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(ゲルハルトの奴、確かに精鋭ではなくて新兵をつけてきたが、どいつもこいつもくそ真面目な奴ばっかつけてきたな。まあゲルハルトなりの誠意なんだろうけど)
小さな国だ。王城を発したハインリヒ一行は三日とおかずにラヴェンナ渓谷を囲む森林に到着した。
「この森林について、何か聞いているか?」
ハインリヒの問いに新兵たちは直立不動で答える。
「周囲の住民が薪や茸を取りに入っているそうですが、危険なので奥には立ち入らないようにしているそうです」
「盗賊が根拠にしている様子はないとのことです」
「動物は生息しているそうですが、危険な魔物が出てきたことはないそうです」
「うむ」
新兵たちの答えにハインリヒは思考を巡らせる。
(どうやら『魔女』かどうかは分からんが、相当な魔力の持ち主が住んでいることは間違いなさそうだな)
(盗賊だの魔物だのの自らに害をなす可能性があるものには、自らの領域への侵入を許さない。ただ、薪や茸をとるだけの普通の住民や普通の動物には鷹揚に接する。意思の力を感じるな。さて、俺たちはどう迎えてもらえるか)
◇◇◇
ハインリヒは女性宰相アンネリーゼから渡された古地図を取り出した。森は深いが、目的地が渓谷なら水の流れに沿って、登っていけばいい、錬金術師が何か仕掛けてくる、もしくは仕掛けているなら、それへの対策は臨機応変にやるしかない。
(それにしてもこの古地図。どこかで見たような気がするな)
その「どこか」を思い出そうとするハインリヒ。だが、よく考えてみればラヴェンナ渓谷など、その存在は知っていても、行こうなどと思ったことはない。その地図を見る機会などなかったはずだ。
では何故既視感があるのだ?
トクン
ハインリヒの心臓が早鐘を打ち始めた。
(母上。あなたは見たことがあると言うのですか? この古地図を)
ハインリヒは心中で亡き母に問うたが、もちろん答えはなかった。
◇◇◇
「ほほう」
一行が森の奥まで進むと、木と木の間に荒縄が張られ、それ以上、先に進めないようになっている。
「この荒縄について、聞いている者はいるか?」
ハインリヒの問いに一人の新兵がおずおずと前に出る。
「この周辺の住民から聞いた話だと、これ以上、奥に入ると危険であるということで張られた荒縄だそうです」
「ふむ。敢えてこの場所に立ち入り禁止の荒縄を張った理由は聞いているか?」
「はっ、これ以上、奥に進むと大地神ネルトゥスの怒りに触れ、神域を侵犯した者は命を奪われた上、地獄に落ちる。残された者たちも今享受している薪や茸などの森の恵みも一切受けられなくなる。だから絶対奥に入るなと古老に言われていたそうであります」
「何? 神域を侵した者は大地神の審判を受けるという言い伝えになっていたのか?」
「はっ。そうであります」
(大地神。大地神だと。今俺たちが求めているものは『大地改変生成の魔法石』だ。それを探す過程で大地神の話が出た? これはもう入ってみるしかないじゃないか。しかし……)
ハインリヒは新兵たちの前に向き直った。
「いいか。俺が今探しているのは『大地改変生成の魔法石』だ。これが手に入れば、存亡の危機に瀕しているこの国を救えるかもしれねえ。そこへきて大地神の話となりゃあ、俺は乗らねえ手はねえ。だがな、こっから先はこの土地の者たちが順守し続けてきた神の怒りの話だ。無理についてきてくれと言わねえ。心配すんな。ゲルハルトには逃げたなんて言わねえよ」
新兵たちは集まって何やら話していたが、やがて一人が代表として前に出た。
「摂政殿下。我々は新兵です。あなた様からすれば経験不足もいいところではあります。足手まといになってしまうかもしれません。それでも我々はすぐそばで見たいのです。あなた様がこの国を救うところを」
ハインリヒは微笑した。
「ありがとう。じゃあ一緒に行こうか」
◇◇◇
一行は慎重に荒縄をくぐったが、すぐのすぐには何も起きなかった。
だが問題なのはこれからだ。
「帰り道が分からなくなるとまずい。魔法大臣のヨハネスからもらった耐魔法ロープがある。これを木の幹に括り付けながら慎重に進むんだ」
ハインリヒの言葉に頷く新兵たち。
何しろ深い森の先にある渓谷に住む魔女に会いに行くなど、全く先例のない案件なのだ。相手はこんな手で来るんじゃないかと推測していくしかない。
そんな中、耐魔法ロープは有効な手段だと思われた。森の中を進むとなると、相手が森自体に魔法をかけ、迷わす、あるいは命を奪いにくることは予想できる。
そこにあって相手が森自体に魔法をかけてきたとしても、その姿を変えないであろう力を持った耐魔法ロープは心強い存在と思われた。
耐魔法ロープの力もあってか、森はトラブルなく抜けられそうだった。川のせせらぎの音が聞こえる。木々のすき間から強い光が差し込んでくる。森の終わりは近い。もうすぐに渓谷だ。




