4-21
HEY☆YO!UMA!!!
確かこんな掛け声だったなと、
うる覚えの掛け声を念じて合図を出す。
するとその掛け声に合わせてしなるムチが
馬の尻を叩いてその足を急かす。
素晴らしい乗馬技術によって今私たちは
草原を駆け抜けつつお嬢の下へと向かっている。
というのも約束事の取り決めの後で
フーシェから余罪について取り調べを行っていると、
お嬢がここまで乗ってきた馬や、
この街で保有していた馬を街から離れた草原に
放し飼いしていることが判明。
フーシェももう十分満足しているらしく、
快く馬の回収を承諾してくれたので
今こうしてリーダーらしき馬を手なずけて
馬御一行を先導しているわけだ。
ふと、振り返ると10~20頭はいるのだろうか?
なかなか壮観な光景が背後に広がりつつ
そんな馬達を束ねるひときわ大きなリーダー馬を
難なく操れるこの乗馬技術。
スラ子。これだったら狙えるぞ。
ナンバーワンジョッキー!
「なな!」
走行中のため声だけしかわからないが、
元気よく返事を返すスラ子。
ふふ、この子はホント出来た子で、
もう将来が楽しみでしょうがない。
語れる相手がいるのならばしっかりと
場所をセッティングしてスラ子のすばらしさについて
懇切丁寧に刷り込み教育を行いたいところだが
残念ながら今は相手も時間もない。
肩をすくめつつ前方を確認すると、
もうすでに街の入り口が見えている。
本来であれば人通りの在りそうな街の周辺だが
まだ人影も見当たらないので
スピードを落としつつ駆け足程度のスピードで
お嬢が寝ている宿の正面までやってくる。
「ヒヒーーーン!」
「なーなーなー」
完全停止の指示を出すとあたりに響き渡るように
馬がいななき自分の存在を誇示する。
その様子を見てついてきた馬たちも
ここが到着地点だと認識したらしく各々が
辺りにたむろし始めた。
すると。
「あ゛ーーーもう、何なのよ」
宿の窓からぼさぼさになった髪の毛を
手櫛で整えながらお嬢が顔を出す。
お嬢!!!
寝ぼけ眼ながらしっかりとしたそのたたずまいは、
お嬢の体調に問題がないことを物語っている。
『見てください!
さらわれていた馬を見つけてきましたよ』
ここぞとばかりにアピールをする私。
そう、信賞必罰は世の理。
さすがのお嬢もこれを見れば・・・。
眼前に広がる光景に
眠気が一気に吹き飛んだ様な表情のお嬢。
私と黒板の文字と馬を何度か見返して
ふっとりりしい表情を緩ませる。
「あんたもなかなか「な!」」
そんなお嬢のお褒めのお言葉を遮るように
馬を操りお嬢と私の目の前に現れるスラ子。
「なー!」
そういって馬を止めると
お嬢のささやかな胸へ飛び込んでゆくスラ子。
「スラ子ちゃん!?すごい。
貴方がこれをやったの?」
「な!」
「凄い。すごいわスラ子ちゃん!」
そういってスラ子を掲げると改めて
頬擦りしながらスラ子を撫でまわすお嬢。
そう!そんな感じで!そんな感じで私も!!!
夢にまで見た主従関係の理想像に突き動かされた
私の体が窓枠から私の体をお嬢へと飛び立たせる。
っなぁ!ぅなぁ!!!
スラ子になった気分でお嬢へとダイブすると
それを捉えたお嬢の眼球が速やかに私のみ眉間を捉え
その焦点に向けて最小の動きでエルボーを繰り出す。
っふぁ!?
私の体幹を鋭い針のように貫いた衝撃は
私の意識をゆっくりと鈍痛の向こう側へと
引っ張ってゆく。
「人の手柄横取りしてんじゃないわよ!」
いあ、ち、ちが・・・。
弁明しようと伸ばしたハサミは私の意識と同時に
宿屋の床へと力なく落ちた。
「いやー、さすがリサ・ベルクヴァイン様。
よもや単独で中級精霊の討伐に成功されるとは」
フェードアウトしていた私の意識が
徐々に戻ってきた際に耳に入ったのは
この街の長からのお嬢への謝辞だった。
「消し飛ばしたから討伐の証拠はないけど?」
「えぇ、えぇ、本来であれば提出していただきたい
ところではありますが、相手が精霊ということもあり
街を取り巻いていた固有魔素の霧散。
これで任務達成とみなして問題ありません」
ニマニマ笑いながら長が手をもんでいる。
「今回の報酬は?」
「えぇ、最初に提示した額で問題ありません」
その長の返答に目を見開くお嬢。
「畑は大丈夫なの?」
「あーっと、そちらですか・・・。
そちらは後ほど試算してギルドへ
請求を出すかもしれません。
ただ、この街のために孤軍奮闘してくださった
リサ・ベルクヴァイン様の活躍を鑑みて
この御恩に報いる形になるよう
こちらも努力させていただきたいところです」
「そう」
その言葉を聞いて気を張っていたお嬢の肩から
自然に力が抜けてゆく。
「じゃあ、私は先を急ぐから」
「なんと!それは残念。
本来であれば偉業達成を祝して宴を
開きたいところでしたが・・・」
それを聞いて『いらない』と簡単な手の振りで
返事を返すお嬢。
「そうですか、それでは私も復興のため、
何よりこのオンに報いるため
すぐさま仕事に取り掛からせていただきたいと」
そう、言って部屋のドアを出た長。
「では良い旅を」
そういって笑顔で扉を閉めて去ってゆく長。
なんだか引っかかる感じがあるのだが、
お嬢はそれどころではないらしい。
長の足音が聞こえなくなったころ合いで
一気にかの表情が緩んだお嬢が、
テーブルの上に乗っかっていたスラ子を抱き上げると
嬉しそうにまた抱きしめる。
「くぅーーー。やったわよスラ子ちゃん!」
「な?」
「そうよ。中級精霊の討伐なんてお爺様だって
された事ないんだから。」
そういってくるくるとその場を回るお嬢。
見ているこっちまでうれしくなってしまう。
事の真相なんてこの際忘れてお嬢の歓喜に便乗する。
『おめでとうございますお嬢!』
そういって黒板を掲げつつお嬢にはいずり寄る私。
そしてそんな私に気が付くとまるでオセロを
ひっくり返したかのごとく態度が豹変するお嬢。
あからさまな舌打ちをすると身だしなみを再度整えて
旅の準備か持ち物の整理を始める。
えぇー・・・。
えぇぇぇーーー・・・・・・・・・。
あまりにも理不尽な態度に全身の力が抜けてゆく私。
「なー」
そんな私をお嬢から解放されたスラ子が
慰めに来てくれる。
ありがとうスラ子。ありがとうなんだけど・・・。
スラ子にはいつも感謝している。
でも、それとは相いれない
どす黒い感情が私の中で渦巻いている。
だが、何だろうこの気持ち。
愛憎渦巻くというのか激しい感情と眉間の痛みが
私に襲い掛かってくる。
あ゛ー!もうコイツ!!!
もう体の動くままに任せて
思いっきりハサミを突き出す私。
「な!?」
驚くスラ子をハサミで優しく捕まえると
気が済むまでこねくり回す。
ホント!タイミングが悪いんだからな!!!
「な!な!な!」
一先ず落ち着くまでスラ子を堪能し終えるころには
お嬢の備品確認が終わったらしく。
「ほら、あんたたち。もう出発するわよ」
との声がかかる。
その宣言に渋々スラ子を離す私は。
良いか?次から割り込んだりしちゃダメだぞ?
「なっ!なっ!」
わかっているのかいないのか。
元気よく飛び跳ねるスラ子。
コイツめ!
思わず二回戦に突入したくなる気持ちを抑え。
背中の宿殻へとスラ子を乗せると、
部屋を発つお嬢の後をせっせと追いかける私であった。
GWも終わり執筆再開。
お嬢に届いた手紙の内容をのせようか悩んだが
持ち前の気力不足でお蔵入り。
次から5章




