偽物コンビ
作戦の詳細を語らぬまま、偽蝶男は蛾男へと間合いを詰めると、両の拳による猛烈なラッシュを放った。
蛾男はそっぽを向きながら、電話に対応したままで、それらを片手で正確に捌いた。
「…ウザいっちゅーの」
蛾男はそう呟くと、通話の邪魔をするなとばかりに、偽蝶男に蹴りを放ち、彼を遠くへ引き離した。
「いやいや違う違う、こっちの話だって。お前に言ってないから。そんなことより…今ちょっと金欠でさ、家賃滞納してるせいで退去予告くらっちっまったんだよ。悪いんだけどお前…あっ!クソッ!切られた!!」
携帯を仕舞うと、蛾男はようやく偽蝶男の方へと向き直った。
「お前…やっぱただの偽物か、本物に比べりゃ動きが大分トロいぜ。ん?もう1人はどこ行った?」
「ここだ」
いつの間にか背後に回り込んでいた流に後頭部を殴打され、体勢を崩したところを、さらに偽蝶男に追い打ちをかけられ、蛾男は派手に吹っ飛んで行くと、遠くのビルの壁をぶち破り、そのまま建物の中へと姿を消した。
流がビルから立ち込める粉塵を凝視していると、彼のそばで偽蝶男が抑揚のない口調で言った。
「…ヨシ、作戦通リダナ」
「あ………ああ」
…どんな作戦だったんだ?
突然、流は手の甲にふと冷たいものを感じた。
「…雨、か」
直後、滝のような雨が空から降り注いだ。
「マズイナ…」
ずぶ濡れになりながら、偽蝶男がポツリと呟いた。
「マズいって何が…!?」
「君モ知ッテノ通リ…私達、吉見縁ノ作品ハ水ニ弱インダ。ナンセ、絵ダカラナ」
「いやいや、初耳だからそんな設定…!」
「トコロデ…ソロソロコノ口調ヤメテイイカ?」
「勝手にやめればいいでしょ、やめれるものなんですか?それ」
その時、粉塵の中から、蛾男が投擲したと思われる、巨大なビルの破片が、流のもとへと真っ直ぐ飛んで来た。
「…余所見スルナ」
偽蝶男は流の盾となると、破片を食らって水風船のように弾け飛んだ。それでも破片の勢いは止まらず、流の体に食い込んだ。
「ごほっ」
流は撃ち落とされた鳥のように、真っ逆さまに墜落すると、地面へと無様に叩きつけられた。
「クソッ…ん?」
そのまま、しばらく地べたで這いつくばっていると、急に辺りが薄暗くなった。胸騒ぎを覚えて顔を上げると、真上からタンクローリーが落下して来るのが見えた。
「ヤバい…!」
脱出する間もなく、彼はその下敷きになった。
「…ホントはロードローラーがよかったんだけどなぁ、近くに無かったからそれで妥協してやったぜ。あれ?もしかしてくたばっちまったか…?」
蛾男はタンクローリーの近くに降り立つと、流の生死を確認するために、車体を持ち上げようとした。
「…あん?」
足下に渦のようなものが出来ているのに気付いた瞬間、そこから蟻地獄の大顎のようなものが飛び出し、彼の頭部を挟みこんだ。
「痛ッデデエエェェ!?」
続いて、渦の中から流の声がした。
「第二ラウンドといこうか、クソ野郎」




