、イルカは相棒だし……むむむぅ。


「そのクラスメイトというかなんというかな微妙な関係の子達がとんでもないことになっているぞ」


 マスターが女子達の方へ指をさすので、視線をキラキラで眩しいテーブル席に向ける。そこはキラキラとは程遠く、お祭り騒ぎになっていた。


「げほっ‼︎ ほっ‼︎」


「ちょっと瑠夏、大丈夫⁉︎」


「ああ……なんか拭くもの、拭くもの」


 あ、やっば。あの子、苦いの苦手かよ。


「瑛くん」


 マスターがこちらへタオルを手渡して来る。


「行ってあげて」


「はい」


 これは俺が悪いなと思い、一軍キラキラ女子達のところへ駆け寄る。


「大丈夫⁉︎」


「あ、永友くん」


「ごめんね、瑠夏がいきなり吹き出したんだよ」


 けほっ、けほっとむせている。


 やばいやばい。俺がちょっとした悪戯心で渡したせいで、青井瑠夏が苦しんでしまっている。


「大丈夫、青井さん」


 心配して反射的に背中をさする。


「だ、大丈夫、よ。だから、その、手を離しなさい」


「あ、ごめん」


 やばいやばい。易々と女の子の背中に触れてしまった。こっちの方がだめなことだよな。


「商品変えるよ。俺が奢るからさ」


 罪悪感からそう提案するが、青井瑠夏のプライドなのかバッサリと切られる


「ちょっと、なにかしらのなにかが気管に入っただけだから。こんなの余裕よ」


 グイッとエスプレッソをグイッと。


「ぶっふぁ‼︎」


 ……。


 …………。


 数秒、店内に静寂が訪れる。何が起こったのか。


 青井瑠夏が口に含んだ全てのエスプレッソが俺の顔面にかかったんだな。


 お前はプロレスラーかなにかなの?


「ちょ、ええ⁉︎」


「永友くん⁉︎」


「大丈夫⁉︎」


 一軍キラキラ女子達が心配してくれる中、青井瑠夏は、その場であわあわしている。かと思うと、ふんっと鼻を鳴らした。


「わ、わたわた、わたがしみたいな、ふわふわの私からエスプレッソをかけてもらってありがたく思いなさい‼︎」


 確かにとある業界ではご褒美かもな。でも、俺はまだその領域には達していない。


「ありがたくは思わないが、全然大丈夫だから、気にしないで」


 もともと、俺がエスプレッソなんておすすめしたのが悪いんだ。


 バックヤードに向かいながら持っていたタオルで顔を拭くと、ブブブとスマホが震えた。


『エーヒレさん……私、やらかしました……もうお嫁にいけません』


 一応、反省はしてんだな。つうか、お嫁にいけないのは俺なんだが。いや、俺はそもそもお嫁に行く気はないけども。


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