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元々最後まで書いてあった作りかけの絵本の説明文を
一通り頭に叩き込み、
原本との差異を確認してみる。
シスターによって編纂された絵本の内容は
そこまで原本と間違ってはいなかった。
多少挿絵の対象が変わっていたぐらいだ。
この感じならば挿絵の対象をもとに戻せば、
絵本としては完成するだろう。
完成図が頭の中に出来上がると、
黒板や外から拾ってきた板に試し書きを行う。
そう、元の世界と違って
この世界の紙はそれなりに高い。
目の前にある程度まとまった数があるからと言って、
試し書きで使えるほど安くないのだ。
そう、高いはずなのに。
高くないはずなのに机の隣のゴミ箱には
無視できない量の紙が丸めて捨ててある。
この教会の財政面は大丈夫なのだろうか?
道端で見つけたヤドカリを食べようとしたかと思うと
そのヤドカリに朝食を与えたり、
あまつさえ貴重品を扱う仕事を任せたりと、
なんともちぐはぐ感が否めない。
「カニ太郎さーん。お昼ご飯ですよー」
教会の外からシスターの声が聞こえる。
そっか。もうこんな時間か。
ここまでに出来た試作品をまとめ上げ、
外の食卓へと出る。
「「わー。すごーい!」」
「鳥さんだ!」
「この犬怖くないよ!」
子供たちには挿絵に使うサンプルを、
シスターには説明文の修正箇所を見せる。
おおむねシスターと子供の評価は問題ないようだ。
シスターから簡単な修正案を貰って
ゴーサインが出る。
だが、ここでちょっと待てほしい。
『シスター、犬なんですが』
「えぇえぇ、私は見たことはありませんが
とても可愛らしいワンちゃんですね」
犬の挿絵を見て微笑むシスター。
喜んでもらえて私も大変うれしいのだが
ホントにちょっと待ってほしい。
良いんですか?
犬は犬でもこれ柴犬ですよ?
私が会得した記述スキル。
頭に思い浮かべたものを記載可能な物へ
転写できるというとても素晴らしい物なのだが、
私が犬を描こうとすると
どうしても柴犬になってしまう。
これは元の世界のあいまいな記憶に残っている犬像が
この柴犬のみであり、この世界で見た犬も
ギルドで通りがかりに見た犬しかいない為である。
いや、最初はそれでも書けたかもしれないが
もう私の中の犬像が柴犬とシスターの犬で
せめぎあい始めている。
そう、もう私の中でシスター犬に勝てる犬が
柴犬しか残っていないのだ。
「犬なんですよね?だったら大丈夫ですよ」
そう微笑んでOKをくれるシスター。
懐が深いというか大雑把というか、
世界観にこだわらない人だ。
私的には教会という西洋風なこの聖書に
非実在かもしれない柴犬が登場してよい物か
踏ん切りがつかないというのに・・・。
自分で書いた笑顔の柴犬を眺める私。
ま・・・、いっか!
可愛いは正義である。
責任者のOKも出ているのだからこの際柴犬君には
華々しく異世界の神話にデビューしてもらうとする。
方針が固まり、食器の片づけが済むと
資料をまとめて再び教会に戻ろうとする私。
・・・ん?
教会の入り口まで来たところで背後に言い知れない
不安の気配の様なものを感じ振り返る。
何度か見た普通の街並み。
だが、一瞬。
一瞬だけ、見慣れない物が視界に入った気がした。
気のせいだったのだろうか?
でも気のせいだとぬぐい切れない不安が
私にまとわりついてくるような気がしてならない。
おっと、こうしてはいられない。
資料を持ち直し、一番上に来ていた
柴犬とシスター犬を見比べ苦笑してから、
午後の製本作業を始める私であった。




