13話
ルスと狼は暫く睨み合っていた。
覚悟を決めたルスは杖を強く握る。
それが合図かのように狼が襲い掛かってきた。
杖の先の炎で牽制をする。
狼は余裕を持って躱し、隙を見てとびかかる。
ルスは身体ごと避けた。
ルスの背後にあった木に狼の攻撃が当たる。
木は大きく抉られていた。
(想像以上の威力だ。直撃したらひとたまりもない)
ルスは杖の炎をつけたり消したりしながら距離をとる。
追いかけてきた狼の足は速く、どんどん距離は縮まっていく。
再びとびかかる狼を躱しつつ、ルスは杖で頭部をはらうように叩いた。
攻撃を食らった狼は叩かれた方向に少し飛び倒れる。
しかしすぐさま起き上がり、頭を振った。
距離を取っていたルスのもとへ駆けていく狼。
(賭けに出るようで嫌だったけど…!)
魔力量と体力を気にしていたルスにもう一度飛びかかる狼。
ルスは杖の先に青い火の玉をつけ狼に向けて振る。
狼は身体をひねりそれを躱し、着地時の足をバネにしルスに別角度から攻撃を仕掛けた。
ルスは杖を向け呪文を唱える。
「ウィンド!」
杖の先から突風が巻き起こる。
それは宙に浮いていた狼をしっかりと捉え、物凄い勢いで押し返した。
後方にあった木まで一気に飛ばされ、打ち付けられる狼。
風が止んだ後、狼は木の根元へ落ち動かなくなった。
「呪文、合っていたみたいだ」
ルスはほっと息をつく。
シンプルな単語で安心した。
発生したドロップがルスの方へ飛んでくる。
ルスは手前に転がったそれを拾い上げた。
「ネズミたちのより大きい。強さによるのかな」
そう考えると試験官のコイアから出たドロップはかなり大きかった。
あれを越えるものは存在するのだろうか。
「ルス!無事!?」
離れたところから声がする。
声の方に目を向けると、息の上がったラヴィがこちらを見ていた。
「うん」
ラヴィは心底安心した様子で息を吐いた。
その後ルスに駆けよる。
近くまで来ると両ひざに手を置き、息を整えた。
「ラヴィも無事みたいでよかった」
「…ありがとう」
「じゃあ、とりあえずギルドに戻ろう」
「ええ」
二人でゆっくりと街に向かう。
「まさか本当に一人であの魔物を倒すなんて…いや、それよりも風属性魔法を使っていたわよね?」
「うん。どうなる事かと思ったけど何とかなってよかった」
「呪文を当てた上に一回で使いこなすなんて…本当にルスは何でも出来そうね。風属性の魔法って難しいのよ?風はまとまりにくくて、すぐ力が分散してしまうの。制御が出来ないと、あっという間に効果が薄れてしまうわ。使いこなせればかなり応用が利くのだけれど、その難易度の高さから魔法使いの中でも利用者は少ないわ」
「確かに難しかったかも」
「難しかったかもって…ほんともう」
気の抜けた返答に思わず笑ってしまう。
話ながらラヴィは、彼の風属性魔法を遠目からみた時の事を思い出していた。
(本当にすごい事なんだから!あの魔物を倒したことも、風属性魔法の使用も。それに相変わらずのコントロール。魔物にはしっかり当たっていたけれど、威力に対して周りの草木はあまり揺れていなかった。それは魔法を必要最小限の範囲に纏めたという事。魔法に触れて1日足らずであれが出来るなんて今でも信じられないわ)
難しい顔をしていた彼女にルスは話しかける。
「そういえば保護したあの子は?」
「安全なところまでは連れていけたわ。でも正体がこの国の王女様だと私がわかった時に、逃げるように去ってしまって」
「え、王女様だったの?」
ルスは驚いた。
そんなに偉い人が一人でいることはあり得るのだろうか、と疑問に思う。
「正体をバレたくなかったようだし、国王様たちには内緒でこっそり抜け出してきたのかも。あの場所への単独行動…何か理由がある気がするわ」
「そうだね。国の人達は捜索中なのかな」
「恐らくそうね。一大事だもの」
「…あそこで王女様を見たことは、言わない方がいいのかな」
「どうするべきかしらね。王女様の気持ちとしては言わない方がいいのだろうけど」
「とりあえず生きていることは伝えてあげたいけどね」
「でも『王女様はまだ生きている』なんて伝えたら私たちが攫ったみたいじゃない?」
「確かに…それはお金とか要求する流れだよね」
「それ、本で読んだことあるわ。せっかく助けたのに逆に悪人にされるのは勘弁したいわね」
ふふっ、とラヴィは笑う。
結局結論は出ず、二人で悩みながらギルドへ向かった。
冒険者ギルドの受付に着くとクラメはいつもの笑顔で迎える。
「お疲れ様です!クエストの方はどうでしたか?」
「終わりました。ドロップを渡せばいいんですよね」
ラヴィがバッグから袋を取り出す。
今回獲得したドロップは全てそこに入れていた。
ラヴィの用意がよくてルスは感謝したものだった。
「確認させて頂きます…えっ!?」
眼を丸くする受付嬢。
「もしかしてこれ、全部あの魔物のドロップですか!?」
「そうです」
「えっ、本当に…!?ネズミのドロップを一度にこんなに持ってこられた方は、今までいらっしゃいませんでした!私の知る限りダントツで多いです!」
クラメは目の前にしてもいまいち信じられず、厚底なのでは?と手で軽く探ってみる。
そうではない事を確認したと同時に、他とは違うものが混じっていることに気付いた。
「何か違うものが混じっていませんか?」
「あ、そういえばアレも入れちゃったかも」
「確かに。ついでにって入れた気がするわ」
クラメは中から取り出してみた。
「え、ええええっ!!?これ、中級魔物のドロップじゃないですかぁ!?!?ど、どうしたんですかぁ!?」
「倒しました」
「倒したんですかぁ!!?」
ごく普通の返答に心底驚くクラメ。
彼女は興奮して大きな声で話しているが、本人は気付いていない。
それはロビーにいた冒険者にも内容が聞こえる程度の音量になっていた。
「あ、あの攻撃力の高くて素早い魔物ですよね!?あの魔物はオオカミと言うんです!あの種は狂暴で、経験の豊富な冒険者の方でも手古摺る、油断するとパーティに大打撃を食らう魔物なんですよ!?お二人とも冒険者になって日は浅いですよね!?え、今パーティのランクは何でしたっけ!?」
「Fランクです」
「Fランクでオオカミを倒したんですかぁ!!!?」
クラメの反応が良すぎてルスは少し笑ってしまう。
ラヴィは彼女の反応と言葉に密かに共感していた。
ロビーの方からざわめきも聞こえてくる。
「Fランクパーティであの魔物を!?」
「俺たちだってまだ倒していないのに」
「本当なのか?」
皆ルス達の功績に驚いていた。
「Fランクであの魔物を倒したという話も、私は聞いたことがありませんよ!?私だったら絶対勧めませんし、出会ったら無傷で逃げることも難しいので、そもそも縄張りに近づかないでほしいくらいです!」
「偶々出会ってしまって」
「偶々!?出会って!?倒したんですかぁ!?!?」
クラメは信じられないという表情をずっとしている。
「と、とりあえずこれはお返ししますね!私はそれ以外のドロップを確認してきます!なにせ数が多いですし!少々お待ちくださいぃ!」
彼女は袋を持ってパタパタと奥の部屋へ消えた。
「凄い驚かれたね」
「驚くわよ普通の人は」
ラヴィが苦笑する。
「なあ本当にお前らが倒したのか?」
不意に男が話しかけてくる。
そちらを見ると、明らかにガラの悪いチンピラの様な男が四人いた。
ルスは嫌な予感がした。
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