4-20
「っは!」
気が付くと先ほど確認した箇条書きの文章と、
その下に付け加えられた4行の文字が加えられた紙が
私の目の前に置かれている。
「・・・じゃあ、名前書いてみよっか?」
レガさんにそっとペンを握らされる。
「そっか、そうだよね?名前は書かないとね?」
名前を書こうと意識したその瞬間である。
不意にもやのかかっていた意識が一瞬で晴れ渡る。
「ってなんでやねん!!!」
手に握っていたペンをちゃぶ台へに叩き戻す。
危うく流れに飲み込まれるところだったが、
いつの間にか手のくわえられた契約書に
おいそれと名前を書くなんて下手は打たない。
自分の頬を両手で叩くと、
紙を手に取って文面を一行一行丁寧に見返す。
しっかりと二度見した後、念のため紙の裏側まで
ひっくり返して確認を終えて、
改めてこの紙に加えられたのがこの4行だけで
あることを確認する。
付け加えられた4行は上から。
定規で引いたようなまっすぐな線で『レガ』
丁寧な文体でどうやって書かれたか謎な『マッキー』
震えた線でほっそりと『スラ子』
走り書きの様に『フーシェ』
と書かれている。
「フーシェ?」
「そうだよ!私だよ!」
そういってすぐ近くにいた風の精霊が
私の頭にくるりと舞い降りる。
「そっか、お前フーシェっていうのか!
可愛い素敵な名前だね」
「えへへ、ありがとうだよ。あ!でも秘密だよ」
「おう、わかったよ」
頭の上に寝っ転がって嬉しそうに足をばたつかせる
風の精霊ことフーシェ。
ということは一先ずこの場に見知らぬ5人目は
いないということで大丈夫だろう。
文面と不審者の確認が済んでほっと胸をなでおろすと。
「よよ?じゃあヤドカリさんのお名前は?」
そういってフーシェが私に尋ねてくる。
「そうだね。私の名前は・・・」
机に戻したペンを取りすらすらと名前を書く。
「『カニ太郎』っていうんだよ」
「わー、カニ太郎だ。よろしくだよ」
「はは、よろしくね」
人形サイズのフーシェが嬉々として頭を
こすりつけてくるのでそれに応えて
指先で軽く撫でてあげる。
「な!ななぁ!!!」
「っちょ!スラ子!」
それに反応したスラ子が私の胸に飛び込んでくる。
「なぁ、なな、な!」
そういって触手で『スラ子』の文字を強調してくる。
どうやらフーシェに対抗しているらしい。
しっかりしたところもあるが
こういったところはまだまだお子様のようだ。
両手でつかみ上げるとぷにぷにとマッサージ風に
スラ子の体を撫でまわす。
「っな!っな!」
そういって喜ぶスラ子を抱きなおして一息つく。
最初はなんだか突然の事で取り乱してしまったが、
こうして落ち着いてみれば旅の仲間が増えて
にぎやかになるのはいいことなんじゃないか?
そう思ってほっこりしている私に向かって
現実の代弁者がやってくる。
突然音もなく立ち上がったレガさんが
ゆっくりと私に近づくと。
「・・・なぁ」
そういってひんやり冷え切った兜をゴリゴリと
私にこすりつけてくる。
「っちょと!え?・・・なに!?
まって!いたい、痛い、痛い!イタイ!!!」
押しのけようにもびくともしないレガさん。
素肌に密着した金属が左右に回転することで
赤みを帯びる膚。
「・・・なぁ」
そうして突然動作をやめるとちゃぶ台を指さして
スラ子の鳴き声の真似をする。
「「「・・・」」」
誰一人動けない静寂が先ほどまで和やかだった雰囲気を
一瞬にして凝固させる。
「・・・な」
そしてそんな凝り固まった空気を打ち崩そうと
再び動き出したレガさん。
無論、私がそんなことを許すはずもなく。
素早く甲冑をポンポンと二度叩くと。
「よし!いい子だから端っこで大人しくしてような?」
「・・・ふふ」
私の対応に満足したのか、そっと立ち上がり
マッキーの前へ再び正座をするレガさん。
そう、この旅はこんな得体の知れない存在を
お嬢から隠しながらのハードな旅なのだ。
浮足立った自分の気持ちに喝を入れて
再び状況の整理に戻る私だった。




