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スキルによる製本作業というのは
実際にペンを持ち筆を走らせるということではなく、
ペンを持ち対象となる紙にイメージを投影する。
すると不思議なことにインクが減り
私の体に書いた際に起こるであろう疲労感が
フィードバックし、ページが出来上がる。
なんだかコピー機にでもなった気分だ。
いや、コピー機にはない
画力の成長を目に見えて感じる。
描写されるたびにイメージが明確になり、
投影される挿絵が生き生きしてくる。
まさか私にこんな才能があったなんて、
思いもよらなかった。
お前もそう思うだろう?柴犬?
私の独り言に返事をしてきそうな柴犬の笑顔に
勝手に癒されてしまう。
そうして本を4冊ほど書き上げた頃だろうか?
夕飯時にシスターが私を呼びに来る。
「カニ太郎さん。進み具合はどうですか?」
興味津々のシスターに今できたばかりの
渾身の力作を見せてあげる。
するとどうだろうか。
まず完成している事に驚き、次には
中身の出来具合に驚くシスター。
「まぁまぁ、こんなに・・・!
素晴らしい出来ですわカニ太郎さん」
本を抱きしめて感謝を伝えてくれるシスター。
そう、これだ。
これなのだ。
久しく忘れていた人から感謝されるという感覚。
この世界に来てからそれなりの時間が経った。
来る日もお嬢に家事の粗を指摘され、
事あるごとに虐げられる生活ではあったが
それも今や過去の出来事へと変わろうとしている。
あぁ、驚きながらデレてくれるお嬢が見えるようだ。
えへへ・・・。
ヤドカリでありながらも我欲にまみれた
俗物っぽい笑顔をさらしだす私。
シスターも若干引いたのだろう。
「か、カニ太郎さん?あ、あの、
子供たちも待っているので・・・」
シスターの呼びかけにふと我に返ると
机の上を片付けて食卓へ向かう。
大勢で囲む食卓。
相変わらずそのにぎやかな中で
どこか影を落としたような表情を見せるシスター。
『シスター大丈夫ですか?顔色が悪いですよ』
「あらあら、ごめんなさいね。
カニ太郎さんに話そうか悩んでいてね」
どうやら今日、シスターは私の話を
ギルドに伝えにいってきたらしい。
ただ、ソラナさんも相変わらずおらず、
お嬢の方も相変わらず忙しいとのこと。
「でも大丈夫よ。リサちゃんですもの」
やはりというか、お嬢はかなりの有名人。
町の治安はお嬢の血塗られた伝説のおかげで
同じ規模の街からすれば格段に良いらしい。
また、シスターとも個人的につながりがあって
たまに寄付してもらう事もあるらしい。
「だからこうして
ちょっとした恩返しができてうれしいのよ?」
そう語ってくれるシスター。
どうやら町に放置されたと思っていたものの、
案外お嬢の庇護下からは出ていないらしい。
だが、そんな残念な私もここまでだ。
この習得したスキルでお嬢を見返し、
私の存在価値を認めていただこうじゃないか!
えへ、えへへへ。
改めて脳裏に浮かぶ栄光の瞬間に酔いしれる私。
だが、そんな気が緩んだのもつかの間。
何時ぞや感じた不気味な視線が私を貫く。
は!?
昨日よりはっきりと感じた気配へ視線を向けると、
昨晩宿代わりに使った祠が遠くに見えた。
何だろう?
この不穏な空気は。
そもそもあの像は何なのだろうか?
教会にはちゃんと星教の主神であるデリア像が
祭られている。
見た目からして別物だとは思うのだが。
『シスターあの祠の像は何なんですか?』
「あらあら、あれは―――」
シスターの話ではまだこの町が小さな村だったころ、
信仰対象であった精霊の像らしい。
「とっても危ない精霊で、
突然山を作ったり、国を亡ぼしたり、人をさらったり
鎮めるのが大変だったらしいわ」
そう聞くと恩恵を授けるというより、
災厄を鎮める形の信仰なのだろう。
・・・どうしよう。
なんかとんでもないところで一晩過ごしちゃったな。
祟りに関してシスターに聞いてみるが。
「ふふ、何百年も前のお話ですし、
それ以降現れたという話は聞きませんから
大丈夫ですよ。」
そう、笑って答えてくれるシスター。
良かった。
でも、じゃあなんでこんなに気になるのだろうか?
若干の不安を残しつつ、明日のお嬢の帰還までに
出来る限りのことをしようと製本に戻る私であった。




