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「だーっ、そんなんじゃねえって言ってるだろっ!」
声を張り上げるハインリヒ。その状況にフリーダは一向に動ずることなくハインリヒの左胸に耳を押し当て続けている。こうしていれば無条件に落ち着くらしい。
「とにかくだな」
真面目な顔をするハインリヒ。しかし、左手でフリーダを抱え込んだままである。
「『大地改変生成の魔法石』の力が手に入ったとはいえ、まだ今回の大戦に勝ったわけじゃあない。そして、『大地改変生成の魔法石』の力が手に入ったことで、我が国の戦略も全面的に変わって来るはずだ。その協議も必要だろう」
「「「「はっ」」」」
国を守る気概を貫く摂政ハインリヒ。それを囲む閣僚たちはツッコむべきところはツッコむが、みな有能だ。
◇◇◇
「何と。そなたはあの魔法医マリーアさんのお孫さんだと言われるのか?」
驚きの表情を浮かべる魔法大臣ヨハネス。
「はい……」
人見知りの性格そのままに小さな声で答えるフリーダ。未だにハインリヒの左に引っ付いたままである。
「マリーアさんには、在野にもこれだけの実力者がいるのかと本当に驚かされたものだよ。あまりご自分のことを語りたがらない方だったが、そうか。あの方も渓谷の魔女だったのか。その後、マリーアさんはどうされたのかな?」
「祖母は、母が渓谷から出ていくまでは時折戻ってきてくれましたが、今はどこにいるのかも分からないんです」
「そうだったのか」
感慨にふける魔法大臣ヨハネス。しかし、すぐ首を振って、前を向く。
「そなたとはゆっくりマリーアさんの思い出話をしたいが、今は事態が切迫しておるのでな。『大地改変生成の魔法石』について教えてもらいたい。地割れや土砂崩れを起こす力があるというのは本当なのかな?」
「地割れは本当だ」
ハインリヒは実体験を語る。
「俺自身が落とされそうになったからな。フリーダ。あの地割れはもっと大きく出来るのか?」
「それは……できます。あの渓谷に入ってきたのはハインリヒ様が初めてではありません。『渓谷の魔女』の噂を聞きつけたよからぬ者は地割れに落としていました。私も母も。
もっと大人数で来た時は、もっと大きな地割れも作りました」
「それは頼もしい」
孫を見るかのように目を細める魔法大臣ヨハネス。
「では土砂崩れも起こせるのかい?」
「それは……やってみたことはありません。でも……がんばります」
緊張の面持ちで答えるフリーダ。
(しまった。ちょっと焦って聴きすぎたか。緊張させてしまったか)
そう思う魔法大臣ヨハネス。
この状況下で素早く動いたのはリザードのネルだった。
フリーダの左肩に飛び乗り、一声「キイイイイ」と鳴くとフリーダの左ほおを舐めた。
(参ったな)
ハインリヒは内心苦笑した。
(アンネリーゼたちがけしかけてくれるもんで、フリーダは俺のことを一番信頼してくれているもんとも思ったが、やはり長い間苦楽を共にしたネルには敵わないか)
ところがネルは不意にフリーダの左ほおを舐めるのを止め、「キイキイ」としきりにハインリヒに向かって鳴いた。
「何だ? 何が言いたいんだ? ネル」
「殿下……」
女性宰相アンネリーゼが仕方ない人だという表情でハインリヒを見る。
「ネルは殿下にフリーダちゃんを励ましてほしいんですよ。さすがは『神獣』ね。殿下よりよほど女の子の気持ちが分かっているようですよ」
「ん? ん? そうか」
アンネリーゼの言葉でネルが何を言いたかったのかは理解したハインリヒだが、かと言って、こういう時にどういう言葉をかければいいのか、さっぱり分からない。この辺が「おっさん殿下」と言われる所以である。
「あーまーそのーなんだ」
考えるが気の利いた言葉が出てきそうもない。開き直ったハインリヒはもう思ったことをそのまま言うことにした。
「やったことがないことに自信がないのは当たり前だ。そもそも『大地改変生成の魔法石』を使えるのは大地神の加護を受けたフリーダしかいないんだ。文句があるなら、てめえでやってみろってんだ。文句がある奴あ、この俺が相手になってやる。どっからでもかかってきやがれ。ということで、フリーダ。のびのびと思い切りやれ。ケツはこの俺が持ってやる」
シーン
おおよそ王弟の、しかも国王の全権代理、摂政の発言とは思えない、がらっぱちな言葉に場は静まり返る。
ぷーくすくすくす
どこからともなく笑いが起こった。その声の発生源は誰あろうフリーダだった。
わーはっはっは
やがてそれをきっかけに場は大爆笑と化した。
今回もけしかけた張本人女性宰相アンネリーゼも爆笑しながらも思った。
(こうも気が利かないとなると、やっぱり殿下のご結婚はまだまだ遠いかもなあ。でもまあそれが『おっさん殿下』のいいところでもあるんだけど)
続く爆笑の中、冷静な戦略家でもありながら、熱血も併せ持つ大将軍ゲルハルトが叫んだ。
「フリーダちゃん。殿下の言う通りだぜ。のびのび思い切りやってくれ。大丈夫。俺たちがついてる」
わあああああ
一段と大きな歓声が場を包んだ。




