出欠で出血!!
由香里の兄が何かろくでもない悪巧みをしている頃、学校の駐輪場では放課後にも関わらず、春日率いる不良トリオが、今日も今日とて屯していた。
春日は安物のタバコを嗜みながら、2人に言った。
「この前、元カノと成り行きで久しぶりにヤッたんだけどよ…。アソコ舐めようとしたらとんでもねえ悪臭でさ、気ィ失って病院送りになっちまったよ。いやはや参ったねホント」
「ぎゃあはははは」
「コラ君達〜」
知らぬ間に、すぐ傍に1人の男が佇んでいるのに彼らは気づいた。
男の名は春野陽気。七三分けの髪形に、スクエア型の眼鏡をかけており、常にニヤニヤと愛想笑いを絶やさない、どこか気味の悪い数学教師である。
「あ?」
「もう放課後です、用が無ければ帰りましょう。それと…知っていますか?タバコ1本につき寿命が22分縮むようです。まさに百害あって一利なし、緩やかな自殺みたいなものですね。そういう訳で…もう消しましょうか?」
春日は気怠げに立ち上がると、ガンを飛ばしながら、春野の目と鼻の先まで顔を寄せた。
「…あいよ、先生」
そう言うと彼は、タバコの火を春野のグレーのスーツに押し付け、消火した。
「…人の衣服で消すのは感心しませんねェ」
眉ひとつ動かさず笑みを浮かべ続ける春野に、春日は逆にたじろいだ。
「…反応薄っ」
「行こーぜ行こーぜ」
3人が去るのを見送ると、春野はポツリと呟いた。
「…ところで、何か私に御用ですか?」
いつの間にか、駐輪場の柱の影に立っていた小柄な人物に、春野は背を向けたまま言った。
「ああ、ひとつ頼みたいことがあってね。聞いてくれるかな?」
「…ええ、喜んで」
春野は後ろに振り返り、そう答えた。スーツの焼け跡はすでに消えていた。
「はぁ゛〜〜〜………」
翌朝、由香里が深いため息をつきながら玄関で靴を履いていると、その様子を見かねた縁が、後ろから心配そうに声をかけてきた。
「本当に大丈夫か?由香里」
「もぉ〜、兄さんてば心配性ですねぇ!私はいつだって元気ムラムラですよぉ?」
そう言って由香里は引き攣った笑みを浮かべながら、兄の方へ振り返った。
「そ…そうか、それなら構わないが…」
「じゃあ、行ってきます!兄さん」
「その前に行ってらっしゃいのハグを…」
由香里はドアをガシャアン!!と音を立てて戸を閉めると、伏し目がちに自宅を後にした。
由香里が教室に到着すると、流は既に着席していた。
いつものように、すました様子で音楽を聴いているようだ。
由香里は彼と目を合わせずに、無言で近くの席に腰掛けた。
2人は同時に思った。
気まずッッッ。
しばらくして、担任の教師がやって来た。
担任はそのまま教壇の上に立つと、大きな声で開口一番に言った。
「よーし、みんな席につけ〜」
生徒達が着席したのを確認すると、教師は教卓に寄りかかりながら、軽い口調で言った。
「それじゃ早速…『出血』とりま〜す」
そう宣言すると、教師の右腕がぐにゃりと変異を始めた。
生徒達が目を丸くしている中、流の叫びが響き渡った。
「まずい…!伏せ…!」




