有言不実行
「ん〜?」
何者かの気配を察知し、蛾男が上空を見上げると、数体の変異者が彼を取り囲むように、建物の屋上から、虎視眈々と見下ろしていた。
それぞれ、天狗、半魚人、猛禽類を思わせる姿をしていた。
「お〜っと、中ボス共のご登場か?何が起きてるのか知らねえが、ザコ共の相手も飽きてたところだ。面倒くせえから、まとめてかかってきなよ。指1本で相手してやるぜ?」
そう豪語すると、蛾男は小指を立てながら、羽根を大きく広げ、高々と飛翔した。
変異者達が、彼に一斉に飛び掛かる。
その時だった。
「あっ!羽根が滑ったぁ!!」
蛾男はわざとらしく言うと、回転して周囲に鱗粉を散布した。
それをモロに浴びた変異者達は、肉体がバラバラに崩壊して、真っ逆さまに地面へと落下して行った。
蛾男はそのまま、ビルの屋上へと華麗に着地した。
すると、彼の目と鼻の先から、何者かの声がした。
「はじめまして…かな?蛾男」
「あん?」
その呼びかけに、蛾男はおもむろに顔を上げた。
「…はっ!?」
流が目を覚ますと、見知らぬ家のリビングらしき場所で、黒いソファの上で横になっていた。
目を白黒させていると、直ぐそばで聞き覚えのある声がした。
「…目が覚めたかぁ?」
振り向くと、ベレー帽を被った若い男が、ティーカップを手に佇んでいた。
ご存知、吉見縁である。
「アンタが…僕をここに?」
「まあな、俺の作品を助けに向かわせたんだ。感謝しろよ?しかし…俺が居眠りこいてる間に、何やらとんでもないことになってたらしいな」
流はハッとした表情を浮かべると、部屋中をキョロキョロと見回した。
「彼女は…?」
「心配ない、二階でグッスリさ」
突然、上の階からバゴォン!!と大きな音がした。
「い、今のは!?」
「気にするな、ただの寝相だ。いつものことさ。な〜に、家の周りには見張りをつけてある。そう簡単には誰も入っては来れないだろう。イチモツの不安はあるがね」
「一抹では?」
縁は紅茶を一口啜ると、続けて言った。
「どうやら蛾男が現れたようだ。今頃、街でド派手にやってるだろうな」
「…ヤツが?」
流の表情が、一気に険しくなった。
「そりゃ、あれだけデカい騒ぎになればな。外のことなら任せていいんじゃないか?彼なら1人でこの事態を解決してくれるかもしれないぞ?なんせ最凶最悪の変異者様だからな。最近はどういうわけか、ヒーローに転向したのかもしれんが」
「…ちょっとトイレ借ります」
そう言うと、流はソファから立ち上がり、部屋の出口へと向かった。
「おい待て」
「ぎくっ」
縁に呼び止められ、流はその場で固まった。
しまった、こっそり抜け出そうとしてるのがバレたか…?
焦る流に、彼は続けて言った。
「部屋を出て右だぞ」
「あ…ああ」
なんだ、焦らせやがって…。
「…とでも言うと思ったか?黙って抜け出そうって気だろ?もしも蝶男の復讐でも考えているのなら止めておけ。君じゃ蛾男には勝て…」
その時、再び上階からドゴォン!!と音が鳴った。縁はビクッと身体を震わせた。
「うおっ!?ビックリしたぁ!!」
流はその隙をついて、縁の背後に回り込むと、当て身により彼を昏倒させた。
「がぼっ」
流は彼を見下ろしながら、淡々とした口調で言った。
「悪いな、アンタはいいヤツかどうかは分からないが…頼りになるヤツだよ。それじゃあ…やることがあるんでね」
そう言い残すと、流は頭上を少しだけ見上げ、部屋から去って行った。




