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「フリーダにはとにかくのびのびやってもらうのを前提としてだ、それでもこちらが『大地改変生成の魔法石』の力を持った以上、戦略も変わって来るだろう? ゲルハルト。『ゲリラ戦』の大方針は変更だな?」
「ははっ」
大将軍ゲルハルトは熱血でもあるが、冷静な戦略家でもある。ハインリヒの問いに即座に回答する。
「条件が変わった以上、国民を流民にせざるを得ないというゲリラ戦という大方針は変更です。兵力の大半をもって国境沿いの山岳地帯でブロイ帝国軍を迎撃します。残る国民は持てるだけの食糧を持って、王城に入ってもらいます」
「ほう。だいぶ変わったな。山岳地帯での迎撃で勝算は立つのか?」
「…… 正直五分五分と言ったところです。現地の地形は我々の方が知悉している。そして、ブロイ帝国軍は我々が『大地改変生成の魔法石』の力を持ったことを知らない。緒戦は大打撃を与えることが可能かと思われます」
「緒戦は勝てる? ではそのままで行けるほど甘くはないってことか?」
「御意」
大将軍ゲルハルトは大きく頷く。
「大打撃を与えて、相手が戦意喪失してくれれば、我々の勝ちです。しかし、そうでなかった場合、やはり国境の山岳地帯で防戦を続けるのは難しい。数が違いすぎますからな。その場合はこちらは引いて、王城に籠る。その上で『大地改変生成の魔法石』の力も駆使し、敵兵力を削る」
「以前、そのパターンだと他の三国の介入を招くと言っていなかったか? ガリア、ホラン、ベルクの」
「そう。ブロイ帝国軍が電撃的に勝てず、戦況が膠着化したとなると乗り込んでくる可能性は高い。しかし、その場合、襲撃されるのは我々ではなく、ブロイ帝国軍」
「!」
「他の三国からするとライバルのブロイ帝国軍に大打撃を与える好機。しかもブロイ帝国がこの地に要塞を建設することを効率的に阻止できる。襲撃しない手はありませんな」
「その場合、他の国の軍がブロイ帝国軍を撃破した後、そのままこの王城を落としにかかる懸念はないのか?」
「それはないとは言えません。しかし、ブロイ帝国軍との戦闘でそれなりにダメージを受けているはず。そこに『大地改変生成の魔法石』の力を軸に反撃し、追い払いましょう」
「分かった。それでいこう。フリーダ。初めての戦は怖いだろう。でも俺が必ず守るから、安心して全力を尽くしてくれ」
ハインリヒの言葉にフリーダはその左胸に耳を付けたまま頷いた。
◇◇◇
大将軍ゲルハルトとハインリヒは集まった兵たちを見回した。女性宰相アンネリーゼの広報が功を奏したか、おっさん殿下ハインリヒの人徳か、予想以上の兵が集まった。
ただ、普段から訓練された専門兵ではない。急遽参加した者の多くは、持参した武器である剣は赤錆が浮いていたり、強烈な一撃を受けたら折れていまいそうだったりする。
いわば専門兵と雑兵が混在した状態だが、大将軍ゲルハルトはこの状況をよく理解していた。
「これから訓示する」
整列した兵たちの前にゲルハルトは立つ。その後方に「大地改変生成の魔法石」を持ったフリーダ。それを支えるハインリヒ。更にそれを守る神獣ネル。その脇にアドバイザーとしての魔法大臣ヨハネス。但し、後方までは兵たちには見えない。
「今回の戦だが、敵を倒した数は問わない。むろん倒せるものは倒していいが決して無理はするな」
ざわっ
場がざわめく。だがゲルハルトはかまわず続ける。
「今回最も大事なのは軍用ラッパの指示に忠実に従うことだ。すなわち『進軍』ラッパが鳴ったら、すぐに進め。『撤退』のラッパが鳴ったら、敵兵をもう少しで倒せそうでも速やかに引き上げろ。特に『撤退』の指示には必ず従え」
ざわざわ
「『撤退』の指示に従わなかった者はたとえ何人敵兵を倒そうとも評価しないし、その後、敵兵に囲まれても助けには行かないし、行かせない。このことを肝に銘じておけ」
「「「「「ははっ」」」」」
◇◇◇
ロートリンゲン王国軍と対峙するブロイ帝国軍を指揮するのはリヒャルト。獅子のたてがみを思わす豊かな金髪の持ち主で第四皇子であった。
現皇帝の皇子の中ではもっとも優れた資質の持ち主とも見られていた。にもかかわらず皇太子候補から外されたのは兄たちと比べ年齢が低いという理由ではなく、生母の身分が低いことにあった。
三人の異母兄がいずれも正室である皇妃の所生であることに対し、リヒャルトの母は侍女として出仕していた男爵令嬢だったのである。
母も側室となり、侍女の任は解かれたか、生家の政治力の差は歴然としていて、リヒャルトは生まれた時から立太子の対象外という扱いだった。
だが、リヒャルトはその処遇にまるで納得はしていなかった。そのことを象徴する一つの出来事がある。
貴族学校時代、一人の伯爵令息が第二皇子の見ている前で、リヒャルトのことを嘲笑した。「いくら学業や武術にいそしんだところで、母親が男爵家の出じゃあ、やるだけ無駄だ。やめちまえ」と。有力な皇太子候補と言われる第二皇子に媚びを売りたかったのだ。
次の朝、貴族学校に件の伯爵令息から療養のための休学届が提出された。伯爵令息のお付きの者も長期療養になったという。
伯爵令息は泥酔して転倒したと主張したが、どう見ても暴行を受けたとしか思えない状況だった。しかもお付きの者もそんな状況だったのである。
伯爵夫人は激高し、犯人捜しをしようとしたが、当の伯爵令息は必死で止めた。
「やめてくれ。そんなことをしたら、あいつは伯爵家全員の命を狙ってくる。あいつはそういう奴だ。今回俺は闇討ちでケガをしただけで済んだのはむしろ幸運だった」
ここまではいかなくともリヒャルトの武勇伝は他にもあり、ついた二つ名は「金色の暴れ獅子」だった。




