トイレに死す!!
「どうなってんだよ、マジで…!」
女は焦燥感に駆られながら、そう呟いた。
周囲を見渡せば、辺り一面が濃霧で包まれている。
行けども行けども、殺風景な光景が広がっていた。
もう、どれくらい歩いただろうか?そして、この場所は一体全体何処なのか?
体力が尽きて、女がその場に立ち止まると、ふと視界の隅で、何か大きな塊が蠢いたように見えた。
咄嗟にそちらに振り向くと、霧の奥から黒く巨大な触手のようなものが、女めがけて突っ込んできた。
「ひっ…!」
その時、彼女の背後から2対の羽根を生やした、蛾のような怪人が現れ、携えていた剣で触手を弾き返した。
霧の奥から獣の唸り声のようなものが聞こえるとともに、触手が引っ込んでいった。
「コイツが彼が言ってたヤツか…」
「だ、誰!?」
「詳しい話は後だ。まずは園の中に戻るぞ、多分ここにいるよりはマシだろう」
再び霧の中から触手が伸びてきた。しかも今度は2本だ。流は女を自身の後ろに下がらせると、縁から奪って来た剣を両手で構え直した。
「やれやれ、お次は2本か…!ん?」
流は違和感を覚え、剣の刀身を凝視した。
「折れてるじゃねーか!!ぐわああああ!!」
彼は触手に串刺しにされると、高々と持ち上げられて地面に叩きつけられた。
女が彼を置いて反対方向に逃げようとすると、霧の奥から異形の怪物が群れをなして向かってくるのが見えた。彼女を始末するために、縁が放った作品達である。
退路を断たれて絶体絶命の女は、血を流して地面に倒れ伏している流の頭部に蹴りを入れると、金切り声で叫んだ。
「おい起きろ役立たず!なんとかしろよ!ダセえシャツ着やがってよぉ!」
その言葉に、流の指が微かに動いた。
触手と怪物の集団が、女へと一斉に襲いかかって来る。
「ぎゃあああああ!!」
次の瞬間、触手、怪物ども、おまけに女の全身が同時にバラバラになった。
流はいつの間にか、床がタイル張りの狭い部屋の中で跪いていた。どうやらどこかの公共施設のトイレのようだった。
「あちゃ~!戻って来ちゃったかぁ、もう少しタイミングを選んでほしかったなぁ。ハハッ」
甲高い声に流が顔を上げると、目の前でフードを被った男が小便器で用を足していた。
「2人が醜く争うところが見たかったんだけど…しょうがないか。あっ、ちょっと待ってくれる?手洗うから」
男は用を足し終えると、洗面台で入念に手を洗いながら、流に言った。
「脱出に成功したご褒美として、このボクが直接相手になってあげるよぉ」
そう言うと、男はフードをゆっくりと外した。
大きな丸々とした2つの耳と、黒目がちな目、数本の長いヒゲ生やした、ネズミのような顔が露わになった。
「言っとくけど、ボク結構強いよぉ?ハハッ」
「いや〜、今朝はマジでチビりかけたわ…!遅刻してなかったら俺も危うく首チョンパだぜ」
春日はショッピングモールのゲームセンターで、UFOキャッチャーに興じながら、不良仲間に言った。
「まあ、おかげで休みになったんだし結果オーライだろ」
「まーな、そう言えばずっと小便我慢してんだった。ちょっと便所行ってくる」
そう言い残すと、春日は小走りでゲームセンターを後にした。
「うぃ〜、漏れる漏れ…う゛っ!?」
トイレに入るやいなや、彼の目に飛び込んで来たのは、部屋の真ん中で佇む蛾の怪物の姿だった。
その足元には、パーカーを着た男のバラバラ死体が転がっていた。
春日は思わず大量に失禁すると、悲鳴を上げながら逃亡した。
「ぎいやああああ!!まただァ!!」
「…あれ?ここは…!?」
正気を取り戻した流が困惑していると、トイレの入り口付近に黒いモヤのようなものが現れた。
それはたちまち縁の姿へと早変わりした。
彼は、流と黒ネズミ男の死体を発見すると、すぐに状況を理解したのか、ニヤリと笑った。
「…やあ流君、紆余曲折あったが、無事に2人共脱出に成功したようだな」
薄っすらと記憶が戻って来た流は、青くなりながら彼に尋ねた。
「………もしかして僕やっちゃった感じですかね?」
「俺に聞くなよ、君が一番よく知ってることだろ。なろうみたいなセリフ吐いてないで、一旦ここをずらかるぞ。ん?何だこの床…滑るぞ」




