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(第二章完結)おっさん殿下とひきこもりの魔女  作者: 水渕成分
第2章

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 撹拌された土が全て地面に落ち、堆肥と元の土が完全に混ぜ合わされたその時、ネルはハインリヒに向かって「キイキイ」と鳴いた。


「何だ? 何が言いたいんだ?」

 当惑するハインリヒにフリーダは微笑んで言う。

「ネルは豊かになったあの土の上に立って、土の元気を分けてもらいたいのですよ」


「おうそうか。どんどん行ってきてくれ」


 その言葉にネルは勇躍駆け出していく。


 そして、農地の真ん中に立つと、うっとりした表情でずっと立っていた。


「ううむ」

 ハインリヒはうなった。

「さっきは行っていいと言ったものの何だか不安になってきたな。ネルが農地の栄養分全部吸い取っちゃうなんてことはないだろうな」


「その心配はありませんよ」

 フリーダはなおも微笑を浮かべている。

「ネルがもらうのはその土の元気だけです。それもほんの一部分だけ。土の栄養分を取ったりしませんよ」


「おっさん殿下―っ!」

 フリーダの言葉にかぶせるように声をかけてきたのは、ここに自分の農地を持つトマスだ。


「何だ? トマス、どうした?」

 平民に「おっさん殿下」呼ばわりされても一向に気にしない。まさにハインリヒの真骨頂である。


「そのお嬢ちゃんの言っていることは正しいだよ。わしはさっき土舐めてみたが、栄養分は全然取られてねえ。あのトカゲちゃんは全然問題ねえだよ」


「そうかそうか。それはよかった」

 「摂政殿下」は「おっさん殿下」。「渓谷の魔女」は「お嬢ちゃん」。「神獣リザード」は「トカゲちゃん」。まさに言いたい放題だが、トマスはこの地の凄腕の農業従事者である。そのトマスの言うことなら間違いあるまい。ハインリヒはそう思った。


「どうやらこの計画は成功だったようね。フリーダちゃん。できたら他の農地もこのやり方でお願いしたいのだけれど」

 やはり笑顔を浮かべた女性宰相アンネリーゼの問いにフリーダも笑顔で答える。

「はい。ネルも喜んでいるし、こちらこそお願いします」


「良かった。正直、この国は周囲の四つの国、どこと比べても各段に小さい。農業生産がこの国の生命線なところがあるの。人口を養えるより多めに生産して、機械や鉄を買う。そっちの方は、はっきり言って遅れているからね」


 そんなアンネリーゼの言葉に「キイッ!」と叫ぶとネルが駆け寄ってきた。


「あらネル。どうしたの?」


「宰相様。ネルが案内したいところがあるそうです。もっとも歩いて三日くらいかかるそうですが」


「フリーダちゃん。宰相様なんて堅苦しいよ。お姉さまと呼んで。でもそうねえ。それは行ってみたいわ。馬車を用意してくれる?」


「ま、待て。アンネリーゼ。俺も行くぞ」


「殿下。あなたが行くのは当然です。ネルが案内してくれる以上、フリーダちゃんも行く。そうなれば殿下が行かなくてどうしますか? 留守居は大将軍ゲルハルト(うちの旦那)と外務大臣がいればいいでしょう」


「わ、わしも行くぞ」


「あらおじいちゃん、大丈夫?」


「馬鹿にするな。アンネリーゼ。わしは現役の魔法大臣だぞ。こんな時に行かなくてどうするかーっ!」


「ふふ。冗談よ。大将軍ゲルハルト(うちの旦那)と外務大臣がいるとはいえ、そう何日も王城を留守にはできないし、急いで行きましょう」


 ◇◇◇


 ネルが案内したのは国境付近の山麓だった。一行はネルが見せたかったものが何かすぐに気づいた。


「お、おいっ、こいつあ」


「ネル。土の元気の返礼に凄いものをプレゼントしてくれたね」


 それは「鉄の鉱脈」だった。農産物を輸出した代金で鉄を購入していたこの国にはとんでもない財産である。


「キイ」


「ネル。ありがとう。これからもネルには土の元気をプレゼントし続けられるよう頑張るわ」


「アンネリーゼ。こうなると鍛冶職人を雇う必要がでてくるな」


「はい。殿下。これは外務大臣の仕事ですね。他国の鍛冶職人をスカウトさせましょう。あくまで他国には内密に」


 ◇◇◇


 外務大臣パウル。摂政ハインリヒと女性宰相アンネリーゼから他国に分からないように鍛冶職人をスカウトするという任務を言い渡された。


 だが外務大臣の仕事はもちろんそれだけではない。

「他国からの婚約打診の申し入れですが、また増えました。こちらにまとめてあるのが殿下あて。こっちのがフリーダ嬢あてです」


「だーっ」

 吠える女性宰相アンネリーゼ。

「舐められているんじゃないの? 殿下はいずれフリーダちゃんと婚姻するんでしょう」


「そういう事情もあるから断ってはいるんですが、それでも次々申し入れがくるんですよ。やはり摂政殿下が王族で、フリーダ嬢が平民だってところにつけこんでくるんでしょうね」


「ふーっ」

 今度はため息を吐くアンネリーゼ。そして、ちらりとフリーダを見る。

「フリーダちゃん。気持ちも分かるんだけど、やはり私たち夫婦の養女になってくれないかなあ。そうすれば侯爵令嬢ということになるから殿下との婚約も進められるんだけど」


「ありがたいお話ではあるんですが」

 目を伏せるフリーダ。

「少なくても私としては母とおばあちゃんが行方不明なうちは二人の家族でいたいんです。養女は二人の了解を取ってからにしたくて」

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