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「なるほど、どでかい要塞を作ろうってのか。その場合、今ここに住んでいる国民はどうなると思う?」
「殺すか追い出すかブロイ本国に連れ帰り奴隷として使役するか、でしょう」
「よろしくねえな。パウル。ブロイ帝国がこんなことを考えています。追っ払うのにご協力願えませんかと他の三国ガリア、ホラルド、ベルクに頼めねえか」
「難しいでしょうな。ブロイが十万の軍勢を出すと言っている以上、それに近い数の軍勢を動員しなければならない。それには時間がかかる。更にそれで首尾よくブロイを追っ払ったとしても、今度は他の国がブロイと同じことを考える可能性が大きい。すなわちこの地に巨大要塞を作るのは有効と」
「分かった」
今回も気が重くなる情報しか入らなかったがハインリヒは冷静を保った。
「絶望的な状況だが、少しでもマシになるよう外交交渉は試み続けてくれ」
「はっ」
◇◇◇
「で、大将軍」
ハインリヒが三人目に呼んだのは大将軍ゲルハルト。四十五歳。個人的武勇と戦術の才、双方を持ち合わせた男だ。
「実際のところブロイ帝国軍十万が攻めてきて、我が国はどのくらい抵抗できるんだ?」
「方法は二つあります。一つは国境の険阻な山脈を最大限活用し、ブロイ帝国軍の侵入を阻むというもの。我が国の全兵力をもってすれば数か月は耐えうるかと」
「本当か」
初めて出るややマシな情報にハインリヒの顔もほころぶ。だが、それは一瞬だった」
「但し、我が国の全兵力を投入する以上、王城を含め、他の土地はがら空きになります。そのような状態を他の三国が黙って見ているとは思えない」
「そうか。そうだな。で、もう一つの方法は?」
「ゲリラ戦」
「……」
何とも厳しい言葉に場が沈黙の海に沈む。ゲルハルトはその状況を気にすることもなく言葉を続ける。
「最初に軽く一当たりします。この時は敗走するように見せて、散開します。すると敵は一挙に我が王城を取るべく進撃してくるでしょう。侵攻先に駐留する拠点はほしいはずです。それに先んじて……」
もはやハインリヒもゲルハルトの話に聞き入るしかない。
「我が王城は破却しておきます。物資は小さな拠点に隠せるだけ隠しますが、隠しきれない分は敵に利用される前に焼却処分とします。今現在植わっている作物も刈り入れて隠せるものは隠し、出来ないものは焼く」
「待て。では国民はどうなる?」
「……」
さすがのゲルハルトもハインリヒの問いにいったん沈黙するが、すぐに口を開く。
「国民には二つの選択肢しかありません。一つは戦火を避け、流民になってこの国を出る。運がよければ戦が終われば帰ってこられるかもしれません。もう一つは我らと共に武器を取って戦うことです」
「…… で、王城を破却し、その後はどうする?」
「大部隊が駐屯できる場所を潰してしまえば、敵も分散して野営せざるをえません。そこをあらゆる奇策を使って攻撃します。夜襲に火計、そして、一番執拗にやるべきこと、それは敵の輜重部隊への反復攻撃」
「きついな。でもそれをやれば勝てるのか?」
「分かりません。但し、今の状況で勝ちを狙うにはこの方法しかないかと」
「戦えない国民には流民になってもらうしかないのか?」
「……」
ゲルハルトは又も沈黙する。今度の沈黙は少し長い。
「国民を流民にしてしまうのは我が軍の力不足からくるもの。申し訳ないとか言えませぬ。国民を護衛するだけの余力はないのです」
「そうか……」
呟くように言うハインリヒ。いやハインリヒにだって分かってはいたのだ。今のこの国、ローリンゲン王国、又の名はロレーヌ王国にそのような力はない。
「それでもゲリラ戦を行えば、勝って、国民を呼び戻せる可能性はあるのだな?」
「御意」
ゲルハルトはせめてもの意地なのか。敢えて力強く言う。その言葉に大きく頷くハインリヒ。
「分かった。この国はこれからゲリラ戦の態勢に入る。この決定についての責任は、全て、この俺、ハインリヒが負う」
魔法大臣ヨハネス。八十歳超。外務大臣パウル。六十五歳。大将軍ゲルハルト。四十五歳。宰相アンネリーゼ。四十歳。
「「「「はっ、我ら一同ハインリヒ殿下と共にこの国を守り抜きます」」」」
一斉に声を合わせた。再度、大きく頷くハインリヒ。
「魔法大臣。引き続き『大地改変生成の魔法石』の作成に全力を尽くせ」
「はっ」
「外務大臣。国王陛下、王妃、王子王女をブロイ帝国以外の国に亡命させよ。出来るだけいい条件でな」
「はっ。難しいですが、全力を尽くします」
「大将軍。ゲリラ戦については任せる。厳しいだろうが、できるだけ損失を押さえ、ブロイの連中を痛い目に遭わせろ。こんな割に合わない戦は続けられねえと思わせるんだ」
「ははっ」
「そして、宰相は……」
「ふふ」
不敵な笑みを浮かべる宰相アンネリーゼ。この中の紅一点。この国始まって以来の才媛として知られ、大将軍ゲルハルトの妻でもある。
「これから我が名をもって、国民に通達します。これからこの国は厳しい戦に入る。逃げたい者は速やかに逃げよ。我らと共に戦う者は馳せ参ぜよと」
「待て待て待て」
予想しなかった女性宰相の言葉に驚くハインリヒ。
「そのことを国民に伝えねばならねえのは事実だ。だがそれは宰相名でやるこたあねえ。俺の名前でやれ。摂政ハインリヒの名前でな」
「そうはいきませんわ」
アンネリーゼは笑みを絶やさない。
「内政の最高責任者はこの私。私の名前で出させていただきます。殿下一人が国民に嫌われるなどまっぴらでございますわ」




