お礼の代わりに
騒ぎになる前に2人がショッピングモールを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
遊園地を彷徨っている間に、大分時間が経ってしまったらしい。
突き刺すような夜風が吹く中、帰り道の途中で、縁が流に尋ねた。
「そう言えば…俺の聖剣シュプュ…シュプリューレーゲンはどうした?」
「ああ…あのなまくら刀なら折れましたよ、ところで今なんて言いました?もう一回お願いします」
「だからシュピュリュ…まあいい」
縁は取り繕うように小さく咳払いをすると、話を続けた。
「さっきの女の子のことだが…彼女は由香里の中学の同級生でね、妹につまらないイジメをしてたんだ。それで俺が学校帰りに絵の中に閉じ込めたってワケさ、由香里は何も知らないがね。まったく…許せんよなあ、俺の妹に『ヨーダに似てる』なんて言いやがって」
「はあ」
「まあ…つまり死んで当然のヤツってことさ、あまり気にするなよ」
流は何も答えなかった。
やがて由香里の家が見えてきた。門扉の前まで辿り着くと、流はポツリと控え目な声量で呟いた。
「…今日は色々と巻き込んじまって、悪かったですね」
その言葉に、縁は何かを察したように口角を上げた。
「やっぱりそうか、君…由香里に危険が及ばないように、あえてアイツを遠ざけたな?」
「………」
「な〜に、心配はいらないさ。君なら何が起ころうと妹を守り切れるだろう、現に今朝もそうだっただろ?この俺が言うんだから間違いない。だから…アイツと一緒にいてやってくれないか?君はアイツの初めての友達だからな」
そう言うと、彼はどこからか折り畳まれた紙束を流に差し渡した。
「とはいえ…不安が無いワケではないからな、ヤバい状況になったらコレを開くといい、きっと役に立つだろう」
「…とりあえず礼は言っておきますよ」
縁は門を開けると、まっすぐ玄関に向かった。だが途中でピタリと立ち止まると、振り返って言った。
「そうだ、よかったら俺のギャラリーでも見に…」
「失礼します」
流は背を向けてその場を立ち去った。
翌朝、流がいつものように学校に赴くと、例の教室にはブルーシートが張られており、立ち入り禁止になっていた。
数少ない生き残りである流と由香里は、それぞれ別の教室に移動となった。生徒達の間では、変異者は蛾男によって退治されたという噂が流れているようだ。
ちなみにどうでもいいが、同じく生き残りである春日は、精神的不調により学校を休んだらしい。
流が休み時間に購買に向かっていると、後ろから馴染みのある声が聞こえてきた。
「あ…あの!」
流が振り向くと、ぎこちない笑みを浮かべた、由香里の姿がそこにあった。
「よかった…!無事だったんですね?昨日からずっと心配で…」
「ん?ああ…」
「その…ありがとうございます。流さんがいなかったら、きっと私も…。すいません、何もお礼とか出来なくて…。そうだ、お怪我は大丈夫ですか?確か私をかばって…」
「ああ、たぶん次話には完治してる」
「そ、それはよかったです!それでは、ごめんなすって…!」
ペコリと一礼すると、彼女は流のそばを横切って立ち去ろうとした。
「…なぁ」
「は、はいっ!?」
由香里は不意に呼び止められ、慌てて振り返った。流は背を向けたまま、淡々とした口調で言った。
「別にお礼なんか必要ないが、その代わり…帰りに少し付き合ってくれないか?気になる店があるんだが、1人で入るのはちょいと忍びなくてね。その…君がよければだけどな」
由香里は満面の笑みを浮かべると、心底嬉しそうに言った。
「よ…喜んで!」
その様子を、遠目からしげしげと眺めていた荒井奈美は、廊下の壁にもたれながら、呟いた。
「あ〜あ、また仲良くなってるし。まぁ………いっか♪」




