大パニック
『次のニュースはこちらァン♥かつては最凶最悪の変異者と呼ばれ、人々から恐れられた怪人蛾男!ですが近年になって、彼に助けられたという声が増えて来ている模様でぇす♥彼は果たして人類の味方なのか?それとも普通に敵なのか?今回はその正体を探りたいと思いまァす♥それではこちらをご覧くださぁい♥アンアン♥』
土曜日の朝、流は身支度をしながらテレビにふと目をやった。
画面には、街頭インタビューの様子が映し出されていた。
三十代前半くらいの冴えない男が、ヘラヘラした様子で取材者に受け答えをしていた。
『えっ?蛾男ッスかぁ?なんかよく分かんないけど、最近になっていろいろ頑張ってるらしいッスね?いや〜自分も昔から根は良いヤツなんじゃないかと思ってたんスよ〜』
『蛾男ぉ?この前アイツに天井に穴開けられましたよ!しかも2つも!!』
『すいません、急いでるんで…。あの、映さないでもらっていいですか?』
『おい、なに勝手に撮ってんだよコラ。殺すぞテメェ、あ?』
『アーアー、ワタシニホンゴワカラナイヨ』
流はリモコンを手に取り、テレビの電源を消すと、テーブルの上に置かれた、黒いカセットテープをポケットに仕舞い、家を後にした。
街の大通りには今日も、多くの人が往来していた。流は人混みをかき分けながら、電話ボックスのそばで手持ち無沙汰に佇む、由香里の姿を発見した。
「あっ流さん!こっちです!こっち!」
「悪いな、待ったか?」
「いえいえ、お気になさらず〜!放置プレイされるの好きなんで私!」
流はおもむろに先程のカセットテープを由香里に差し出した。由香里は目を丸くさせながら、それを受け取った。
「こ、これは…!?」
「僕がよく聴いてたテープさ。君にやるよ、気に入るかどうかは分からないがね。アナログで悪いな」
「どわ〜!嬉しいです〜!家でたくさん舐め…聴かせてもらいますね!!くくく…」
「なんだよ、舐めって」
由香里はテープをショルダーバッグに収めると、陽気にスキップを始めた。
「それじゃ行きましょう流さん!楽しみですね〜猿カフェ!!」
「いや、別にそうでもない。あと方向が逆だぞ」
その時、背後から何者かのうめき声のようなものが聞こえてきた。
2人が振り返ると、ハゲ頭の男が胸をおさえて、地面に這いつくばっているのが見えた。
すぐ傍にいた派手な髪色のギャル2人が、携帯でその様子を撮影しながら、茶化した態度で男に声をかけた。
「ギャハハ!オジサン大丈夫そ?」
「ウケる」
「え…ええ、大丈………ブワァァァ!!」
男は突然、両目が突き出したナメクジのような怪物に変異すると、2人組に口から謎の液体を吐き出した。それを浴びた2人は、体がみるみるうちに溶け出した。
「なんかウチら溶けてるんですけどぉぉぉぉぉぉ」
「ウケるぅぅぅぅぅぅ」
流達が呆然としていると、続けてあちこちから悲鳴が上がった。
周りを伺うと、あちらこちらで、苦悶の叫びを上げながら変異していく人々の姿が見えた。
「うぎゃあああああ」
「変異者!変異者!」
「やばいやばいやばい」
「待ってママ!置いていかないで!」
周囲が大混乱に陥る中、流はポツリと呟いた。
「これは…?まさか、また奴等の仕業か…!?」




