柵の外
縁は音も無く立ち上がると、流を残してその場を立ち去った。
それから、しばらく歩き続けた後、彼はおもむろに辺りを見回すと、古ぼけたスケッチブックを開きながら呟いた。
「…たまたま、このスケッチブックを持って来ていて本当によかったよ。出てこい」
彼の言葉にスケッチブックが淡く光り出すと、まるで吐き出されるように、紙面から1人の人間が飛び出して、地面に叩きつけられた。
それは、中学生くらいの若い女だった。如何にも不良少女といった見た目をした、中学生くらいの若い女だった。
「あ…あれ?あたし…」
「数年ぶりの外の世界はどうだ?」
困惑する女に、縁はにこやかに話しかけた。女は驚いて彼の方へ振り返った。
「だ、誰だよアンタ…!?つーかここどこだよ!?」
「そうか、俺を知らないか…。だが俺は君をよーく知ってるぞぉ?学校で君が妹に下らない嫌がらせをしていた事をな。だから絵の中に閉じ込めてやったんだ。ちゅーわけで…」
縁がスケッチブックに絵を描き込むと、紙面から剣の柄が生えて来た。彼はそれを抜き取ると、剣先を彼女に向け、言った。
「俺のために生贄になってくれよ」
「…ハァ!?」
女の顔が恐怖に歪んだ。
すると、縁の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おい…アンタ何してんだ?その子は…?」
縁が振り向くと、数メートルほど離れた場所に、流が不審げに佇んでいた。
縁は取り繕った笑みを浮かべながら、彼に説明した。
「き…来たのか流君。コイツはオレが前に書いたラクガキさ、もしかしたら生贄に使えるんじゃないかと思ってねぇ。ホラ、ギリギリ人間に見えなくもないだろう?」
「どういう意味だ、テメ…」
「黙ってろラクガキ!」
流はそのアホらしいやりとりを眺めながら、小さくため息をついた。
「ハァ…見え透いた嘘はやめろ。彼女は何者だ?」
流に看破され、縁は苛立たしげに舌打ちをした。
「チッ…!話すと長くなる、君は大人しくそこに突っ立ってろ。彼女を生贄にして、俺が現実世界に戻り、奴をいい感じにブッ殺せば、君もここを出れる筈だ!」
「それで『はいそーですか』となるワケないだろ、ちゃんと説明…」
「あーあー何も聞こえない〜♪何も聞かせてくれない〜♪壊れかけのレディ…」
2人が揉めてるのを契機に、女は彼らの目を盗んで逃げ出した。
「あっ!しまった!逃がさん!」
「クソッ…悪いな!」
「んぎゃん」
女に斬りかかろうとした途端、縁は流に飛び蹴りをかまされて、あっけなく気絶した。
すると、主人を攻撃されたからか、近くを飛んでいた彼の作品達が数匹、流に襲いかかってきた。
「うおっ…!?」
彼はすかさず、縁が握っていた剣を奪い取り、それらを斬り捨てると、女が逃げていった方へと走り出した。
数分後、女は状況を飲み込めないまま、息を切らしてわけも分からず園内を駆けずり回っていた。
「ったく、なんなんだよアイツら…!」
目の前の小さな柵を乗り越えようとすると、背後から男の声がした。
「おい待て!柵の外には出るな!死ぬぞ!」
女が振り返ると、血まみれのシャツを着た男が、剣を片手に目を血走らせて、こちらへ走って来るのが見えた。
「ひいっ!アイツ絶対イカれてる…!」
女は流の制止を無視して、柵を乗り越えると、園の外へと去って行った。
「…クソったれが」
流は一瞬、躊躇したが、柵を飛び越えて彼女を追うことにした。




