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「しかしだな」
「まあまあ殿下」
宰相アンネリーゼの夫、大将軍ゲルハルトが仲裁に入る。
「アンネリーゼはこうなると一歩も引きません。ここはわしの顔を立てると思って受けてやってください」
「しょうがねえな。では解散して各自奮闘を……」
「あらまだお話は終わっていませんわ」
「宰相。まだ何かあるのか?」
「ええ。この戦は長引くかもしれませんが、必ず我が国が勝ちます。理由は優れた人材が揃っているからです。そして、戦勝の暁には殿下にお願いしたいことがございます」
「何だ? 何でも言ってみろ」
「殿下。結婚してください」
この言葉には、さすがのハインリヒものけぞった。
「結婚って誰とだ? 俺には婚約者なんていないぞ。まさかアンネリーゼ、おまえと結婚しろというのではなかろうな?」
「ふふ。残念ですが、私には最愛の夫ゲルハルトがおります。殿下。あなたはこの大戦の間に結婚相手を見つけ、勝って、結婚するのです。約束してください」
「何でそういう話になる?」
「人柄もよく、資質も優れた殿下が独身でいるなど国家の損失です。もう国民から『おっさん殿下』と言われて親しまれているだけじゃいけません。この戦に勝って、結婚するのです。いいですね? 約束してください」
「……」
女性宰相アンネリーゼの剣幕に絶句するハインリヒ。更に、その夫、大将軍ゲルハルトがかぶせてくる。
「アンネリーゼはこうなると一歩も引きません。殿下、観念して、この戦に勝って、素敵な女性と結婚してください。魔法大臣に外務大臣、賛同していただけますな」
「もちろんじゃ」
「殿下。この大戦に勝って、ご結婚を」
「むう。分かった」
何ともおかしな流れになったなと思うハインリヒ。
「それでは」
いつの間にやら仕切る女性宰相アンネリーゼ。
「この大戦に勝ち抜き、殿下に結婚を」
「「「殿下に結婚を」」」
(何なんだろうなあ)
調子が狂ったままのハインリヒだった。
◇◇◇
「まあいい。各人全力を尽くしてこの国を守ろう。では解散」
「あ、いや、いいですか? 殿下。一つ思い出したことがあります」
「ほう何だ? 魔法大臣、言ってみろ。どんなことでもそれが勝利への糸口になる可能性があるかもしれんしな」
「先ほど在野の者が『大地改変生成の魔法石』を生成できることはありえないと申し上げましたが、ひょっとしたらなしえる者がいるかもしれません」
「ほう」
ハインリヒの目が光る。もちろん女性宰相アンネリーゼ、大将軍ゲルハルト、外務大臣パウルも鋭い視線で次の言葉を待つ。
「そいつは誰だ? いや誰だか分かっているのか?」
「あくまで可能性ですが、ラヴェンナ渓谷に住むという伝説の魔女ならあるいは」
「おっ、おい」
驚きの様子を見せる外務大臣パウル。
「ありゃ伝説だろう。魔法大臣。会ったことはあるのか?」
「ない。私も祖母が会ったという話を聞いただけだ。生きていれば百五十歳を超えているくらいだろう」
場に失望の空気が広がる。だがハインリヒは違った。
「よく思い出してくれた。魔法大臣。たとえ可能性が小さくても、国民を流民にすることを回避できるかもしれないのなら、やってみる価値はある。俺がラヴェンナ渓谷に行って探してみる」
「お待ちください」
さすがに慌てる外務大臣パウル。
「何も殿下が行かなくても。危険です」
「いやことは国の存亡に関わることだ。それなりの人間が行った方がいい。かといって宰相も大将軍も外務大臣も魔法大臣もそれぞれ仕事を抱えている。手が空いているのは俺だけだ」
「それなら」
大将軍ゲルハルトが言う。
「我が軍の精鋭二十名を護衛につけましょう」
「そんなにいらん。精鋭はブロイ帝国軍の迎撃に回せ。俺の方にはそうだな…… 新兵の五人もつけろ」
「そ、それではあまりにも」
「大将軍。これは国王陛下から全権委任された摂政であるこの俺が決めたことだ。逆らうことは許さん」
「はっ、ははっ」
「宰相。ラヴェンナ渓谷の地図はあるか?」
「あるにはありますが、なにぶん深い森の奥にある人が殆ど立ち入らない渓谷。古くて当てにならないものしかありませぬ」
「それで十分だ。逆に深い森の奥にある人が殆ど立ち入らない渓谷となると『大地改変生成の魔法石』が生成されていて、こちらに気づかれていない可能性が出てきた。ますます行く価値が出たな」
女性宰相アンネリーゼ、大将軍ゲルハルト、外務大臣パウル、そして、魔法大臣ヨハネス。もう誰も何も言わなかった。しかし、みんな分かっていた。これだから「おっさん殿下」と親しみをこめて国民がついてくるのだと。
◇◇◇
「で、殿下。私が先を歩きます」
「私どもは左右をお守りします」
「ゲルハルトから何を言われてきたかは知らんが、細かいことは気にしなくていいぞ。俺は自分の身は自分で守るし、自分のペースで歩くからな」
「そういうわけにはいきませんよ」
「殿下に何かあったら大将軍閣下に叱責されてしまいます」
「安心しろ。万一俺がケガしても、それは俺の自業自得だ。兵隊を責めるんじゃねえって、俺がゲルハルトに言ってやる」
「はあ」




