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「会議中失礼します。しかし、斥候がどうしても緊急に報告したいことがあるそうですので」
「緊急か?」
「はい」
「よし通せ」
ハインリヒの言葉に斥候は息せき切って駆け込んでくる。
「何があった?」
「はっ」
斥候はちらりとローラントを見る。外部の人間がいることを気にしているようだ。
「かまわん。どうせローラントには何も出来ん。ありのままに報告するんだ」
「はっ。ブロイ帝国軍の軍勢十万。国境の峠から我が国に向かってきています。指揮官は大将軍のリヒャルト」
「「「「「!」」」」」
場に衝撃が走る。前回の戦闘でリヒャルト率いる十万のブロイ帝国軍を撃破してからまだ半年しか経っていない。それが再度十万の軍勢で再征してくるとは。
「見ろっ!」
この時とばかり立ち上がるブロイ帝国第三皇子ローラント。
「リヒャルトは攻めてきたじゃないか。ここはだな、ロートリンゲン王国は私を奉じて戦うべきなんだ。そうすればブロイ帝国内の反第二皇子・リヒャルト派が決起してくる。そうなればこの戦勝ちだ」
「今回の相手方の名分は?」
外務大臣のパウルはローラントを完全スルーして、斥候に問う。
「前回はあの当時我が国が持っていなかった『大地改変生成の魔法石』を渡せと因縁をつけてきた。今回は何を言ってきたのだ」
「それは『ロートリンゲン王国がブロイ帝国の国事犯第三皇子ローラントをかくまったことに対する責任追及』だそうです」
場の人間の視線が一斉にローラントに集まる。衝撃の事実に固まるローラント。
「つーことはだ。そこにいるローラントをふん縛って、リヒャルトに突き出せばこの一件は解決ってことかもな」
「待ってくれっ!」
摂政ハインリヒの言葉に焦燥感をむき出しにするローラント。
「そんなことをしたらリヒャルトはどんな残虐な公開処刑をしてくるか分からん。そんな人道にもとることをしてはいかん」
「ローラントがどんな残虐な公開処刑をされても、うちの国には一切関係ないぞ。知ったことじゃない」
「わ、わ、悪かった」
ローラントはへたりこんだ。
「私の言葉が気に入らなかったのなら謝る。この通りだ。どうかどうかリヒャルトに突き出すのだけはやめてくれ。いや、やめてください」
ついにローラントは土下座を始めた。
「ふん」
ハインリヒは鼻を鳴らした。
「ローラント一人のために十万の軍を動員するほどリヒャルトも暇じゃねえよ。ローラントの身柄をリヒャルトに突き出したところで、リヒャルトに言われるまで出さなかったのは許さんとか因縁をつけてくるのは見えている」
「だったらローラントを奉じて……」
「だーっ何べんも言わせるなっ! こっちにゃローラントを守ってやる余裕なんかねえんだよっ! 身柄をリヒャルトに突き出される前にガリアでもホランでもベルクでも好きな国に逃げろっ! 愚図愚図していると他のブロイ帝国の兵と一緒に地割れの底に叩き落すか、土砂崩れで生き埋めにするぞっ!」
「はっ、はひっ!」
ハインリヒの剣幕にローラントは身一つで逃げ出した。
その後のローラントは無事他国に逃げることが出来たか、どこかで死んでしまったかは分からなかった。
◇◇◇
「やっとうるさいのがいなくなった。協議を再開する」
ハインリヒの言葉に大将軍ゲルハルトが発言した。
「ブロイ帝国の大将軍リヒャルトはいけ好かない奴だが、馬鹿じゃあない。何の考えもなく同じ十万の兵で再征してくるはずがない。斥候。何か前回と変わったことはないか?」
「はっ」
大将軍ゲルハルトの問いに斥候は答える。
「通常の専門兵の後方に多数の工兵を帯同させています。我が国に橋頭堡を築いた後、本格的な根拠地を建設する意図が見て取れます。そこをブロイ帝国軍の駐屯地にして、補給基地とするような」
「そうきたか」
ゲルハルトはため息を吐いた。
「やはり馬鹿じゃないな。前回の戦ではそこまでいかなかったが、ゲリラ戦の構想もあった。だがそういう手を打たれたんじゃ、こちらとしてもゲリラ戦はやりにくい」
「……」
しばしの黙考した後にハインリヒも発言する。
「ゲリラ戦はあくまで国境を突破された後の選択肢だ。前回は、我々は国境を突破させなかった。『大地改変生成の魔法石』と大地神ネルトゥスの力でな。だが今回リヒャルトが国境突破後のゲリラ戦対策まで用意しているということは国境突破できる策を立ててきているということだろう。斥候。何か分かったことはあるか?」
「申し訳ございません。そこまでは分かりません」
「そうか」
「悔しいけど何の策もなくハッタリで工兵を用意してくるような奴じゃないよね。リヒャルトは。それが何か早く見つけたいけど」
さすがの女性宰相アンネリーゼの言葉も重々しかった。
「……」
しばしの沈黙の後、ハインリヒは立ち上がった。
「とにかくリヒャルトの奴が何を考えているか分からなくても、攻めてくる以上、応戦しないわけにはいかない。そして、今回もフリーダとネルの力を借りないと、とてもじゃないが勝てないだろう。それは俺が頭を下げてくる」
摂政ハインリヒと閣僚たちの協議はお開きになった。大将軍ゲルハルトは直ちに兵を動員し、女性宰相アンネリーゼは義勇兵を募り、他の国民には持てるだけの食糧を持参の上、王城に入るよう指示を出した。
前回の国難から僅か半年にして、ロートリンゲン王国は前回を上回る国難を迎えようとしていた。




