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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第七章 決戦

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第59話 蒼月に送る力

 古鬼(こき)がいつの間にかまたステージの上に立っている。

 どうやらこちらの様子を(うかが)っているらしい。


 座り込んだままの冬夜は、その姿をきつく睨みつけながらも懸命に考えを巡らせた。

 背後に(かば)っているコハクをちらりと見やる。


(コハクの(そば)からは離れられない。離れちゃいけない。何としてでも俺が守らないと!)


 その時だ。

 不意に、自分の体内で何かが小さく弾けたような気がした。


(……この感覚、封印を解いた時に感じた……)


 冬夜は今から何時間も前の、洞窟での出来事を思い返す。


 あの時はとにかく身体の中が熱くて、苦しくて、それこそ本当に死んでしまうのではないかと思った。

 けれど、それをどうにか耐え抜いて今ここにいる。


(解放した力は間違いなく俺の中にある……!)


 確信した冬夜が拳を握って立ち上がった時、


「冬夜、待たせて悪い」


 志季がこちらにやってきて、冬夜の隣に並んだ。


「志季!」


 動ける程度には回復したらしい志季の姿に、冬夜はほっとする。


「あいつ、マジでいけ好かねーな」

「うん。志季やコハクを傷つけたこと、絶対に許さないよ」


 志季が吐き捨てるように言うと、冬夜も同意して頷いた。


「……なあ、冬夜」


 射貫(いぬ)くような視線を古鬼に向けたまま、志季が改めて小さく唇を動かす。


「何?」


 それに対して、冬夜は同じように小声で返した。


「今のアンタからはいつもより少し強い力を感じるんだけど、その力をオレの蒼月(そうげつ)に送ることってできるか?」


 冬夜自身ではまだ実感できていないが、どうやら志季は冬夜の中にある力を感じ取っているらしい。

 

「やったことないからできるかわかんないけど、今はそんなこと言ってられないもんね。一か八かでやってみるよ」

「よし、頼んだ」


 志季が古鬼からわずかに視線を外す。そしてそれを冬夜の方に向けると、目だけで満足げに微笑んだ。

 もちろん、冬夜も笑みを浮かべる。


「うん、頑張ってみる」

「じゃあ、後ろのコハくんのことも頼むな。蒼月、もう少しだけ頑張ってくれ」


 志季に声を掛けられた蒼月は、その声に応えるかのように刀身に青白い冷気を(まと)わせた。

 途端に、冬夜と志季の肌を撫でる空気がひやりと冷たいものに変わる。


 それを確認した志季は、気合を入れるように一つ頷くと、勢いよく床を蹴った。



  ※※※



 古鬼へと向かっていった志季の背中を見送りながら、冬夜は蒼月に力を送る方法を考える。


(まずは自分の中の力を確認しないと)


 先ほど、志季も『いつもより少し強い力を感じる』と言ったのだから、解放した力が自分の内側にあるのは間違いない。


 後は、志季が古鬼を引きつけてくれている今のうちに、どうにかしてその力を外に引っ張り出す必要がある。


 きっと内側にある大きな力でないと、蒼月に送ることはできないだろう。


(集中しろ……!)


 冬夜は薄く目を閉じて、懸命に身体の中を巡っている力の流れを探る。


 自分の内側へとゆっくり潜り込んでいく感覚。


 まずは、いつも自分が使っている小さな力を感じ取る。それからさらに神経を研ぎ澄ましていくと、少し異質とも呼べる力に辿り着いた。


(……あった!)


 長い間封印されていたとはいえ、もともとは自分が持っていた力だ。使いこなせないはずがない。


 自分に言い聞かせながら、冬夜は自分の中で迷うことなくその力を掴み、(まぶた)を上げた。


 すぐさま、古鬼と戦っている志季の状況を目視で確認する。

 二人はいつの間にかステージから降りていた。


 志季の様子を見る限り、さすがに善戦とまではいかないが、古鬼の注意を引きつけることには成功しているようである。


(よし、力の流れはだいたいわかったから、次は蒼月にそれを送らないと……)


 冬夜が思案していると、ほんの一瞬だけ志季のピアスが光ったのが見えた。

 それから、ふと力の封印を解いた時のことを振り返る。


(そうだ。ちょっと離れてるけど、これなら行けるかもしれない)


 志季を見据え、冬夜は両手を前に突き出した。


 封印を解いた時は、祭壇に置いた腕時計に力を込めた。あれと同じようにやればいいのでは、と思い当たったのである。


 ただ、使い慣れない力を制御しながら、それを離れたところまで送らなければならない。

 当然、始めてのことだらけだ。


(それでも、これで活路が見いだせるのなら)


 冬夜はしっかりと志季の背を見つめて、両手に力を集中させる。


 最初は細い糸を紡ぐイメージで少しずつ、自身の腕時計に力を送った時のように、志季のピアスに遠隔で力を送る。


 それからだんだんと力の量を増やし、糸を太くしていくと、ちらりと見えた志季のピアスの輝きが先ほどよりも増しているような気がした。


 その時である。

 いきなり全身を突き刺すような冷気に襲われて、冬夜の集中が一瞬切れた。


「冬夜! 力が途切れたぞ!」


 その冷気が蒼月から放たれているものだと知ったのは、志季の声が飛んできてからだ。


「あっ、ご、ごめん!」


 背中を向けたままの志季に言われ、冬夜はすぐに力を込め直す。


 どうやらここで、古鬼も冬夜と志季のやっていることに気づいたようだった。


「また無駄なことを」


 嘲笑(ちょうしょう)を浮かべた古鬼が、志季に向けて薙刀(なぎなた)を振り上げる。

 そのタイミングで、冬夜は両手に思い切り力を込めた。



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