第10話 反省文は家宝⁉︎ 嵐のような登校と秘密のバイト先
いつもの通学路がちょっぴり違って見えた。それは俺の目が充血しているからではない。
夜中に必死こいて反省文を書いていたんだよね。そんなもんで寝坊しちゃったから、いつもの通学路に人が少ない。
「──って、まずい」
スマホで時計を確認すると、今、まさに学内では朝の予鈴が鳴っている時間帯。本鈴まで残り五分。
俺は朝からダッシュする羽目になってしまった。
「──ぜぇ、はぁ……‼︎」
災難だ。朝から本当に災難。汗かいちまった。
だけども、遅刻は免れたぜ。
「ちょっと、きみ」
教室に入った時、ドア側で固まっている一軍キラキラ女子達の中から、青井瑠夏がやって来る。
「ちゃんと持って来たんでしょうね?」
「ん? あー、反省文か。安心しろ。ちゃんとやったから」
それにしてもこいつも俺と同じ時間にログアウトしたってのに、なんで平気な顔してんだ? これが一軍キラキラ女子に与えられたチートということなのか?
「貸しなさい。私がまとめて出してあげるわ」
「いやいや。一緒に行けば良いだろ」
「な、なな、なんで私がきみと一緒に行かないといけないのよ‼︎」
青井瑠夏は嫌悪感丸出しの声出した。
「下僕なんだから、さっさと渡しなさい」
「下僕だったら俺が出しに行くと思うんだが」
こいつにそんなことを言っても無駄か。と思いつつ、袖で汗を拭きながら、鞄より反省文を出す。その時、原稿用紙が汗の滴で汚れてしまった。
「あ、ごめん。汚いよな……やっぱり自分で──」
「良いから貸しなさい‼︎」
青井瑠夏は原稿用紙をひったくるように奪った。
「そ、それから……これ、貸してあげる、わよ」
言いながらスカートのポケットより、ハンカチを取り出して渡してくれる。
「あ、りがと」
面食らっていると、「勘違いしないでよね‼︎」と釘を打たれる。
「下僕が汚いとかあり得ないから。私の下僕ならもっと美意識持ちなさい‼︎」
ふんっと大きく鼻を鳴らすと、女子グループの中に戻る。「瑠夏言い過ぎー」とかなんとか聞こえてくるが、青井瑠夏はその言葉を聞いちゃいないみたいにスマホを触る。
登校した瞬間から嵐みたいなことが起こったなぁと思いながら席に着くと、俺のスマホが嵐のように震える。
『や、やや、やばいです、エーヒレさん』
『朝、朝朝、朝、永友くん、いつもより遅いなぁって思ってたら、遅刻ギリギリで』
『汗だくだったんです‼︎』
やめて恥ずかしいから。
『その汗が反省文に付いて、ゲットしちゃいました‼︎ これ、もう家宝にします‼︎』
そんな汚いものを家宝にするな‼︎
『しかもしかも‼︎ 私、自然に彼へとハンカチを渡して、良い女アピールできました‼︎』
良い女アピール? 厳しめのしつけの間違いでは?
『今日は朝からラッキーです』
俺は不幸だよ。
なんて思いながら、青井瑠夏から借りたハンカチで汗を拭う。
……。
…………。
なに、これ。めっちゃ良い匂いする。
この匂いを嗅げた俺もラッキー、なのか?
♢
どうやら反省文は本当に提出してくれたみたいで、クロマティからのお咎めも特になかった。
放課後。
今日はエクレガへのログインはお預けだ。今日は隣町のカフェでバイトがある。
なんでわざわざ隣町まで来なきゃならんのだ、と自分で選んだバイト先だってのにグチグチと愚痴が出てしまう。
というのも、地元じゃほとんど高校生を取ってくれない。コンビニも、ファミレスも、回転寿司屋やラーメン屋も、全部大学生から。スキマバイトアプリも地元じゃ募集してないし、不遇過ぎるだろ。
そこまでしてバイトを探す理由はただ一つ。エクレガへの課金だよ、課金。まぁ、エクレガは課金で強くなるんじゃなく、衣装とかそこら辺のみの課金だけども。
とにかく、バイトを探しまくっていたら、この隣町のカフェに辿り着いた。
個人経営で昔からやっている喫茶『アシンプトート』
アシンプトートは限りなく近づくけど、決して交わらないって意味らしい。それ、接客業なのに良いのか?
マスターの小日さんにバイト募集の紙を見て来たことを言うと、「あ、剥がし忘れてた」って言われて絶望したっけ。
でも、「まぁ、せっかく来たし、働く?」みたいな軽いノリで働かせてもらうことになった。流石は個人経営。わたあめよりノリが軽い。
「あはは。アシンプトートなのに交わっちゃったね」なんて言われたっけ。軽過ぎてすべってますやん、マスター。
ここで働かせてもらって一年以上。随分と仕事には慣れてきた。
「いらっしゃいませ。一名様ですか? どうぞ、カウンター席へ」
お馴染みの制服に着替え、接客をこなす。
ここは結構カジュアルなカフェで値段も抑えめだから学生も多い。
「やっぱ予想通り。ここ、内装めっちゃ可愛い」
「本当だ。愛莉の言ってたカフェ、当たりだね」
カランカラン、とドアベルが鳴り、聞き覚えのある声が店内に響いた。
「……なっ⁉︎」
俺は固まった。
赤山愛莉、黄原莉乃、緑川乃亜。
そして──。
「……瑠夏? 何かあった?」
「……い、いえ。なんでもないわ」
一番後ろに立つ青井瑠夏とガッツリ目が合ってしまった。
いや、お前……昨日「リア友と遊ぶ」って言ってたけど。言ってたけども。よりによって俺のバイト先に来んのかよ。
ここ、隣町だぞ。
「いらっしゃいませぇ」
おそるおそると言った様子で学園の一軍キラキラ女子達の方へ接客すると、「あ」と赤山愛莉が声を漏らした。
「永友くんじゃん。なにしてんの?」
「いやいや莉乃。明らかに永友くんのバ先でしょ」
「だよねー」
「そうそう。俺のバ先だ。テーブル席に案内しますよー」
「「「はーい」」」
三人だけ返事をして、青井瑠夏は黙って席に座る。
彼女達にお冷を持っていくと、緑川乃亜に尋ねられる。
「え、待って。もしかして永友くんと愛莉って地元一緒?」
「うそ。初耳なんですけど」
あ、なるほど。ここは赤山愛莉の地元か。それでみんなでやって来たって感じかね。
「いや、俺の地元でバイト募集が全然なくてな。わざわざこっちまで出稼ぎ」
「へぇ。えらーい」
「やばぁ、そんけー」
「ウチらじゃ考えられん」
一軍女子達が俺のことをチヤホヤしてくれるんだけど。このキラキラ陽キャ軍団って、めっちゃ良い奴らなのかね。
「ね、瑠夏」
そこで話を振られた青井瑠夏は、「ぎょ⁉︎」と反応する。お前の焦った時の声、それで統一なん?
「ふ、ふんっ。制服似合って超かっこいいとか思ってるから‼︎」
「思ってんのかい‼︎」
「あ、やばっ」
慌てて口を塞ぐ青井瑠夏だが、「確かにー」と他の女子が賛同してくれる。
「永友くんの制服姿かっこいいじゃん」
「高校もそれで来なよー」
あははー‼︎ なんてJK特有のキラキラパワーで押されてしまう。
彼女達が適当に注文をしているところで
──ブブブブッ!!
エプロンのポケットに入れていたスマホが、マナーモードを突き抜けるほどの振動を見せた。
『エーヒレさぁぁぁん!! 事件です!!』
『今、リア友に連れてこられたカフェの店員さんが、永友くんだった件‼︎』
『黒のサロンエプロンとか、反則すぎて心臓がオーバーヒートしました!!』
『隠し撮りしてもいいですか!? 犯罪ですか!? 犯罪ですね! でも、この姿を保存しないのは人類の損失です!! 私は法を犯してまで永友くんを撮らないといけません‼︎』
……。
…………。
メニュー表の下からスマホを構えている瑠夏と目が合う。
俺は、彼女にだけ聞こえるような小声で、一言だけ告げた。
「当店は盗撮禁止です、お客様」
「ひゃふっ‼︎」
彼女の悲鳴に近い声に、他の三人が首を傾げる。
「ごめっ。なんでもない」
そういうと、神速でスマホを打つ。
『永友くんの甘い声が脳内に響きました。まさにこれぞ犯罪級‼︎ エスプレッソを……エスプレッソをおおお‼︎』
俺の声、そんなに甘いかね。




