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ゴゴゴゴゴ ドドドドーン
窓から北東の方角を注視していた外務大臣のパウルは、いつもに増して冷静沈着につとめて言った。
「アイフェル山が噴火した」
ざわざわざわ
王城内のざわめきは一段と大きくなった。
(そんな馬鹿な)
内心焦燥する女性宰相アンネリーゼ。
この国始まって以来の才媛と言われ、宰相の任に就いているアンネリーゼだ。魔法大臣のヨハネスや外務大臣のパウルほどではないが、この国の歴史のことは知り尽くしている。
(アイフェル山が噴火するなんてそんなことは考えられない。どんな古文書にもそんな記録は出てこなかったはずだ)
だがそれはこの場で口にしてはならない不都合な真実だった。だからアンネリーゼはざわめく国民たちに向かって、こう言った。
「みんな落ち着いて。古文書にはちゃんとアイフェル山が噴火したという記録がある。その周期が来たってだけのこと。その時も大した被害は出なかったみたいだし」
嘘っぱちもいいところである。だがこの状況ではこうせざるを得ないと思われた。外務大臣のパウルもそれでいいんだとばかりに頷いている。
(だが戦況の方も分からない。大将軍ゲルハルトと魔法大臣は帰ってきた。そして、摂政殿下とフリーダちゃんと大地神ネルトゥスが帰ってきていないのは前回と同じ。だけど前回は残った大地神ネルトゥスが侵攻してきたブロイ帝国軍を全部追い払った。今回はブロイ帝国軍が我が軍を追いかけてきていて、それらが王城に入り込むのを大将軍ゲルハルトたちが防いでいる状態だ)
アンネリーゼは決断した。
(やむを得ない。貴重な存在である残った斥候を全部使って状況を把握しよう)
そして、前線ではアンネリーゼがまるで予想できない事態となっていたのだった。
◇◇◇
「キイイイイッ!」
ずっとうなだれていた大地神ネルトゥスは首を持ち上げ、咆哮を上げた。
「フリーダ。これは一体?」
摂政ハインリヒは抱きしめたままのフリーダに問うた。
「ふふ」
フリーダは抱きしめられたまま答えた。
「ネルは大地から湧き上がる精気だけを力にしているわけではないのですよ。もっと幅広く大地から力をもらうことが出来るんです」
首を持ち上げた大地神ネルトゥスは前回より更に力強い羽ばたきを見せた。次々とロートリンゲン(ロレーヌ)王国の王城に向かわんとしていたブロイ帝国軍の後続部隊は強力な風圧や舞う砂塵に倒されていき、それ以上の進撃は出来なくなった。
◇◇◇
ロートリンゲン(ロレーヌ)王国の大地を焼くことを続けていた火炎神ロキとその上に乗った少女アンゼリカ。
大地神ネルトゥスが力を取り戻したと気付いたアンゼリカは静かに火炎神ロキに言った。
「……ありがとうロキ。もう焼くのはいいわ」
「チ」
火炎神ロキは小さく鳴くと、火を吐くのを止め、アンゼリカを乗せたまま大地神ネルトゥスよりも遥かな高空に飛翔した。
「……こうなってしまってはもうこれ以上ロートリンゲン王国の大地を焼いても意味はない。大地神ネルトゥスはもう既に大地から湧き上がる精気以外から力を得ることを知ってしまった。もはや今の大地神ネルトゥスをブロイ帝国軍は止めることは出来ない」
「チ」
「……これからどうするかって? ふふ。そうね。ロキ。アンゼリカとロキはブロイ帝国軍大将軍リヒャルトからは、ロートリンゲン王国の大地を焼いて、大地神ネルトゥスの力を弱めるという条件で召喚されたの。だからもう出来ることは何もない」
「チ」
「……そうね。今回はちょっと頑張っちゃったから疲れたわ。この近くにアンゼリカの故郷があるの。ちょっとそこに行って休みましょう。そこで休んで、またいい条件の召喚があったら受けてもいいし、なければずっと休んでいてもいい」
「チ」
火炎神ロキはアンゼリカを乗せて、アンゼリカの故郷に向けて、羽ばたいた。
(ふふ。フリーダ。また一回り大きくなったね。ふふ。ネルもね)
アンゼリカは最後に思ったその思いを口には出さなかった。だから、その思いは火炎神ロキにも伝わってはいない。
◇◇◇
力を取り戻した大地神ネルトゥスの活躍でブロイ帝国軍の後続部隊は全く進めなくなった。更に後方にいる工兵部隊による根拠地の建設など思いもよらない。
城門の前で王城への侵入を試みるブロイ帝国軍に対する防戦に苦慮していた大将軍ゲルハルト率いるロートリンゲン(ロレーヌ)王国軍だが、後続部隊が来ないことに気づき、その士気は上がった。
斥候によって、後続部隊が全て大地神ネルトゥスによって撃退されているという情報が入るとその士気は更に上がった。
「……」
ブロイ帝国軍大将軍リヒャルトはしばし呆然としていたが、やがて叫んだ。
「アンゼリカッ! アンゼリカは何をしているっ? 火炎神ロキを使って、あの大地神を何とかしろっ!」
もともとリヒャルトとアンゼリカ・火炎神ロキはそんな契約はしていない。そのことはリヒャルト自身も知っているはずだが、そのことを忘れるほど取り乱していた。
参謀たちは当惑している。アンゼリカと火炎神ロキの存在はリヒャルトから何も聞かされてはいなかった。
それ故にリヒャルトがアンゼリカと火炎神ロキを繰り出し、大地神ネルトゥスを大苦戦に陥れた時は、リヒャルトの手腕に感嘆した。
だがこうなってしまっては何も聞かされていない分、何も出来なかった。




