3-21
顔を出した太陽に両手を広げて大きな背伸びをすると、
井戸から冷たい水を汲んでお嬢の起床を待つ。
昨日から寝っぱなしなので
今日もいつ起きてくるかはわからない。
だが、塔での生活で朝水を汲んでお嬢に届けるのが
私の一つの日課になっていたので
体に染みついた習慣として行ってしまう。
ふふ、我ながら何という殊勝なのだろう。
そう仮眠室付近で悦に浸っていると、
ダンジョンの水晶で見た際にお嬢と一緒にいた
パーティーメンバーらしき人達が現れる。
「お嬢!お嬢はいるっすか!?」
お嬢をダンジョンに連れて行った際に一緒にいた
若い青年が朝のギルド内にわりかし響く声で
お嬢を連呼する。
そして、そんな声が聞こえたのか仮眠室のドアが開き
中から眠たげな顔をしたお嬢が現れる。
『お嬢!おはようございます!!!』
そういって井戸水で満たされた桶を差し出すと、
しばし桶を見つめてから軽く顔を濡らすと
睡眠用の部屋着で顔を拭いて声の方向へ歩いてゆく。
「お嬢!おはようございます!!!」
私と被る青年の朝の挨拶に一切の表情を変えずに。
「何?また何かやらかしたの?」
「な、なに言ってるんすか!?
そ、そんな事あるわけないじゃないっすか!?」
突然の指摘に慌てる青年。
「まぁまぁ、お嬢。
ラウルだって今回のミスを払拭しようと
張り切っているだけなんですから」
そういって二人の間を取り持とうとする
リーダー風の中年が助け舟を出す。
「そ、そうっす!お嬢が先を急ぐと聞いて
旅の支度を整えておいたっす」
「私も一緒に確認しましたし、今回は大丈夫ですよ」
二人のどことなくもろさを感じる説得に
寝癖を手櫛で整えながらしばし考えたお嬢が。
「トーマス」
そう言って中年を手招きで呼び寄せる。
「別に私はあいつが何をやらかそうが
いちいち感知はしないわ。
私が対応しないといけない面倒ごとになる前に
始末をつけてくれるならね?」
そう言われて朗らかな笑みを崩さない中年。
「ただもし、アイツのせいで
これ以上私の手を煩わせるようなことがあれば
あいつの職業が冒険者から
ウェイトレスになるかもしれないとだけ言っておくわ。
あぁ、あんたの事も歓迎してくれるそうよ」
「すまん!ラウル!
私にはこれ以上お前を助けることは・・・!」
お嬢の説明を受けた中年は即座に青年に振り返り
頭を下げる。
「ちょ!!!突然何を言うんすか!?」
何か揉め始めた二人を他所に、
実際に私が会うのは初めての二人の下へお嬢が向かう。
一人は全長が2メートルに届くかという大男。
もう一人は全身ローブで体を隠した
魔法使い風の者だが、しぐさからして女性かな?
「二人とも今回はご苦労様。
ホントはもっとゆっくりしたかったんだけど
謁見があるからこれ以上・・・」
二人とも無言で首を横に振る。
どうやら二人とも無口キャラらしい。
「大変だろうとは思うけど、
あのバカ二人が暴走しないようにお願いね?」
コクリと二人がうなずくと
やっと安心した表情を見せるお嬢。
「じゃあ私着替えてくるから」
そういってお嬢が仮眠室に戻ってゆく。
残されたトーマスと呼ばれた中年と
ラウルと呼ばれた青年は二人とも
椅子に座り青ざめた表情で祈るように手を組んでいる。
ローブもすぐ近くの椅子にちょこんと姿勢正しく
座っている。
そして残された私と大男。
「・・・。」
無言で私の事をずっと凝視してくるんだが、
こいつは一体何なんだろうか?
私も特にすることがないのでこの大男を
見つめ返す。
大きい体に対して微動だにしないそのたたずまいからは
出来る男の気配がする。
「・・・。」
見つめ合うこと数分。
え?ホントにこの人何なの?
最初に視線を逸らすと何か負けた気になるので
一先ず相手が目を逸らすまで見つめ返していたのだが
一向に逸らす気配がいない。
「イゴロ?欲しいならあげようか?」
身支度を終えて出てきたお嬢が、
大男の視線に気が付いて
トンデモないことを言ってくる。
あのお嬢!割とまじめなトーンで
そういうことを言うのはやめてもらえませんか!?
冗談が感じられない発言に対し、
イゴロと呼ばれた大男は。
「いらない」
「そうよね。こんなのいらないわよね」
は!?
自然な流れでディスるのやめてもらえませんか?
私が久しぶりに床に対して怒りをぶつけていると。
「お嬢!もう発たれるって本当ですか!?」
「もっとゆっくりしていってくださいよ!」
「お嬢美味しいお店見つけたんです。
今日のお昼でも一緒にどうですか!?」
「おーじょーーうぉーーー!!!」
どこからともなく人の集まりだし
お嬢の周りにどんどんと人だかりができてくる。
さすがお嬢というべきか、
圧倒的な人徳で私としても鼻が高いのだが
本人はあまりうれしくはない様子で。
「あんまり長居もできないわね。行くわよ。」
私に手で合図を送り、
人だかりをかき分けギルドの外に出ると
トーマスさんとラウルの用意した馬にまたがる。
「「「お嬢!お元気で!!!」」」
あらかじめ掛け声をきめていたかのように
集まっていた人々が声を合わせると
照れくさそうに後ろ手に手を振るお嬢。
そんな慣れ親しんだ者同士の挨拶を済ませると
馬を手綱を引いて東へと向かうお嬢。
あれ?私の移動手段は?
周囲を見渡すが馬は一頭のみで、
他にそれらしいものはない。
え?え?お嬢?
私がお嬢に視線を戻すと若干速度を速めて
駆けてゆくお嬢の姿が目に映る。
どうやら今度は次の街まで馬に追従しなければ
ならなくなったらしい。
若干絶望的な現実に足が震えてくるが、
そんな体に喝を入れてお嬢を追いかける私であった。
3章完
早ければ今日中に4章スタート




