表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第七章 決戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/61

第60話 破天の疾雷

 志季に向けたままの両手。そこに冬夜が思い切り力を込めると、志季のピアスはさらに強い光を放つ。


 これまでよりもずっと痛みを感じるような冷気が辺りに立ち込め、吐く息はさらに白くなった。

 容赦なく肌を痛めつけてくる冷気に、冬夜は思わず力を抜いてしまいそうになるが、必死に(こら)えて力を送り続ける。


 古鬼(こき)薙刀(なぎなた)を振り下ろすのと、志季のピアスが輝きをより一層増したのはほぼ同時だった。

 自分めがけて下ろされた薙刀を弾き返そうと、志季が大きく踏み込んで、蒼月(そうげつ)を一息に()ぐ。


「――蒼穹(そうきゅう)一閃(いっせん)!」


 凛とした声音と共に、青白い軌跡が横一文字に煌めく。

 それは、これまでに見たことがないくらい、美しい輝きだった。


 金属同士がぶつかり合う、甲高い音が響く。

 直後、古鬼の持っていた薙刀が激しい音を立てて、(そば)の床に落ちた。


 思わず耳を覆いたくなるその音の方へと冬夜が目を向ける。そこには、刀身から()の途中までの部分が硬い氷に覆われた薙刀が転がっていた。


「な……」


 古鬼はまさかの出来事に、まともに言葉を発することもできないようだった。縫いとめられたように、その場から動かない。


 だが、今のはあくまでも古鬼の攻撃を弾いただけであって、倒したわけではなかった。まだ安心してはいけない。


 志季は自身の力だけでなく、冬夜から受け取った力をもすべて乗せて、全力で蒼月を振るったのだろう。

 その結果、今の蒼月からはこれまで(まと)っていた冷気が消えて、どこにでもある一振りの刀の姿に戻っていた。


 体育館内の空気からも、もう寒さは感じない。


 そこで、志季が冬夜に向けて声を張り上げる。


「冬夜、今だ!」


 その声に冬夜は我に返ると、すぐさま退魔術の準備を始めた。


 自分に中にある大きな力の流れを感じ取ると、不思議と頭の中に詠唱の言葉が浮かんでくる。


「――我、今この時、この瞬間に雷神の力をすべて解き放つ。天空を裂く(いかずち)を行使し、大邪(たいじゃ)(はら)わん――」


 それを無意識に口にすると、体育館の天井付近に大きな雷雲が発生した。


 冬夜の内側で力が大きく膨れ上がった次の瞬間、冬夜は両手を掲げ、それから勢いよく一気に振り下ろす。


「――破天(はてん)疾雷(しつらい)!」


 鋭く言い放つと、これまで使ってきた疾雷の時とはまるで違う大きさの雷光が、巨大な剣のようになって古鬼の脳天へとまっすぐに落ちた。


 あまりにも(まぶ)しすぎる閃光に、冬夜は思わず目をきつく閉じて、さらに腕で顔を覆う。きっと志季も同じだっただろう。


 それから少ししてもまだ(まぶた)を上げられずにいると、古鬼のかすかな(うめ)きのようなものが聞こえてきた。


「……アア、あ……、おぼえ、て、オケ……、イツ、か……、かならズ……」


 眩しさが徐々に収まっていくのと同時に、その声も聞こえなくなっていく。


 ようやく目を開けた時、冬夜たちの瞳に映ったのは、床に座り込んで(ほう)けている利苑(りおん)の姿だった。


 傍にあったはずの薙刀の姿が消えているところから見ても、今目の前にいるのは古鬼ではなく利苑の方だろう。


 人間である利苑ならば、破天の疾雷の影響を受けていないのも理解できる。


 そう判断して、冬夜は少し離れたところにいる利苑に声を掛けた。


「利苑、大丈夫?」


 すると利苑は冬夜の方へと顔を向け、狐につままれたような表情で首を傾げたのである。



  ※※※



「……えっと、僕はどうしてこんなところにいるんでしょうか?」


 志季に支えられた利苑が、冬夜とコハクのところまでやってきて、改めて首を捻る。


「やっぱ記憶はないみてーだな」

「うん、そうみたいだね」


 志季の言葉に、冬夜が同意して頷いた。


「さっきまで部屋にいたはずなんですけど……」


 座り込んだ利苑は懸命に記憶を辿っているようだが、どうやら途中からの記憶がないらしい。


「そうなんだ。もしかしたら寝ぼけてたのかもしれないよ? もう深夜だし」

夢遊病(むゆうびょう)の可能性もあるかもな」


 真実は話さない方がいいだろう、と冬夜と志季は互いに目配せして、利苑にそんなことを言い聞かせる。


 すると、幸いというべきか、それを簡単に信じた利苑は、


「じゃあすぐにでも病院に行かないといけませんね!」


 そう言うなり、勢いよく立ち上がった。


「あ、ちょっと待って! 外までは送るから!」


 外といってもすぐそこだが、一応様子を見ておいた方がいいだろう。


 コハクのことは少しだけ志季に見てもらい、入ってきた時のドアまで冬夜が見送りに行くと、普段はなかなか見かけないような高級車が停まっていた。いつからあったのかはわからないが、おそらく宗像(むなかた)家の車だろう。


 壊れたドアから外に出た利苑が、冬夜を振り返る。


「……あなたたちには前に会ったことがありましたよね。何だかよくわかりませんが、ありがとうございました」


 そう言って丁寧に頭を下げる利苑に、


「うん、一度会ったね。俺たちは大したことはしてないからお礼なんていいよ」


 冬夜は両手を振って、困ったように笑ってみせた。


 そんな冬夜に利苑は気品のある微笑みを返すと、もう一度頭を下げて、そのまま去っていく。


「これで一安心かな……。利苑も混乱してたせいか、ここで何があったかまでは聞かなかったし」


 利苑を乗せた車が夜の闇に消えていくのを見送りながら、冬夜が安堵の息を漏らした。それから、コハクの血で汚れている自身のシャツを見下ろした時である。


(あ、やばい……っ)


 冬夜の両膝から一気に力が抜けた。咄嗟(とっさ)(そば)の壁に手をついて、しゃがみ込む。


 原因はすぐに思い当たった。

 きっと慣れない力を使いすぎたせいだ。安心した今になってその反動がきたのだろう。


 冬夜はだんだんと輪郭を失ってぼやけていく意識に(あらが)うことができず、ゆっくりと崩れ落ちたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ