外の景色
流は渦から上半身を出すと、首を大きく振って蛾男を投げ飛ばした。そのまま蛾男は近くの雑居ビルのコンクリートの壁へと、B級アクション映画のようにめり込んだ。
渦から外へ出ると、流は再び蛾の形態へと戻り、彼の方へとまっすぐ向かって行った。
壁に大の字で嵌ったまま、滑稽な姿で蛾男が言った。
「おお〜痛え。この野郎…アリクイにもなれるなんて聞いてねーぞ」
「………アリジゴクだろ、バカか?お前」
「チッ…!揚げ足取りしてんじゃねぇ!似たようなもんだろうが!!」
蛾男は壁から飛び出すと、目にも止まらぬ速さのパンチを放った。
しかし、流はそれを片手で容易く受け止めた。驚きのあまり、蛾男は目を丸くした。
「フェッ!?」
「遂に動きが見えるようになったか…。どういうわけなのかサッパリだが、アンタに攻撃されてイラつけばイラつくほど、コッチは強くなってるみたいだぜ」
そう告げると、流は蛾男の下顎に強烈なアッパーカットをお見舞いした。
蛾男は頭部が背中側にへし折れるとともに、空高くへとブッ飛んで行った。
天を仰ぎながら、ようやく流は雨が収まったことに気づいた。どうやらにわか雨だったようである。
「あの程度でヤツがくたばったとは思えないな。どれ…雨も収まったことだ、一気に行くとするか」
流は懐から、縁から授かった紙の束を取り出した。
〇〇発△△行きのジェット機(日本航空☓☓☓便)は、高度1万メートル上空を、何事もなく飛行していた。
到着まで、およそ10時間以上にも及ぶ、長丁場のフライトである。
機内では、乗客数名による、品の無いイビキが鳴り響いていた。
窓際の席で、暇を持て余した幼い少年が、代わり映えの無い外の景色を、口を開けながらぼんやりと眺めていると、首があらぬ方向へと折れ曲がった、蛾のような姿の怪物が、グルグルと上下に回転しながら上に向かってすっ飛んで行く様子が、チラリと一瞬だけ、見えた。
少年は窓の外を見つめながら、隣のシートに腰掛けている若い母親に言った。
「ママ〜、なんか変なのいたよ?」
「へぇ、何が?」
「なんか気持ち悪いの」
「そう、それは大変だねぇ」
母親は、スマホを見つめながら、気怠げに生返事した。画面には『変異者大量発生』なる見出しのネット記事が写っていた。彼女はそれを興味なさげにスライドした。
「ホントにいたんだって〜」
成層圏まで殴り飛ばされた蛾男は、両手で首を元の位置へと正すと、大慌てで羽根を羽ばたかせ、辛くもその場でバランスを取ることに成功した。凍てつくような寒さに身を震わせながら、彼は言った。
「う〜サミぃ…!マジでアイツ何者だ?もう少しで危うく考えるのをやめる羽目になってたぜ!ん…?ゲッ!!?」
蛾男は下方から、ドラゴンやガーゴイルや翼竜を思わせる姿の大量の怪物達が、こちらへと猛烈な勢いで急上昇してくるのを発見した。
その中には、先程の自分に瓜二つの怪人の姿もあった。おそらく、彼が怪物達を率いているのだろう。
「…こりゃ参ったね。しゃーねえ、こっちも切り札を使うとするか」
彼の羽根が、紫色に淡く発光しだした。




