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(第二章完結)おっさん殿下とひきこもりの魔女  作者: 水渕成分
第2章

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23

 ブロイ帝国大将軍リヒャルトはロートリンゲン(ロレーヌ)王国の人間には今、何が起こっているか分かる人間は誰もいないと断じた。だが、摂政ハインリヒは気づいていた。


(いかん)

 大地神ネルトゥスはフラフラとしてやっと飛んでいるような状態になった。

「フリーダ。すぐにネルトゥスを地上に降ろし、神獣ネルに戻すんだ。そして、二人で逃げろ。元いた渓谷に籠れば、ブロイ帝国も手は出せまい」


「……」

 フリーダはしばし沈黙した後、逆にハインリヒに問い返した。

「それで殿下はどうされるおつもりなんですか?」


「俺か? 俺はこんな『おっさん殿下』ではあるが、それでもこの国の摂政だ。一人でも多くの国民を他国に逃がすまで戦う」


「死んでしまうことはないのですか?」


「俺も死にたくはない。でもこの状況からして生き延びるのは難しいだろうな。だから、フリーダとネルは出来るだけ早いうちに逃げろ」


 ドンッ


 フリーダは自分の頭をハインリヒの胸にぶつけた。

「何を言っているんです。私はもう殿下のいない世界で生きるのは嫌ですよ」


「その気持ちはありがたい。だが、この戦はもう負け戦だ。もう摂政である俺にもできることと言えば、一人でも多くの国民を逃がすことぐらいだ」


 突如フリーダは上を向き、ハインリヒの両肩をつかんだ。

「ならば、この戦に勝てばいいんですね?」


「それはその通りだが、この状況ではどうにもなるまい」


「いえ」

 フリーダはハインリヒの目をしっかり見据えながら言った。

「まだ試したいことがあります。そして、それには殿下のご協力が必要です」


「……」

 ハインリヒは考えた。繊細で引っ込み思案なところがあるフリーダがここまで言うのだ。ならばここは危険を承知の上で受け入れるべきだろう。

「分かった。何でも言ってくれ」


「ありがとうございます。では私はいつも通りに殿下の左胸に耳を当てますから、そんな私をギュッと抱きしめてください」


「!」

 年甲斐もなくドキリとするハインリヒ。政治や戦闘は百戦錬磨だが、こういう方の経験は極めて乏しい。


 しかし、フリーダはそんなハインリヒの困惑に一向に構うことなく言葉を続ける。

「これから私は今までやったことのないことをします。正直、自信がないのです。失敗するかと思うと怖い。だから、殿下、そんな私を抱きしめて励ましてください」

 

(! 抱きしめる? この俺がフリーダを?)


 絶句し、硬直するハインリヒにフリーダはなおも言う。

「お願いです。この私を抱きしめて励ましてください」


(ええーいもう。どうなとなれ)

 ハインリヒはフリーダを抱きしめた。

(これは『仕事』。この国を守るための『仕事』)

 そう自分に言い聞かせながら。


 一方のフリーダは抱きしめられることで安心したか「大地改変生成の魔法石」を両手で握りしめながら大地神ネルトゥスへの呼びかけを始めた。

「ネル。あなたは『大地神』。普段は大地から湧き出てくる精気を受けて生きている。ネル。あなたは『大地神』。全ての大地を支配する者。ネル。あなたは『大地神』。気づいて。ネル。あなたの力は大地から湧き出てくる精気だけからもたらされるものではないことを」


 次の瞬間、ハインリヒは感じた。それまでフラフラとやっとの思いで飛んでいた大地神ネルトゥスが安定して飛べるように変わったことを。


 ◇◇◇


 今回の王城の留守居役の最高責任者は女性宰相アンネリーゼであり、副最高責任者は外務大臣のパウルだ。


 今回も女性宰相アンネリーゼの夫である大将軍ゲルハルトは高齢の魔法大臣ヨハネスを背負って王城まで撤退してきた。


 前回同様、疲労困憊の魔法大臣ヨハネスを入城させるとゲルハルト本人は城門の前に残り、負傷している兵には入城を促し、元気な兵は励まして、共に城門を守っている。


 自宅を離れ、王城内に避難している民には不安の色が広がっている。

(負けているのではないか)

(敵国の大軍がこの王城内にまで雪崩れ込んでくるのではないか)


 そのように思っているのだ。


 ゴゴゴゴゴゴ


 そのような中、大地が揺れ、鳴動した。


「うっ」

「うわー」

「キャー」


 王城内に次々悲鳴が上がる。


 女性宰相アンネリーゼにして、思わず声を上げそうになった。内心怖いとも思った。


 だがそんなことはできない。自分は、女性宰相アンネリーゼは、この王城の留守居役の最高責任者なのだから。


「地震の揺れの波動はあっちの方から来ているな」

 窓から外を見ていた外務大臣のパウルが落ち着いた様子で言った。パウルもまた、この状況下にあって冷静沈着なところを見せなければならないことを強く自覚している。


 パウルが指差したのは北東の方角だった。ロートリンゲン(ロレーヌ)王国だが、西はブロイ帝国と接し、ただいま交戦中だ。南はガリア帝国。東はベルク王国、北はホラン王国と接している。


 地震の波動は北東、ロートリンゲン(ロレーヌ)王国、ベルク王国、ホラン王国の三国の国境付近から来ていた。


(あそこにあるのは……)

 女性宰相アンネリーゼは思い出していた。 

(アイフェル山)


 アイフェル山。山に囲まれた盆地で形成されたロートリンゲン(ロレーヌ)王国にあって、珍しい独立峰である。


 そのため長く国民から親しまれ、時に信仰も受けてきた、言わば霊山であった。


(そのアイフェル山を震源地として地震が起こっている? 一体どういうことなんだ?) 

 そんな女性宰相アンネリーゼの思考をも遮るように次の現象は起こった。

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