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「宰相閣下。大将軍閣下が魔法大臣閣下を背負って、戻ってこられました。どうやら撤退してこられたようです」
「分かりました」
王城の留守居役の長、女性宰相アンネリーゼは配下の報告に静かに頷いた。
(少なくとも国境でブロイ帝国軍を完全撃破しての凱旋ではない。まあそれはあまり期待できなかったけど。問題はブロイ帝国軍のどれだけの打撃を与えられたかだけど、それは大将軍に聞いてみるしかないね)
ところが大将軍ゲルハルトは魔法大臣ヨハネスを他の兵に託すと、城門の前にとどまり、元気な兵と共に負傷した、もしくは疲労度の高い兵の入城を促した。
(ケガした者に疲れた兵の入城が優先か。大将軍らしいっちゃらしいけど。これじゃ戦況が聞けないね)
女性宰相アンネリーゼが考え込んでいると、また別の報告が入った。
「宰相閣下。魔法大臣閣下から報告があるそうです」
「分かりました。魔法大臣は疲れているでしょうから、こちらから話を聞きに行きます」
(八十過ぎのじいちゃんだからな。それでも報告するっていうんだから真面目だ)
◇◇◇
魔法大臣ヨハネスは寝台で寝ていた。
「あ、宰相」
「ああ起きなくていい。起きなくていい。もういい齢なんだから。それより戦はどうなの?」
「ブロイ帝国の将軍は相当できる奴だった。あんなに損害を顧みず攻撃してくるとは。わしらだけだったら負けていたわ」
「『わしらだけだったら負けていた』? それはフリーダちゃんが何とかしてくれたってことなの?」
「ああ、そうだな」
魔法大臣ヨハネスは先ほど見た光景を思い出していた。
「フリーダ嬢もそうだが大地神ネルトゥスの力だ」
「大地神ネルトゥスって?」
「幻の神獣リザードのネルの正体は大地神ネルトゥスだったのだよ」
「え? じゃあフリーダちゃんとネルは? それに摂政殿下は?」
「恐らくあの方たちでブロイ帝国軍を追い払っている。摂政殿下もいるし、たぶん戻ってきてくれるとは思う」
(今一つ状況がよく分からないな。ともかく撤退してくる兵を王城に収容しながら、斥候も放とう。それで状況を把握して次に備えよう)
女性宰相アンネリーゼはそう思った。大地神ネルトゥスの出現と言われても、現場を見ていない者に理解するのは難しかったのだ。
◇◇◇
バサッバサッバサッ
茶色の竜は王城の屋上にゆっくりと着陸した。本来の大きさは王城の屋上より大きいようなので、サイズを合わせて縮小してくれたようだ。
竜の大きさが小さくなっていたので、その背に乗っていた摂政ハインリヒと「渓谷の魔女」フリーダは容易に屋上に降りられた。それを確認した竜は一仕事終えたとばかりに神獣ネルの姿に戻る。
そして、三人は万雷の拍手で迎えられた。大地神ネルトゥスの活躍で難敵ブロイ帝国軍をこの国から完全に追い払うことに成功したとの報は、既に斥候の手により、この王城に届いてきている。
国王ハンスは涙を流しながら三人に駆け寄った。
「ありがとう。ありがとう。ハインリヒ。おかげでこの国は救われた」
ハインリヒの両手を固く握りしめる国王ハンスに、ハインリヒは苦笑する。
「いや何とか勝てた。それより兄上。無理なさるな。病み上がりだろう」
「いやいやいや、心配かけてすまんハインリヒ。でもこの朗報に病も吹き飛びそうだよ」
実弟である摂政ハインリヒと固い握手を交わした国王ハンスは次は別の功労者フリーダを見た。
ところがフリーダは国王ハンスと視線が合うや否や、ハインリヒの懐に飛び込み、その左胸に耳を当てた。
「シャアアア」
更に国王ハンスを威嚇する神獣ネル。




