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5 贖い

長くなってしまいました。

5500字ほどです……

 翌朝の早朝、私たちはゴスブルを後にした。

 次なる目的地は、ライオという都市でその名と同じライオ王国が領土にある。

 距離としてプエンテからゴスブルまでの1.5倍だが、ゴスブルからライオまでには馬車が進みやすい高原が広がっており、掛かっても10日ほどだろう。


 そしてゴスブルから離れ、他国に入るのでここから先は野盗も警戒した方が良いだろう。

 アルカサル王国とライオ王国は長年の関係性から冷え切っており、国境付近で何があってもおかしくないだろう。

 そんな事を考えている事が裏目に出たのか。

 先に進んでいたディエゴが深刻そうな表情で速足で戻ってきた。

 私たちはその表情から、すぐに駆け寄る。


「全員、状況は最悪だ」


 そうディエゴは説明を始めた。


「前に規模は分からないが10人は超えると思われる野盗団が待ち伏せしている。斥候が居たから、切って吐かせた情報だから、確かとは言えないが装備と持っている金銭からそれなりの規模の野盗団なのは間違いないだろう」


「装備の状態は?」


 ハインリヒの質問に、ディエゴは間を置いてから答える。


「俺が殺した奴は整備された革鎧と直剣、短剣の一式だな。安物だがちゃんと整備されていて、人を殺すことは十分可能だろう」


 技術の影響で金属鎧の進化が進む中でも、安い革鎧も剣の攻撃を一撃受け止めるだけの防御力は持っているが、それは整備されていればの話だ。

 ちゃんと手入れをしなければ革鎧の防御性は落ちていく、だからプエンテに向かう道中であった野盗も革鎧は着用していたが整備されていなかったため容易く切って、貫くことが出来た。

 だが、その優位性がないというなら接戦は免れないだろう。


「どうしますか? 迂回しますか」


「いや、それは無理だ。この高原という水場の少ない場所で道を迂回して体力を消費するのは避けたい、そして野盗が絶対にこの先の道だけで待ち伏せしている保証はないから」


「そうですよね。そしたら、道は一つですね」


「ああ、そうだ」


 ガリシア騎士団第三護衛隊五名の意思は固まった。


「ヴァレリア、君の方から巡礼者たちに伝えてくれ」


「はい」


 私はアランたち巡礼者たちが居る馬車に近づく。


「巡礼者の皆さん、一度馬車を捨てる事になりましたので準備をお願いします。ああ、捨てると言ってもまたこの馬車は使うのでご安心なく、ただ皆さんには隠れてもらいます」


「ええ、どういうことです?」


 老いた男性が一人、尋ねてくる。

 私は騎士として何も隠さず伝える。


「この先の巡礼道に野盗が待ち伏せしています。規模も我々以上なのが確定していますので、巡礼者の皆さんには隠れていただくのは最善と判断しました。その間に、我々が敵を殲滅します」


 巡礼者らは、このような事態も想定したいたのかすぐに落ち着きを取り戻し、すぐ準備に取り掛かった。そして馬車を一旦捨てると、その足で付近の茂みに隠れた。

 私は遠くから居るのが隠れているのがバレないと判断するとディエゴらの下に戻った。


「戻りました。陣形と戦術は決まりましたか?」


「ああ、陣形は突撃陣形で初手は――」


 ~~~~


 私たちは野盗が待ち構える場所まで進んだ。

 三角を描くような陣形で先頭で一番先端をディエゴが、その左右少し下がった所に私とエディエンスが、更に下がった所にイネスとハインリヒが立っていた。

 私たちの姿を目視した野盗たちは草むらの茂みなどから姿を現す。その数は20名ほどで、一番離れた場所に鎖帷子を纏った頭領と思われる男が立っていた。


「巡礼者を護衛する騎士どもだな。降伏するな命だけは取らないで置いてやるぜ、だがそこの女二人は置いていくんだな。俺を含めて、こいつら飢えていてな。消化できる時に消化してやらねぇとな」


 下卑た発言に私たちの意思は更に固くなり、とうに失せている罪悪感が完全に消えていくのを肌で感じた。私はその感覚にいけないという危機感を抱きながらも、殺意が研ぎ澄まされているようで更にその感覚に飢えていくようだった。

 現実に引き戻したのはディエゴの言葉だった。


「あの男、騎士崩れだな」


 元騎士を含めて騎士をしている者は騎士らしい格好をしていなくとも、何となく分かる。この感覚をディエゴは理論的に説明してくれたのを思い出す。

 騎士は絶対に騎士総合武術を習得する。これには立ち方や歩き方、雰囲気を悟られないようにするなど初歩の初歩から叩き込まれる。

 その時、体に染みついた癖から騎士と平民では前述に明確な違いがあるらしく。その違いを元に私は分かっているらしい。


「去年、没落したアルカサル騎士団ですかね? あそこの騎士の大半は元聖職者でもあるって事だけど、発言的にも聖職者には思えないんだが……そこん所は元シスターであるイネス的にはどう考える?」


 エディエンスは反対側に立つイネスに聞く。


「まぁ、アルカサル騎士団の元聖職者の騎士というのは秘術を使える騎士だから、元聖職者だと思われてますけど、実態は秘術の使える信徒を雇用して騎士にしただけなので、ああいう人も居ますね」


「なるほど。その場合は、秘術はどこまで使えると考えて良い?」


「基礎三種は確実だと思いますけど、聖節の方は聖書を所持していないのと信仰心も無さそうなので使えないと思って良いですね。問題なのは基礎三種の練度ですけど……うちの騎士団員に限っては問題ないでしょうね」


「ああ、問題にならねえな」


 エディエンスの一言、それは私たち共通の思いだった。

 頭領の大声が響く。


「てめぇーら、話し合いも終わったか? さて、降伏するか? ここで嬲られるか? どっちを選ぶ!」


 ディエゴが剣を抜きながら前に立つ。


「勿論……殲滅させてもらう」


 頭領は邪悪な笑みを浮かべながら命じる。


「てめぇーら、やっちまえ! ぶっ殺せ!」


「おう!」


 野盗らが剣を抜き、駆けて向かってくる中、私たちはイネスの”それ”を待つ。

 イネスは懐から聖書を取り出し、その一節の載っているページを開き、その聖句を唱える。


「『主よ、我ら迷える羊を導く。羊飼いとなり給え』――」


 イネスを中心に光が集まり、奔流する。


「『牧者の導き』」


 私たちの体に光が浸透する。

 秘術と呼ばれる力がある。何らかの教えを持ち、それを信仰する者にのみ宿る技術とは異色の違う力。神の行使する奇跡の一端の欠片でありながらも、人では起こせぬ超越の技。

 今、行使された秘術の効果は範囲内の者の”恐怖を無くし”、”士気を向上させ”、”集団行動を補助する”という物で集団効果秘術の中でも強力な物。


「秘術だと、全員怖気づくな! 集団で嬲れば変わらねぇよ!」


 頭領の言葉は間違いだ。

 確かに普通の兵士だったら、通用しただろうか我々は騎士だ。

 ディエゴが駆けると同時に一番近い野盗を速さを載せて切り捨てる。

 エディエンスが切りかかってきた野盗の攻撃を避け、カウンターで喉を切る。

 私も踏み込みと同時に突き、エストックの刃先が革鎧を貫通し、心臓に穴を空ける。


「ぐはぁ……」


 ハインリヒが、槍を叩きつける。

 一番気弱そうな見ためだったからか一番多くの野盗が向かってきてイネスは、レイピアで冷静に革鎧で防御出来ていない所を狙って、突き刺す。


「あああ……」


 先頭集団が五分も経たずに全滅し、後続組は足を止める。

 しかし、そこに頭領の声が響く。


「てめぇーら、防御を意識しろ! 闇雲に剣を振るっても、利用されるだけだ。一撃を凌いで、カウンターで殺せ!」


「おう!」


 頭領の一声に野盗達の動きが変わる。

 攻撃を一切せず、防御を意識した構えで囲むように詰めてくる。

 ”今の私たち”では、カウンターなどで革鎧が覆っていない部分を攻撃するか、力を利用して無理やり突破するしかないと分かっているからの言葉、あの頭領、出来る!

 これなら私たちの体力を減らして、疲れさせた所を襲えば一発だろう。普通の騎士ならば、特攻と言える戦術だが、我々は宗教騎士団が一つガリシア騎士団だ。

 私とエディエンスが、腰にしまっている小型聖書に触れながら唱える。


「「『主よ、我に敵を討ち滅ぼす力を与え給え』」」


 瞬間、私とエディエンスの体に力が漲る。

 秘術の中でも基礎三種と呼ばれる力がある。これは、秘術代行者(秘術を使える者)なら誰でも最初から使える基礎的な術であり、今使用した”身体強化”を含めて”回復”、”解毒”がある。

 私は強化された脚力で踏み込む。

 と同時に、同じく強化された膂力で持ってエストックを振るう。

 刺突剣の一種であるエストックだが、私は切れる用にしているので薙ぎ払うにも意味があるが、整備された革鎧を切り裂けるほどではない。しかし、身体強化の恩寵でエストックの刃は容易く野盗の革鎧を切り裂き、通過して胴体を切り裂く。

 私の身体強化が解け、反動として疲労が溜まるのを感じる。


「ぐへぇ……何で」


 死に際の声を聞き流しながら、私は身体強化を掛け直した後、また野盗に向かって刃を振るう。

 同じく身体強化を発動したエディエンスも、革鎧を切り裂き、ゴミにした後にその斬撃をなぞるような斬撃で持って仕留めていた。


「俺もヴァレリアみたいな身体強化だったらな」


 基礎三種の効力というか特性は、人によって異なる。

 一動作限定の身体強化だが、効力がとても強いものだったり、長い間効果が持続するものもある。

 そして、ある程度の信仰心を持ち、神に祈りを捧げた者は――


「ヴぇ」


 連続で放たれたレイピアによる突きで、穴だらけとなった革鎧から漏れるように溢れ出す血液が滴り、その体が地面へと倒れる。


「無詠唱だと!」


 目撃した頭領の声が大きく響く。

 聖職者ならば基礎三種を聖書などの補助道具なく、無詠唱で発動する事は容易い。しかし、そんな聖職者が騎士になるなど数少ない例だろう。

 そして、この場には聖職者ではなくただの信徒として無詠唱に至った騎士が居た。


「おりゃ、皆殺しだ!」


 槍が大回転していると思った瞬間には、薙ぎ払われ防御など関係なく絶命させられる死の嵐を引き起こす騎士、ハインリヒの姿が野盗全員に刻み込まれる。


「こんなの無理だ! 逃げろ!」


 野盗らの一部が剣を捨て、逃げ出す。


「ちょ、お前ら、勝手に逃げるな! 死ぬまで戦え!」


 頭領の静止も意味なく、野盗らは完全に壊滅した。

 一人残った頭領も身構えることなく逃げ出そうとしたが、それを許さない騎士が居た。

 己の技術を全開で行使し、踏み込んだ地面を割り、矢のように駆けるディエゴが剣を構える。

 逃げられないと悟り、頭領も唱えだす。


「『主よ、我に敵を討ち滅ぼす力を与え給え』」


 身体強化が施され、刃を振ろうとしたが間に合わない。


「おりゃぁぁぁああ」


 頭領はディエゴの振るった刃を何とか防ぐ。

 しかし、衝撃によって吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。

 そして顔を上げた瞬間。

 眼前にはディエゴの刃が迫っていた。

 一言も発する間もなく、首を断ち切られ、頭領は絶命する。

 数字で見れば劣っていたであろう私たちが倍以上も居る野盗団を壊滅させた瞬間だった

 しかし、そんな時に私の心を満たしていたのは満足感だった。

 昨日の酒場でのアランとの会話を思い出す。

 

「アランは何で聖地に行こうと思ったの?」


 私の何気ない一言にアランは止まった。

 また動き出したのはその約30秒後だった。


「ごめん、少し思考停止に陥っていた。そうだな、私自身もあまり分かっていないんだ」


「巡礼にはお金が掛かるのに、何も考えてないとかあるの?」


「何となく行きたかったんだよ。でも、明確な理由を挙げるなら一つあるかな」


 私は続きの言葉を待つ。


「私は子供の頃から本気で騎士に憧れて目指していたんだ。でも、私には武術の才は無くても結果はただ大事な限られた時間を浪費しただけだった。私は、その事実に私の夢を心から応援していた両親が死んで気付いたんだ」


 さっきまでの高揚で赤くなっていた頬が消えていき、アランは悲しそうな表情をしていた。


「あまりにも遅すぎた。私は、その時自分を激しく呪ったよ。でも両親も失った時間も戻ることはない、だから聖地で私は、謝りたいんだ。こんな親不孝でごめんなさいってね……それが私に出来る唯一の親孝行だからね」


 アランはその時、涙を流しさえしなかったが悲しそうで辛そうな表情をしていた。


「ヴァレリアは聖地に行ったら何をする?」


 考えていなかったため、私もアランと同じく少し停止してしまった。

 だが、すぐにしたい事が浮かんだ。


「さっき、私の一族は代々騎士を輩出する家系だって言ったでしょ。一族は私が騎士になることを願っていたし、騎士にしようとしてけど、その思いは家族全員じゃないの。母だけが、私に”騎士にならなくても良い”って言ってくれたの」


 記憶からこみ上げてくる母との思いでに、私は目元が熱くなるのを感じた。


「母は、婚約者として一族に嫁いだの。だから、一族とは違う考え方をしていた。だから、私に騎士以外に生きる道をたくさん教えてくれた。でも、当時の私は一族の考え方に縛られていて、母の言葉をちゃんと受け取る事が出来なかった。そして私が騎士に慣れなかった時、母だけが私を叱ることはなく抱き締めてくれた」


 目元から何かが溢れる。

 頬を伝わって、それは机に落ちた。


「その後、母は流行り病で死んだ。そして私は、ここに来て騎士になった。だから、私も謝りたいわね。母の言っていた通りの人生ではなく騎士になった事に対して……」


 アランが呟く。


「ヴァレリア、それは違うよ」


 私はアランの方を見る。


「君のお母さまは、そんな事で怒ることはない。君が自分でなりたい者、したい事を出来る仕事に就けた事を嬉しく思っているんじゃないかな。だから、君がすべきは謝罪ではなく感謝を伝える事だ」


 その時、大泣きしたのは流したいが……

 騎士として大きく成長した気がした。騎士として持つべき一本の道が見えた。

 私は母に誇れるような騎士となろう。

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