【保科日記】2
【保科日記】は本編と同じ時間軸で展開する保科視点での独り言です。飛ばしても本編のストーリーはつながります。コメディよりになりますので世界観がぶれると思う方は飛ばしてください。
3日目:
朝、出勤してきたらすごいもん見た。
制作部屋の長椅子で星野さんが寝てた。足が長すぎではみ出してた。疲れ切った感じの目の下のくまとか、乾いた唇とか、伸びかかった髭とか、乱れた髪の毛とか、緩めた襟元とか。総じてエロい。いや、そんな安っぽい表現では生ぬるい。色気が駄々漏れていた。いつものくたびれた長椅子が色気の噴水と化していた。
スチルにして保存してお気に入りに登録するレベル。でも、イケメン鑑賞は肉眼で。それが清く正しいイケメン愛好家の道。自分で決めたルールは守り切った。誰かに褒めてほしい。
早朝出勤すれば、こんな特典があるなんて。マロンが朝のカリカリを堪能する姿を眺める時間と星野さんの寝顔を眺める時間、どっちを優先すべきか。胸が引き裂かれそうだ。
4日目:
スポンサーの鈴木が星野さんを盗撮した。
初日から彼が星野さんを気に入っていたのは気が付いている。スポンサーなのに毎日制作部屋に日参しているのも、立て直しを見守るためから星野さんを観賞するために目的がすり替わってきている。いつもうっとりと星野さんを眺めて「……いい」と呟いている。そうとうマズいおっさんだ。
バレバレの盗撮だったのに放置しているなと思っていたら、星野さんは水島監督に報告したらしい。
廊下でみかけたとき鈴木が水島監督に怒られてスマホを奪われていた。当たり前だ。盗撮は犯罪だ。イケメン愛好家の風上にもおけない奴だ。
半泣きになって制作部屋に帰ってきたので、私からも釘を刺しておいた。
次にやったら御社のコンプライアンス室に即通報ですよ、と。
私は本気だ。
5日目:
朝、出勤してきたら制作部屋がパラダイスになっていた。
制作部屋の長椅子で星野さんが寝ていた。そして……その椅子に寄りかかって水島監督が座り込んで寝ていた。
姫を守るワンコの位置で! 完全に「こいつに近寄るなよ、ガルルルル」の位置で! その後ろで安心しきった顔で眠る姫、いや、星野さん。相変わらず色気の大洪水。
水島監督、これまでで一番いい仕事した。
一瞬で駆け巡った妄想を書きなぐりたい。でも、妄想は匿名SNSであっても公にしないのが清く正しい腐女子の道。自分の決めたルールは守り切った。誰かに真剣に褒めてほしい。
それにしても前日、先に帰宅したはずの水島監督が早朝に制作部屋にいた理由が謎すぎる。
あと、隣にもう一つ、長椅子が余ってたのに姫の前に陣取ってた理由も謎すぎる。
飯が上手い。
6日目:
星野さんは着任以来ほぼ制作部屋に住んでいる。いつ帰っているのか全く分からない。一日一度は必ず着替えているから時々帰宅して着替えを調達しているはずではある。
今日、制作部屋に来た水島監督がいきなり作業中の星野さんの頭を掴んで匂いを確認した上で「そろそろ家に帰れよ」と言っていた。
デリカシーのなさに眩暈がした。
星野さんは「それやめてくださいって言ってるじゃないですか」と言っていた。初犯ではないらしい。情状酌量の余地がない。
ちなみに泊まりが続いても星野さんの体臭は社会的に許される範囲にあると私は思う。
7日目:
多忙すぎて星野さんがやつれてきた。いい男は憔悴しても美しい。
今日はカップラーメンにお湯を注いだのを忘れて30分くらい放置していた。たまたま制作部屋にきた水島監督がみつけて持ち去ってしまった。捨てたのか食べたのか分からない。食べたのだとしたら意地汚いにもほどがある。
星野さんは最後までカップラーメンのことを思い出さずに、何事もなかったような顔でランチをスキップしていた。資料の引き渡しのついでとして、とっておきのスイーツを提供しておいた。
憔悴しても美しいけど、やっぱりご飯は食べてほしい。
今、星野さんに倒れられたら立ち直り始めた映画が死ぬ。確実に死ぬ。
8日目:
星野さんが転んだ。
何もない廊下で躓いてこけていた。寝不足が行き過ぎてふらついたのではないか。ちょうど向かい側から歩いてきていた水島監督が猛ダッシュしてきて引き起こしていた。引き起こすというより、ほぼ抱きかかえていた。監督が他のスタッフに対してそこまで献身的なところを見た覚えがない。「ただしイケメンに限る」は男性相手にも有効なのか。やせて浮いてきた星野さんの首筋の色気の効果すごい。
焦った顔のそこそこイケメンと、抱きかかえられる憔悴した本物イケメン。美味しい光景だった。
それにしても制作部屋での泊りの時の位置取りといい、水島監督は番犬属性なのだろうか。
……似合う。
一考どころか熟考の余地がある。深く考えたい。
9日目:
星野さんがお弁当を持ってきた。
でっかいおにぎりとスープジャーを持ってきた。見た目の繊細さにそぐわない男の弁当で、それはそれで良き。それから、おにぎりの大きさに負けない指の長さが非常に良かった。ただでさえ細身なのに顔がこけてきたせいですごく華奢に見える。でも、じっくり見ると一つ一つのパーツが全部大きくて男性らしい。かっこいい。
スープジャーの中身は中華風卵スープだった。具だくさんで栄養満点な感じだった。そして美味しそうだった。以前に同じメニューを食べている人を現場で見かけた気がする。あれは誰だっただろうか。中華風卵スープは流行っているのか?
プロジェクトの赤字は引き続き赤字のままだが、だいぶ数字が小さくなった。
10日目:
水島監督が気になる。
制作チームのリーダーが渡辺さんだったときは、制作部屋に話にきても渡辺さんのいる机の前に立ったまま話していた印象がある。だけど、星野さんに用事があるときは最初から隣に座る。椅子がなければ引っ張ってきてでも隣に座る。しかも近い。しょっちゅうパソコンの画面や資料を一緒に覗き込んでいる。肩とか完全にぶつかっているのに二人とも気にした様子がない。15センチの距離にお互いの顔があるのに、全然気にした様子がない。もっと言えば、通り過ぎる誰もその距離を気にしている様子がない。
普通、その距離に他人の顔があっても平気なものだろうか。
家でマロンを鼻先15センチに持ってきてみた。可愛かった。すぐに抱きしめてしまったので参考にならなかった。




