12話
悲鳴の上がった方へ走る二人。
木々の間を縫うように進むとフードを被った人影があった。
ラヴィより少し小柄な、少女の声の持ち主は一生懸命走っている。
人影の背後に入り、走ってきた方角を見ると狼の様な魔物が少女を追いかけてきていた。
杖の先に炎をつけ、それを向けることで牽制する。
走っていた狼は警戒し、ルスから距離をとり止まった。
その視線は依然鋭く、今にも襲い掛かってきそうだ。
「ラヴィ!保護できた!?」
視線を逸らさずに、後方にいるであろう彼女へ問いかける。
「ええ!大丈夫よ!」
「なら街へ連れて行ってくれ!僕はここで足止めする!」
ラヴィは迷ったがルスを信じることにした。
「分かったわ!くれぐれも無理はしないで!」
そう告げると、保護した少女と一緒に走り出した。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
脇目も振らず走り続けるラヴィと少女。
気が付くと走りやすい道に出ていた。
少女が被っていたフードはいつの間にか捲れ、背中側に垂れている。
ウェーブがかかった美しい髪が露わになっていた。
(この子、どこかで見たことがあるような)
ラヴィはそう感じつつも思い出せずいた。
「はぁ、はぁ…そろそろ大丈夫かな。少し休憩しましょう」
「はぁ、はぁ、はぁ…わ、分かり、ましたわ」
お互いの体力も考え、一旦立ち止まる。
街も近く、魔物が少ないところまで来たので暫くは安全だろう。
「助かりましたわ」
少女、と言っても年はラヴィとさほど変わらないであろう彼女は、肩で息をしながらも丁寧に告げる。
「いえ、ご無事でよかったです」
ラヴィも息を整えながら返事をした。
フード付きの上着はどこかで転んだのか汚れも目立っていたが、少女はそれらに似合わず綺麗な顔をしていた。
上着が大きくあまり目立たないが、よく見ると内側の服もそこはかとなく高級感が漂っている。
「あれ、もしかして…」
顔を見たラヴィは彼女の事を思い出した。
「あっ…!」
しまった、といった顔をした少女は、慌ててフードを被る。
「このご恩はどこかで…!」
「ま、待ってください!」
少女は振り向かず走り去っていく。
街まで目と鼻の先であり、体力の消耗も激しかったラヴィは無理に追うことはしなかった。
「どうして王女様がお一人であんなところに…?」
呆然と立ち尽くす。
(分からない事だらけだけれど、とにかく助けられてよかった…)
ラヴィは来た道を戻り始めた。
(さて、どうしようか)
後方の足音を聞きながらルスは考えていた。
目的の少女が追えなくなっても、狼の意志は変わらないようだった。
逃げていた少女というより人間自体に恨みがあるのかもしれない。
(ラヴィから他の呪文を聞いておきたかった)
少女の安全を第一に考え、直ぐに行かせたことは間違っていない。
しかし、どこかしらのタイミングで他の属性の魔法もしっかり学んでおくべきだった、と後悔する。
植物に囲まれたこの場所での火属性魔法の使用は、細心の注意が必要だ。
火事の危険性を考えるとかなりの制限を受ける。
草木の少なかった歩きやすい道に戻りたいが、そう簡単には出来ないであろう。
(火事が広がらない程度に使えばどうにか…)
隙を見せると目の前の狼にやられると考え、ルスは顔を狼に向けたままでいた。
沢山の草木が生い茂る中で、万が一燃やしたとしても周りに燃え広がらないような木が無いか探そうとする。
そんな時、左腕が疼いた。
(こんな時に…!)
これに関しては無視できなかった。
視線をずらすだけで見えるところまで左腕を上げ、内容を確認する。
『特殊クエスト:植物を燃やさない
失敗時:自分が瀕死になる』
(また理不尽すぎる…いや、これはかなりまずい)
失敗時には再び瀕死という言葉が使われていた。
万が一自分がここで瀕死になった場合、確実に魔物にとどめを刺されるだろう。
先ほどから誰かが近くにいる様子もない。
(どうにか一人で切り抜けるしかない…!)
ルスは覚悟を決めた。
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