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8 聖戦

 告解が終わった頃には完全に日は沈み、暗くなっていた。

 私たちが宿に戻る頃には、ディエゴたちは戻ってきており、女性がこんな夜更けまで出歩いてはいけませんと怒られた。私もイネスも騎士なんだけどな……と思ったがツッコミはしなかった。


 鍛錬は辺境伯に何度も邪魔されたらしいが、まぁ程良い成果は上げたらしい。

 次の日、私たちはフリアン騎士団に見送られながらライオの町を跡にした。驚いたのはフリアン騎士団の若い騎士、ディエゴたちが指導したと思われる連中が泣いていた事だろう。

 何をしたのか、と疑問に思ったがこの世には聞いてはいけないこともあるなとディエゴたちに恐れを抱きながら、踏みとどまった。


 ライオからタリアはリブラン人の道の中で一番の難所とされている道だ。

 距離が長いのもそうだが、タリア付近にある峠が問題だった。

 セブレ―ロ峠と言われるこの峠は、山脈の高地に位置し、急峻な山道を通るしかなかった。

 この山道は道幅は狭く、岩が転がっているし、斜面が多いため、馬車の通行を困難にしていた。

 まぁ、ディエゴ率いる第三護衛隊は慣れたもので馬車を押して進んだ。

 こうして14日を掛け、私たちはタリアに着いた。


 タリアは、病院や修道院が混在する巡礼者専用の街とも言える場所のはずだが、そこには多くの騎士の姿があった。緑色の十字架の紋章が白地のサーコートに入っていたので、エヴォラ騎士団だと分かる。

 エヴォラ騎士団は聖地もあるポルカレ王国の宗教騎士団なのに、ライオ王国の都市に居るんだろう?

 私たちは疑問に思いながら、アラン含む巡礼者たちを宿まで送ると、宿の主人から聞いたエヴォラ騎士団の拠点に向かった。


「失礼します。ここはエヴォラ騎士団の拠点ですか?」


 ディエゴの言葉に拠点の垂れ幕を通って、エヴォラ騎士団の紋章を付けた騎士が姿を現した。


「そうだが……そちらはガリシア騎士団の者か」


「ガリシア騎士団第三護衛隊です。エヴォラ騎士団はここで何を?」


 エヴォラの騎士は周りを見た後に、小言で伝える。


「ここは人目が多い。垂れ幕の中で話そうか」


「分かりました」


 私たちはディエゴを先頭に拠点に入る。

 拠点内にはエヴォラ騎士団の中でも、隊長や小隊長クラスであろう騎士が多数居た。

 その中でも一番覇気を纏った騎士が私たちに近づいてくる。


「ガリシア騎士団の騎士か。私はエヴォラ騎士団の団長をしている、ヴィエガスだ」


 騎士というか武術を習っている者は初めて会う武術を習っている者に対して、その強さを測ろうと見てしまうという癖がある。そんな癖を持つ私は驚く。

 このヴィエガスっていう騎士……ディエゴ隊長より遥かに強い。

 騎士団の団長を務めているから、当たり前だろうがヴィエガスの強さは私の知っている騎士団団長のレベルを遥かに超えている。

 ディエゴを1とするならガリシアやフリアンの騎士団長は2で、このヴィエガスは5だ。数字にすると小さな差だが、大きな差でもある。

 ディエゴは相手が他騎士団の団長だと知り、礼節に則る。


「すいません。エヴォラ騎士団団長閣下が居るとは、何の通達もなく入るなど我々の行いは不敬でした。ガリシア騎士団として謝罪致します」


「いいさ……私がここに居る事など誰にも予見できないのだから……礼節も最低限のもので良いよ」


「はっ……それで、エヴォラ騎士団は何故、ここに駐留しているのですか?」


 ヴィエガスは頬を掻きながら口を開く。


「その前にあなた方の任務の詳細を願おうか。まぁ、巡礼者の護衛だと思うが……」


「はい、我々に下された任務はリブラン人の道を通って、聖地に赴く巡礼者の護衛であります」


「そうか。すまないが、現在リブラン人の道は通る事が出来ない」


「それは何故でしょうか」


「この先、リブラン人の道を通って行く都市メリダがラスム教徒に占拠された」


 ラスム教徒。

 アルカサル、ライオ、ポルカレが国教としてアドナイ教にとっての異教であり、イベリア半島南部を支配する国家の宗教だ。


「首謀者らは去年、国境沿いであった戦いによって敗走し、散り散りになった兵士たちと思われる。数は不明だが、メリダの要塞を使って籠城している」


 籠城。

 双方にデメリットしかない行いだ。

 籠城する側は囲まれるため、負ける事は必然になるという事。

 籠城される側は街道沿いに要塞があるため、街道の安全を確保出来ず、物流が停止するという事。


「状況を詳しくお願いします」


 ディエゴは食い気味に尋ねる。

 この状況では情報が全てだ。情報がある方が確実に有利であり、あらゆる対応にも拍車が掛かる。


「当初はフリアン騎士団が出張っていたんだが、ライオ王国の辺境伯が自国の国境が危うくなるという理由でフリアン騎士団たちを元の場所に戻してね。我が国としても、この場所で敵が籠城するのは不利益だから……ライオ王国側に許可を取って、私たちが今動いているんだ」


 ヴィエガスは机上に広げられた地図を指差す。

 そこには様々な形、様々な大きさのブロック状の木片が多数置かれていた。

 木片に刻まれた記号から、これらはエヴォラ騎士団の配置と構成、数を示している物と分かる。


「この地図はライオ王国側から何とか借りたこの辺りの地図だ。この点がメリダで、この細い線が道でこっちの大きい線が川だ」

 

 メリダ周囲の地形は特徴的とは言えないこの辺りでは珍しくもない普通の地形だ。

 周囲は緩やかな丘陵地帯と森が広がる。南側には川が流れており、リブラン人の道はメリダを通って東西に伸びている。聖地はメリダの西にあり、私たちが現在居るタリアからはメリダまでに2~3日掛かる。


「砦囲む形で配置されているのが兵士で、その後ろに騎士と従士……更に後方に弓兵が配置されている。その左右に騎兵を配置している。今は、攻城兵器の材料が来るのを待っている所だ」


 状況は何となく把握出来たが、あまり私たちには関係のない情報に思えた。

 そしてディエゴは私たちが一番気にしている情報を尋ねた。


「砦の周囲は危険として、迂回して巡礼道を進む事は出来るのですか?」


 ヴィエガスは少し間を置いた後に口を開いた。


「軽騎兵を多数放って、周囲に伏兵が居ないかどうか探らせているが……安全と言えるかというと懸念が残る所がある」


「それはどうして?」


「この戦場に我々が来てから、周辺集落での物取りが多くなった。当初は我ら騎士団を疑っていたが、確認を取ると服装はこの辺りの物を着用していたみたいだが、肌の色は黒褐色だったから、明らかに異教国家の人間だろうな……言葉も喋っていなかったみたいだから」


 伏兵……それも黒褐色。

 イベリス半島南部を支配するアルモハード朝の人間で確かだな。


「厄介ですね」


 存在は確認出来ているが、対処できていない数の不明な伏兵。居るだけで、策の立てようがなく、例え立てて実行しても伏兵が出張って失敗しかねない。


「それで、ですね。あなた方に頼みたい事は一つです」


 ヴィエガスは笑みを浮かべながら続ける。


「軍事作戦中の場所なので通行止めしているんですが、私の権限であなた達を通してあげます。ただし、あなた方は……絶対に道中で遭遇した敵を殺してもらいたい」


「俺たちがそいつらに遭遇する事は分からないですよ」


「その時は、その時でそのまま進んで貰って構わないですよ」


「……分かった。その頼み、受けよう」


「では、この紙をメリダに行く道の守衛に渡して下さい。快く通してくれると思いますよ」


 ディエゴはその紙を受け取ると、挨拶をした。

 私たちも挨拶し、拠点を出た。

 ヴィエガスの側近はガリシア騎士団の者が居なくなると、彼に尋ねた。


「言わなくて良かったのですか? メリダを通り過ぎて、先に進もうとすると伏兵どもに襲撃される事を?」


「この情報にはあまり信憑性はないからな。ただ本国に援軍を頼みに向かわせた隊の一人が命からがらに伝えてくれただけの情報……騎士団に偽の情報を渡すなんていけないことだろう?」


「……ですな」


 その頃……メリデ付近の森の中

 その一団は火を囲んで、道楽を楽しんでいた。

 メンバーは全員、ターバンで顔の下半分を覆い、薄手のローブが全身を覆い、銀製のアクセサリーを身に着けていた。だが、その肌の色や髪質からアルモハード朝の人間であることは明らかだった。そして傍または腰には短槍、そしてシャムシールと呼ばれる湾曲したサーベル、小型の革盾、弓が置かれていた。


「隊長、上手くいってますなぁ!」


「そうだな」


 隊長と呼ばれた男は、少し豪華な衣装が施されている訳ではなかったが雰囲気からか隊長と呼ばれる存在であることは明らかで、片手でコップを持ちながらのその鋭い瞳は何かを思案しているのか……考えに耽っている様子だった。


「良いか……上手くいってる時ほどデケェ壁が来るんだ。で、その壁を突破したら最高の栄誉が待ってるぜ。まぁ、突破出来なきゃ、死ぬしかないけどな」


「それなら、俺たちは突破出来るでしょ? なんせ、隊長が居るんですから」


「そうだな」


 伏兵らは、待つ。

 そのデカい壁が来るのを。


~~~~


 私たちはアランたちに事情を説明し、その日にはタリアの街を出た。

 勿論、危険を承知しているので警戒して進んでいく。

 昼夜問わず、四六時中警戒しっぱなしで疲労が溜まっていく。

 ディエゴが指差す。


「メリダの街が見えるぞ」


 その方向には確かに城塞都市があり、その都市で一番高い塔の天辺にはアルモハード朝の旗が掲げられており、遠くから確認する限り、都市内にアドナイ教徒並びにメリダに住んでいた者は確認できない。

 ラスム教徒は寛容だが、非ラスム教徒には厳格だ。

 都市内の全員に改宗を要求し、要求を断った者は都市内から追放されたのであろう。タリアの街でメリダに住んでいた者たちを見たし、一応話を聞いていた。


「良いか。ここからは本当に危険地帯だ、警戒を怠らないように……もし、敵と遭遇した場合は前言った陣形で当たる」


「了解」


 私たちはディエゴの言葉に了承し、進む。

 そして……やはりと言うべきか……遭遇してしまう。

 坂上に立つ軽騎兵10名……恰好から噂の伏兵だと分かる。

 騎兵で、坂……厄介だ。

 ディエゴは敵を見据えながら命令する。


「密集陣形」


 私たちはその言葉に馬車を背に、敵らに向ける形で半円状に並ぶ。

 そして馬車に置いておいた槍らを地面に突き立て、斜め前に構える。私たちは盾を構える。

 敵らの先頭に立つ、多分軽騎兵10名を率いる隊長と思われる男が、湾曲したサーベルことシャムシールを天に掲げながら唄う。


「『Su Walla! (イラーフによって、)Tamzalt(勝利は) yggan(齎される) ara! (行け!)』……」


 刃が振り下ろされ、真っすぐ……私たちに向けられる。


「『Azul() Walla() ara(突撃)』!!」


 光が敵らを包み込む。

 瞬間、崖を転がり落ちる岩のように敵らは駆け下りる。

 イネスの声が響く。


「ラスム教の補助秘術です……こちらも秘術を施します」

 

 イネスが盾を放し、聖書を広げる。


「『我らが集いし所に、――』」


 詠唱の途中、先頭の隊長がが再度、秘術を行使する。

 眼前にシャムシールを構え、素早く唱える。


「『Wa Walla(神の) n tagut(威圧)』!!」


 怒声にも似た大声が発せられる。


「あぇっ……」


 イネスの口が止まり、動きも止める。

 その状態のイネスを、敵隊長は腰に下げていた短槍を手に取り、狙いながら投げる構えを取る。

 馬上という不安定な場所から放つというのに、私たちは妙にその男がイネスにその短槍を当てる気がした。だが、この状況で……私に出来る事は……!

 男が短槍を投げるよりも早く、私は腰に短剣を隊長に向けて投げる。


「は!」


 焦った隊長は、狙いが定まる前に短槍を投げる。


Axxu!(くそっ!)


 だが、それでもイネスの横腹を短槍は冷徹に抉る。


「くっ……」


 傷口を抑えながら、イネスは倒れる。

 私はイネスの方を気にするが、ディエゴの言葉が響く。


「目の前に集中しろ! イネスなら、自力で治せる」


 そうだ。

 今は、目の前の敵に集中すべき。

 敵たちは、先頭に居た男たちと同じように短槍を取り出し、投げてくるが隊長ほどの精度はなく、そのほとんどは盾に防がれるか、外れていた。

 そして、そのまま敵たちは馬の速度を活かして正面衝突ではなく、騎士の横に周り、横合いから槍で突いてきた。

 ただの騎士相手なら良い選択と言えるが、ここに普通の騎士なんて居なかった。

 ディエゴは槍が繰り出される前に、陣形から飛び出て近くの敵に切り掛かる。


Axxu!(くそっ!) Mačči!(嘘だろ!)


 受けた敵は驚きで落馬し、馬も暴れる。その馬の後ろに居た敵らは立ち止まってしまう。

 そこをエディエンスと私が強襲する。

 エストックと直剣の刃が、馬の脚というか腱を切り裂く。

 脚を切られた馬は倒れ、乗っていた敵も落馬し、それを見ていた周りの馬たちもパニックを起こし、急に跳ね上がり、敵たちは後方に振り落とされていく。

 7名の敵が落馬し、残っているのは逆側に進んでいた隊長を含めた3名だった。

 ディエゴは落馬しても、まだ立ち上がるろうとする敵を見ながら、背後……自分の位置から陣形の逆側に位置する男に命令する。


「ハインリヒ、少しの間だけ……抑えてくれ」


 ハインリヒは2mほどの長槍を槍先を低くして構える。そして立ち位置を、馬車が右側に来る位置に置く。この位置なら馬車方向から攻撃は困難であり、最高でも自分の正面と左側に2方向からに対処すれば良いだけで、ハインリヒにとってそんな事は些事であった。

 敵たちもすぐ攻撃ではなく三人で軽く相談すると、隊長を除く二人の軽騎兵が前に出た。それぞれ短槍を持ち、構えていた。

 それもそうだろう。未だに半円状に斜めに突き出される形で設置された槍らは有効で、シャムシールの間合いではハインリヒに届かないからであった。

 敵二人は器用なもので、槍同士の間に騎乗している馬の頭をやる事で、戦闘に十分な間合いを確保し、槍を同時に繰り出してきた。


「無意味だ」


 ハインリヒはわずかに動く事で、敵の同時攻撃を時間差攻撃に変える。

 右の先に迫ってきた槍を横に長し、そのまま遅れて来た左の敵の槍が来る前に、槍を上げて突く。

 槍先は、左の敵が騎乗する馬の首を切り裂く。

 と同時に、ハインリヒは即引く。

 首を切り裂かれた馬は暴れ、槍の間から顔を覗かせていた影響で更に傷付け、そのまま一本の槍が突き刺さり、絶命し、槍ごと倒れる。乗っていた敵は馬の下敷きになり、身動きが取れず喚いていた。

 仲間を気にせず敵、一人は空いた隙間を通って……陣の中に入ろうとするがそれを許すハインリヒではない。

 軽騎兵が侵入し、地面に倒れ、また傷の回復をしているイネスに向かって突撃していく。

 が、その進路にハインリヒは斜めに入る。


wexxam-a!(この愚か者め!)


 軽騎兵は短槍から、近接戦闘向けのシャムシールへと持ち帰る。

 そして振り下ろそうとするが、そこで軽騎兵は気付く。

 ハインリヒが、馬の胸に槍先を固定し、置いているのを……このまま進めば、自ら刺さる形となる。 


Aṛṛez!(止まれ!)


 慌てて手綱を引くが、もう速度が乗っているので止まる事は出来ず。

 槍は馬の胸に穴を空け、血が溢れるように流した。

 ハインリヒは槍が刺さると同時に、横に飛び、軽騎兵から離れる。

 馬は暴れ、軽騎兵を振り落とし、血を流しながらどこかに逃げていった。

 落馬し、身動きの出来ない軽騎兵をハインリヒは殺す。

 そして三人目、隊長と思われる軽騎兵の方を見るが、そこに姿はなく……


「チッ!」


 背後からシャムシールの刃、そして殺気を肌に感じる。

 ハインリヒは咄嗟に柄を後ろに振るうが、間に合わないと理解していた。

 刃が、首に届く寸前……

 軽騎兵と自分の間に、風が吹いたと思った瞬間。

 ハインリヒは蹴とばされ、そして見る。

 軽騎兵の刃を受け止めるディエゴの姿を。


「後は任せろ」


 隊長と思われる軽騎兵は、組み合った刃を放すために馬に命令して、後ろに下がり距離を取る。

 ディエゴは長剣を構え直し、剣を腰の横に構え、切先を相手の顔に向ける低い構え。

 隊長は見抜く。

 その構えがシャムシールに、剣を持った騎兵に強い構えである事を。

 だが、それでも動く。

 脚が動き、馬が地を蹴る。

 一瞬で人間以上の速度に達する。

 土が弾け、一直線に突っ込む軽騎兵の姿は……矢のようだった。

 そんな軽騎兵()に対して、ディエゴは動かない。

 ただ観察、見ることに徹する。

 呼吸を、視線を、刃の角度……を見る。

 そして、


「一撃で勝負がつく」


 二人の姿は重なる間際。

 軽騎兵の振るうシャムシールがわずかに動く。

 切りつけるのであらば刃は大きく振るわれるはずだが、軽騎兵は”刃を軌道に置いた”。

 ハインリヒが見せた槍の置きと同じ技だが、その精度が違った。

 シャムシールの刃が置かれた軌道、それはディエゴの首を断つ最適な軌道だった。

 ディエゴは自身の首に迫るであろう刃を予感し、行動する。

 踏み込む。

 逃げるのではなく、攻めるために前へ。

 ”間合いを潰す技術”の一歩。

 この瞬間、間合いの大小が入れ替わった。

 通常なら剣を持った騎士よりも騎兵の間合いの方が広いが、この瞬間だけ。

 騎士(ディエゴ)の間合いが、軽騎兵を捉えた。

 そして、軽騎兵の間合いの内側に入った事でシャムシールの軌道が外れる。

 刃が、空を裂く。

 軽騎兵は即座に判断し、動く。

 外れたのなら、二撃目を繰り出す。

 馬上で体を捻り、再び刃を”置く”。

 だが、ディエゴは再び踏み抜く。

 二歩目の”間合いを潰す技術”で横へと滑る。

 更に調子の整えてから、三歩目で軽騎兵の完全な死角へ。

 軽騎兵の認識がズレる。

 捉えているはずの位置に、いない。

 軌道上にその姿が、ない。

 ないなら、どこに?

 ディエゴは明確な軽騎兵の隙へと、踏み込む。

 最後の一歩。

 完全にディエゴの間合いが、捉える。

 長剣が走る。

 無駄のない一閃が、軽騎兵の胴を捉える。

 と同時に、貫き切り裂く。

 馬だけが主の訃報を知らず、走り抜ける。だが、その道中で馬の背から騎兵は地へと落ちる。

 そして己から流れた血の溜まりへと、体を浸らせる。

 ここにガリシア騎士団第三護衛隊5名と伏兵10名の戦いは終わった。

 イネスはすぐに回復して、無事だった。


「隊長、捕らえた捕虜です」


 落馬した7名の内の一人が、縄に縛られ正座で座っていた。勿論、手荷物検査をして所持している物は全て回収している。


「さて、こちらの言葉は分かるか」


 私たちは捕虜と尋問するディエゴを囲むように立つ。

 捕虜はディエゴの言葉に少し間を置いた後に、たどたどしく言葉を喋りはじめた。


「分かる、分かる」


「なら、目的と作戦を語れ」


「お、俺は……去年の戦いで負けて……その時の司令官の命令でここに……作戦は砦が落とされる時間を稼ぐために伝書や攻城兵器の材料を運ぼうとしている奴を殺す事……」


「時間稼ぎが作戦? お前の仲間はこれで全員か?」


「はい……これで全員です」


「他に聞きたい事はあるか?」


「特にはありません」


「ディエゴ隊長、そろそろここを離れた方が良いかと血生臭いが濃くなってきたので……獣が来るかもしれません」


「そうだな。それじゃ……」


 捕虜は狼狽える。


「ま、待て……俺を殺す気か……ああ……思い出した。ディ……」


 刃が閃き、捕虜の首が飛ぶ。


「さて、移動するぞ」


 私たちは槍を回収し、死体をどけると移動を開始した。

 丘を登ると、目的地である聖地エストレージャスとエストレージャスにある聖人の遺骸が眠る大聖堂が見えた。アランを含む巡礼者たちは膝を地面に付き、祈っていた。

 私はディエゴを顔を後ろから見ながら、教会から帰る道中のイネスの言葉を思い出す。


「ディエゴ隊長は夜更けにどこかに出ている事があるの。それで、尾行してみたら……ラスム教の人間と思しき連中と会っているのを目撃したわ」


 あの言葉を言われた時は、イネスの見間違いだと思っていたけど……

 さっきの敵が言いかけたディエゴの名前……

 証拠は十分だ。それでも私は、どこかでディエゴがそんな事するはずないと思っている。

 だから、確かめる。

 そして、もし……ディエゴが悪行に手を染めているのなら。

 私が騎士としてディエゴを、斬る。

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