勝手に戦え!
「ハア?わおっ!?」
蛾男は流の攻撃を間一髪で防御したが、そのあまりの勢いに屋上から吹っ飛ばされた。
そのまま空中で、猫もかくやといった感じで体勢を立て直すと、ビルの上からこちらを見つめている流に言った。
「な…何すんじゃあ!?俺になんか恨みでもあるワケェ!?」
「心当たりがないか、自分の胸によーく聞いてみるんだな」
そう冷たく言い放つ彼に、蛾男は顎に手を当てると、ポツリと言った。
「いや、多過ぎて…」
「………」
流は、恩人を殺した仇である怪人を前にして、どこか腑に落ちない様子だった。
…コイツが本当にあの蝶男を殺したのか?どうもイメージと違うな。もっと邪悪そのもののようなヤツを想像していたが、こんなアホみたいなヤツだったとは…。
いや、騙されるな。この態度はおそらく演技だ。子供達に攻撃しなかったのも、これ以上評判が悪くなるのを恐れてのことだ。そうに違いない…。
流は自分自身に、何度もそう言い聞かせた。
「いくつか質問するが…アンタが本物の蛾男でいいんだな?」
「そんなに何人もいてたまるかよ…。お前もこそ誰だっつーの」
「少し前に…蜘蛛のような姿の怪人を殺したな?何故だ?」
「ん?ああ…あん時か。そりゃ人を襲おうとしてたからな」
「もう一つ…10年前、どうして蝶男を殺した?」
蛾男はしばらく沈黙すると、言いにくそうに呟いた。
「…ちょっとカッとなっちゃった」
流は伏し目がちに深くため息をつくと、淡々とした口調で言った。
「なるほど…分かった。お前も死ね」
そう告げるやいなや、流は羽根を広げて屋上から飛び出し、蛾男のもとへと急接近すると、2発目の拳を放った。
しかし、それはむなしく空を切った。
「何…?」
「おい、どこ攻撃してんだよ」
背後からの声に振り返るが、彼の姿はない。流が動揺していると、再び後ろから声がした。
「お〜い、こっちこっち〜♪」
「ムカッ………」
慌てて振り向くと、蛾男は余裕たっぷりに大きく口を開けて欠伸をしていた。
「訳は分からねえが、そっちがその気なら俺も受けて立つか…」
そうつぶやくと、蛾男の姿がその場から忽然と消えた。
次の瞬間、かまいたちにでも襲われたかのように、流の左肩の辺りが血が噴き出した。
「うっ…!?」
驚いたのも束の間、今度は右足から血が噴き出した。
さらに続けて、身体のあちこちから血が迸った。
どうやら、四方八方から猛スピードで攻撃を受けているらしい。
どこからか蛾男の能天気な声が耳に届いてきた。
「降参するなら今のうちだぜ〜」
クソッ!ようやく確信したよ、コイツは間違いなく本物だ…!
仕方ない…そろそろアレの出番といくか。
流は懐に手を入れると、そこから何かを取りだした。
蛾男が流にダメ押しの一撃を与えようとした瞬間、彼は何者かに顔面に一撃をお見舞いされて、数メートルほど吹っ飛ばされた。
「何だ…?」
どこからか唐突に現れた、流の隣に並んで、白と黒が入り交じった鮮やかな羽根を羽ばたかせるその怪人の姿に、蛾男は目をしばたたせながら言った。
「おいおい…何でお前がいるんだ?チョウチョ野郎」




