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ゴゴゴゴゴ
その轟音は今までの地割れの音をはるかに上回る大きさだった。
ブロイ帝国軍の中団あたりに両側から土砂崩れが起こった。多くの兵たちが悲鳴を上げる間もなく飲み込まれていく。
「やった! 出来たじゃないかっ! フリーダ」
フリーダの両肩を軽く叩き祝福するハインリヒ。赤面するフリーダ。
「キキー」
神獣ネルもフリーダに飛びつき、そのほおを舐める。
「理想的な一撃でしたぞ。フリーダ嬢。だが残念ながらブロイ帝国軍には潰走の様子は見えない。ここは整然と撤収しましょう」
大将軍ゲルハルトは冷静に判断した。だが、敵将リヒャルトはまた違った。
◇◇◇
「やってくれたじゃねえか。こいつは何としても『大地改変生成の魔法石』を手に入れないわけにはいかなくなったな」
リヒャルトは激高していた。リヒャルトという一人の人間の持つ二つの面、一つは配下の兵の命を全く躊躇せず磨り潰せる冷酷な一面。もう一つは自らを愚弄した伯爵令息を闇討ちし、大怪我を負わせた激情的な一面だ。
今回は後者が前面に出た。「金色の暴れ獅子」の面目躍如である。
「命令を下すっ! 我が軍の全部隊があの櫓の下に向かって突撃せよ。他の敵部隊は全部無視だ。あの櫓の下にいるだろう敵将ゲルハルトと摂政ハインリヒの首、それに『大地改変生成の魔法石』を手に入れろっ!」
ざわざわ
今までとはガラリと変わったリヒャルトの具体的な命令にざわめくブロイ帝国軍兵士たち。
「これから先は敵兵の首をいくつ取ろうが褒賞の対象にはしない。但し、ゲルハルトかハインリヒの首を取った者には報奨金五十万ゲルドを出そう」
「「「「「おおーっ」」」」」
「『大地改変生成の魔法石』を取ってきた者には報奨金百万ゲルドに加え、騎士爵を授爵する」
「「「「「おおおーっ」」」」」
上がる喚声。だが参謀はいろいろな意味で真っ青な顔になった。
「行けっ!」
ブロイ帝国軍はロートリンゲン王国軍の本営に向かって突撃を開始した。もちろんロートリンゲン王国軍だって黙って見てはいない。またも地割れが起こされ、多くのブロイ帝国軍兵士が転落死した。
また一直線にロートリンゲン王国軍の本営に向かって突撃する以上、側面はがら空きになる。ロートリンゲン王国軍は当然にそこを狙って攻撃するが、ブロイ帝国軍は突撃を止めない。
「殿下。土砂崩れに遭った兵士の救出は? それに総額二百万ゲルドの報奨金と騎士爵の授爵について国王陛下の許可は得ているのですか?」
リヒャルトは参謀の方を振り返りもせずに言った。
「土砂崩れに遭った奴はもう助からん。そいつらを踏み台にして突撃するような奴じゃねえとゲルハルトとハインリヒの首は取れん。報奨金と授爵はそうだな、もらえることになって喜んだ兵士が前祝に飲んで、泥酔して、川に落ちて溺れ死ぬなんてこともありそうだな」
参謀の顔色は既に青を通り越して白になった。リヒャルトは「ありそうだな」と言ったが、それは「そうしろ」という意味なのである。
◇◇◇
「敵側面を攻撃している部隊に、直ちにこちらに戻り本営を守るよう伝えよ」
大将軍ゲルハルトは指示を出した。だが今回のロートリンゲン王国軍は専門兵の他に初めて参戦した雑兵も多い。「撤退」ラッパで元の位置に戻れという単純な命令ならともかく、自陣を引き払い、本営の防戦に加われといった指示は徹底させることが難しい。
それでも本営を守るロートリンゲン王国軍兵士は頑張った。次々から次へと現れるブロイ帝国軍兵士を倒して倒して倒しまくった。ゲルハルトも指示を出しながら、自らも剣を振るう。
(櫓を建てて、敵兵の位置を把握し、効果的に地割れを作るという方法自体は良かった。だが櫓が一つだけでは『ここが我が軍の中枢です』と敵に教えているようなもんだったな。次回からはダミーの櫓も作らないと。次回があればだが)
戦いながらゲルハルトはそう考える。もはやロートリンゲン王国軍にあって剣を振るっていない者は、「渓谷の魔女」フリーダ、「魔法大臣」ヨハネス、その二人を守る摂政ハインリヒ、そして、神獣ネルだけとなった。
◇◇◇
「くっ」
ゲルハルトが唸る。ブロイ帝国軍の兵士数人の突破を許したのだ。
「ゲルハルト。気にするな。むしろ今までよく防いでくれたぜ。フリーダ。悪いがちょっとだけ俺のそばを離れてくれ。ネル。フリーダを頼んだぞ。ヨハネス。すまんが自分の身は自分で守ってくれ」
「キイッ」
快諾の返事をするネル。
「実戦に出るのは久しぶり。我が杖の攻撃魔法をご覧あれ」
自慢の杖を振ってみせるヨハネス。
「おらー」
ハインリヒの剣に倒されるブロイ帝国軍の兵士。その後ろではヨハネスの攻撃魔法で何人かの兵士が倒される。
「やるじゃねえか。ヨハネス」
「まだまだ若いもんには負けませんぞ」




