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「貴国が持つ『大地改変生成の魔法石』を我が国に献上するように。期限は二十日間」
上座に座る隣国の使者の口上にこの国の王ハンスは硬直した。何と返答したらいいか分からなかったからだ。
「では用件は伝えた。なお二十日以内に『大地改変生成の魔法石』が我が国に献上されなかった場合、国境に待機する十万の軍勢をもって、接収することになる」
「お、お待ちください」
容易ならざる事態がおこっていることをようやく理解した国王ハンスはその場を立ち去らんとした使者を制止する。
「『大地改変生成の魔法石』などというものを我が国は持っていませんぞ」
「とぼけられても困る」
使者は冷たくハンスに言い放つ。
「我が国でも裏を取った上での申し入れなのだ」
「そうは申されても、我が国は本当にそのようなものは持っておりませぬ」
「くどいっ!」
使者はハンスを一喝する。ビクッとするハンス。
「これ以上しらを切りとおすことは我が国に対する侮辱と解釈する。その場合、二十日間の猶予を待たず、十万の軍勢がこの国に雪崩れ込むことになる」
ハンスの顔面は蒼白だ。そして、その口はもはや次の言葉を繰り出すことができない。
「よいな。伝えたからな。貴国の出来ることは素直に『大地改変生成の魔法石』を献上するか、十万の軍勢の手によって『大地改変生成の魔法石』を奪い取られるかのいずれかだ」
使者は五人の護衛と共に振り返りもせず立ち去った。
「そんな……『大地改変生成の魔法石』なんてものはこの国にはないぞ。だが、それを出せねばブロイ帝国十万の軍勢が……」
ハンスはそれだけ言うとそのまま気を失った。
「お父様」
「お父様」
六歳の第一王子エリアス、四歳の第一王女アンナは気を失ったハンスに駆け寄ろうとする。
「待て。エリアス。アンナ」
そんな二人を制したのはボサボサ頭の黒髪に無精ひげの王弟ハインリヒだ。
「医師っ!」
ハインリヒの呼びかけに医師が駆け寄り、ハンスの脈を診る。
「どうだ? 陛下は?」
医師は脈を取りながら、ハインリヒを見上げる。
「恐らく一気に急激なストレスが加わったので体がメンタルを守るため、失神されたようです。何日かの静養を要するかと」
「分かった。すまないが、国王に付き添っていてくれ。そして、王妃」
王妃ゾフィーは夫である国王よりは気丈なようだ。黙ってうなずく。
「エリアスとアンナを頼みます。別室に連れていってもらえますと」
王妃ゾフィーはもう一度黙ってうなずくとエリアスとアンナを連れ、別室に去る。
「さて」
ハインリヒは周囲を見回す。これからが王弟であり、摂政である自分の仕事だ。
「大人数で協議してもまとまるまいな。宰相っ! 外相っ! 大将軍っ! 魔法相っ! 小会議室にきてくれ」
「「「「はっ」」」」
生まれつき心身とも虚弱な国王ハンス。四十歳。亡き母からそんなハンスとこの小さな国を守るよう言われ、若き日より摂政を務める王弟ハインリヒ。三十五歳。
また極めつけのような試練がハインリヒに襲い掛からんとしていた。
◇◇◇
「それで『大地改変生成の魔法石』とはそもそも何だ? 本当に我が国にそんなものがあるのか?」
「はっ」
ハインリヒの問いかけに白髪に白く長いひげの魔法大臣ヨハネスが杖を持ったまま立ち上がる。もう八十歳は超えているはずだが、かくしゃくとしている。
「『大地改変生成の魔法石』とはあらゆる土を自由に操れる魔法石。それがあれば敵が大軍勢で攻め込んできたとしても地割れや土砂崩れで潰滅させることも出来るかもしれません」
「ほう」
ハインリヒは感心する。
「本当にそんなものが我が国にあれば、何もブロイ帝国にくれてやるこたあないな。そいつを使って、奴らを撃退すればいい」
「おっしゃる通りであります。それがあれば国防上の大きな武器になります。なので我々も何度も『大地改変生成の魔法石』作成に挑みました」
「できなかったのか?」
「はい。毎回いいところまではいくのですが、最後でいつも失敗し」
「ふうむ」
ハインリヒはあることを思いついた。ヨハネスに対しては失礼な質問だが、今はそんなことを言っている場合ではあるまい。
「ヨハネス。失礼を承知で訊くが在野の者が作成に成功していて、それを我々が知らないという可能性はないのか?」
「ありえませんな」
ヨハネスは首を振る。
「『大地改変生成の魔法石』は保持するだけで多くの魔力を消費します。一個人ではたとえ作り上げることができても、すぐに分解してしまうことでしょう」
「そうか」
淡々と受け止めるハインリヒ。
「だが、何回も失敗したとはいえ、最終工程まで行けたのならチャレンジする価値はあるな。期限ギリギリまで挑戦してもらえないか」
「かしこまりました」
頭を下げるヨハネス。
◇◇◇
「さて外務大臣」
今度は外務大臣の方を向くハインリヒ。
「われらがローリンゲン王国、又の名はロレーヌ王国は四つの大国と山地で国境を接する盆地の小国だ。逆に大国同士の思惑が交差する中、緩衝地帯として生き延びてきた。それがここへ来てブロイ帝国が因縁をつけて、攻め込むと言ってきた。これは何故だと思う?」
「恐らく」
外務大臣パウル。六十五歳。老練な外交官は口を開いた。
「他の三国の不興を買っても我が国がほしい。そう考えるようになった理由は、この地に巨大な要塞を築き上げるつもりなのでしょう。他の三国の侵攻を阻む障壁になりうるし、逆に他の三国に攻め込む時には補給基地として大変有効な存在になるでしょう」




