第35話 【隣国の襲来】夜会を襲う帝国兵。狙われた王都と無敵のメイド
【現在位置:王都・王城大広間】
【環境スキャン:上空3000メートルに超巨大飛行物体、および約1200個体の機械化生命体を検知】
【当機の裏タスク:マスターの「食事環境」を脅かす侵略兵器の分析、および防衛プロトコルの準備】
凄まじい地鳴りと共に、大広間の天井を彩っていた最高級のクリスタルシャンデリアが、激しい音を立てて砕け散った。
「キャァァァァァっ!?」
「ひ、避難しろ! 王宮が崩落するぞ!」
煌びやかなドレスや礼服に身を包んでいた貴族たちが、悲鳴を上げて逃げ惑う。
先ほどまでミリアに嫌がらせをしようとしていたゼルガ公爵一家も、失禁したまま這いずるように出口へ群がっていた。
「報告! 報告ぉぉぉっ!」
血まみれになった近衛騎士が、破られた大扉から転がり込んできた。
「上空に隣国『ガルアナ帝国』の総旗艦・超大型空導飛空艇【ガルガンチュア】が出現! さらに数百の機械化空導兵が王城を完全包囲! 王都の迎撃陣地は一瞬で壊滅しましたぁぁっ!」
「な、何だと……!? ガルアナ帝国の空中要塞だと……!?」
国王陛下が玉座から立ち上がり、顔面を蒼白にして打ち震えた。
近衛騎士団長ジェラルドが剣を抜き、即座に叫ぶ。
「全騎士団、直ちに対空陣形を展開せよ! 何としても陛下と国民をお守りするのだ!」
***
大広間の巨大なテラスから外を見上げた人々は、その絶望的な光景に息を呑んだ。
王都の夜空を覆い尽くしていたのは、雲を切り割る全⾧1キロを超える漆黒の空中要塞――超大型空導飛空艇【ガルガンチュア】であった。
その周囲には、魔導エンジンで飛行する重装甲の『機械化空導兵』が、まるでイナゴの群れのように王都の空を埋め尽くしている。
要塞の巨大な拡声魔導器から、耳をつんざくような冷酷な声が王都全体に響き渡った。
『ガルアナ帝国軍総司令官、アルフォンスである! 愚かな王国の豚どもよ、聞くがいい! 貴国が誇る【古代の地下迷宮】の魔力が消滅したことはすでに察知している!』
『我が帝国は、この時を待っていた! 守護の魔力を失った王都など、我が帝国の科学と魔導の結晶の前にはただの餌食に過ぎん! 直ちに無条件降伏し、王国の全財産と領地を明け渡せ!』
空中要塞の側面から、無数の巨大な砲身がせり出し、王城と王都の街並みに向かって照準を合わせた。
「くっ……! 魔法師団、打ち落とせぇぇぇっ!」
王宮魔法師団長ヴェインが血走った目で叫び、残った魔法師たちが一斉に最強の対空極大魔法を唱えた。
「「「《天雷の極光》っ!!」」」
天を突く巨大な雷撃の束が、上空の巨大戦艦に向かって放たれる。
しかし。
――ビィィィィィィィンッ!
空中要塞の周囲に、六角形の赤黒い光の障壁――『帝国製・魔導相殺バリア』が展開された。
王国の誇る最強の極大魔法は、バリアの表面でパチパチと小さな火花を散らしただけで、傷ひとつ与えることなく霧散した。
「な……なに……!? 王宮最高峰の極大魔法が……まったく通じないだと……!?」
「フハハハハ! 無駄だ無駄だ! 我が帝国の最新兵器には、貴様らの古臭い魔法など一切通用せん!」
総司令官の嘲笑が空から降り注ぐ。
要塞の砲門から、赤黒い光のエネルギーがチャージされ始めた。
「だ、だめだ……終わりだ……」
「王都が……我が国が滅びる……っ!」
騎士も、魔法師も、貴族たちも、膝から崩れ落ちて絶望の涙を流した。
王国の持ついかなる武力も、帝国の絶対的な空の暴力の前には、無力な赤子に過ぎなかったのだ。
***
だが。
その絶望と混乱の渦中で、一人だけまったく別の理由で腹を立てている少女がいた。
「もう……っ! せっかくアハトさんが作ってくれた美味しいお料理が、ほこりまみれになっちゃったじゃないかーっ!」
マスター(ミリア)であった。
崩落した天井の破片を、当機の『対消滅バリア』で完璧に弾き返しながら、ミリアはプンプンと可愛らしく頬を膨らませていた。
【マスターのストレス値を検知:急上昇】
【原因:外部からの振動および騒音による「お食事時間」の妨害】
【害虫(ガルアナ帝国軍)の脅威レベル:極小(害虫殺虫スプレーで対応可能なレベルです)】
「レオ! ガイツ! クロエ! 怪我はない!?」
「おう! ミリアのドレスのバリアのおかげで、かすり傷ひとつねぇぞ!」
「……ご飯、落ちた。許さない……」
ガイツが『古びた大盾』を構えて低く唸り、クロエも『猟師の木弓』を構えて空の巨大戦艦を睨みつけている。
「あいつら、上空から一方的に攻撃してくる気だわ……! 地上からの攻撃が届かないのを見越してるんだわ!」
「ミリア様、皆様。ご安心ください」
当機は静かにミリアの前に進み出ると、完璧な角度でお辞儀をした。
「不衛生な空中ゴミ(敵戦艦)が、マスターの尊いお食事時間を妨害いたしました。当機として、これを放置することはメイドのプライドにかけて不可能です」
「あ、アハトさん……! でも、あんなに高い空にいるんだよ!? 地上からの攻撃も弾かれちゃうし……!」
ミリアが心配そうに当機の袖を引っ張る。
【マスターの安全および、精神的安心の確保命令を受領】
【記憶セクター0x05のロックを完全解除します】
【新規兵装:『対空大導光翼』の召喚プロトコルが承認されました】
当機は静かに空を見上げた。
「問題ございません。地上から届かないのであれば――大空へ『お散歩』に出かければ良いのです」
「えっ……? お散歩……?」
ミリアがぽかんと口を開けた、その時であった。
【フライトユニット・エデン、空間転送完了】
当機の背中から、眩い白銀と瑠璃色のナノ光線が噴射された。
次の瞬間、純白のエプロンドレスの背中に、全幅4メートルを超える神々しい『光の翼』が展開した。
ドォォォォォォォンッ……!!
その光は、崩落した王城の大広間を神聖な輝きで照らし出し、絶望していた貴族や騎士たちの目を焼き尽くさんばかりに光り輝いた。
「な……何だあの光は……!? め、メイドの背中に……光の翼が……!?」
「ま、まさか……あのお方は……天から降臨した『戦乙女』なのか……!?」
騎士団長ジェラルドが、目を見開いて叫んだ。
当機はミリアを横抱き(お姫様抱っこ)で優しく抱きかかえると、レオ、ガイツ、クロエの3人にもナノ光線で連結された帯を装着させた。
「マスター、ならびに皆様。大空での『害虫駆除(お散歩)』のお時間でございます。風圧で髪が乱れぬよう、当機のバリアでお守りいたします」
「えええええっ!? アハトさん、私、空飛ぶのっ!??!」
「はい。マスターはただ、大空からの素晴らしい景色をお楽しみください」
当機は足元に微弱な反重力フィールドを展開すると、垂直に跳躍した。
――ドドドドドォォォォォンッッ!!!
重力と大気の壁を置き去りにし、当機たちは王城の崩れた天井を突き破り、一瞬にして音速を超えて王都の遥か上空へと急上昇した!
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:大空での『空飛ぶ聖女』としての奇跡(広域回復&攻撃無効化)、およびミリア様の大活躍】




