5-2
日も暮れてきたころにやっと食品関係の段ボールの
精査が完了する。
缶詰があるのはもちろんの事、
各種野菜の種があったのは僥倖だ。
若干の不安要素として液体系の調味料に
不安が残るが、何もないよりはましである。
すぐに使えそうな物をセットにして
中を綺麗にした冷蔵庫に格納し、
それ以外は再梱包を行う。
入れる物がなくなった段ボールは
まとめて簡単に紐で縛り、部屋の隅にまとめておく。
きっとスラ子やフーシェが戻ってきた際には
クリエイティブなおもちゃとして
二人の知育に大いに貢献してくれることだろう。
そんな未来予想図に微笑みながら
今ここに居ないスラ子の安否を心配する。
そう、現在王都に向かっているはずの
お嬢御一行の一員であるはずの私が
日中宿殻の中にこもって作業しているのには
スラ子の件も含めて訳がある。
さかのぼること先日。
街を出立する際に回収してきた馬の中から
ちゃっかり一番いい馬をお借りしたお嬢が
順調に旅路を進めて山岳地帯に差し掛かった時である。
グラインバルム王国の中央と西側を隔てる
巨大な山脈でお嬢がショートカットをするために
魔法飛行を行おうとしたその時。
「な!」
そういってスラ子がお嬢の杖にとりつくと
フーシェの時にやった飛行形態へと変身する。
あの時はお嬢は手いっぱいでこのことに気が付いて
いなかったが、この場においてその変身能力を
知ったお嬢は大歓喜。
「凄い!スラ子ちゃんそんな特技があったのね!?」
「なな!」
スラ子の変身状態での強度を確認すると、
最小限の魔法制御で効率的に飛行できると大喜び。
『どうです?すごいでしょ?』
「は!?なんであんたが偉そうにしてんのよ!」
『私の教育の賜物みたいなものですから?』
「あ゛!?じゃああんたこのこと知ってたの!?」
『もちろん!風の精霊の時は
これでスラ子に助けてもらいましたから!』
そう、今思い返してみれば悪手だった。
スラ子の凄さと私の活躍を
アピールできるチャンスだと思ったのだが、
お嬢は逆にとらえたらしい。
スラ子のこの特技が街の時点でわかっていれば
今までの工程も短縮できてよかったと。
あんたは何でこんな重要な事を黙っていたのかと。
そう、もうこうなってしまったら結末は見えている。
私に弁解の隙を与えもせずに
深い谷底に向かって私を全力投球するお嬢。
考えて実行するまでになんの躊躇もなかったと見える。
早かった、実に早かった。
普通の生物であれば何が起こったかを把握する間に
岸壁に体を引き裂かれてこと切れていたことだろう。
だが、そこは幾度となく死線を乗り越えてきた私。
状況認識が混濁する = 死
というテンプレートが染みついたこの体が、
すぐさまに脳の処理速度を加速させ
壁面への受け身という奇跡的なアクションを
やってのけた。
そうして壁面の岩や砂を削りながら
落下が止まる頃には、既にお嬢は空高く飛び上がり
山を越えているところだった。
マジかよ。
いつもの事といえばいつもの事のように感じるが、
またもや置いてけぼりを食らった私。
しかもいつにないハードな状況で。
ふふ、なんかこんな状況でも動じなくなってきた
私のメンタルが怖いな。
やれやれといった面持ちで落ち着いて
這い上がるための道筋を探す私。
これだけ落ち着いていられるのも私の成長の賜物
と言って過言ではないが。
「今のすごかったよ!」
もちろんこのお方の存在も大きい。
いつの間にやら宿殻の中から出てきた
フーシェがさわやかに微笑みながら話しかけてくる。
そう、この精霊を私が制する限り
何も心配する必要もない。
むしろ、スラ子抜きでこの状況を脱し、
お嬢に追いつくという成果を見せることが出来れば
あのお嬢のお褒めのお言葉など思うがままだ。
ふふ、実に素晴らしい。
「よよ?素晴らしいよ!」
そうだね。それでフーシェにお願いがあるんだけど。
私が改めてフーシェにお願いをしようとしたところ
私の考えを制してフーシェが『ちっち』と指を振る。
「わかってるよ!任せてよ!!!」
何という自主性。
何という貢献心。
宿殻の中で座ったままのあいつにも
見習ってほしいものだ。
こうしてフーシェに街までの運搬を任せつつ、
宿殻の外に出ていると目が回るため
宿殻空間内で荷物整理をしているわけだ。
「ついたよー!」
私の荷物整理と回想がひと段落付いたところで
タイミングよくフーシェの声が届いてくる。




