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第34話 【夜会乱入】不遜な貴族と嫌みなお嬢様。物理的・技術的な格の違いを見せつけます

 

【現在位置:王都・王城大広間(夜会会場)】

【環境スキャン:周囲の生体反応、約300個体を検知。空気中のアルコール濃度:微増】

【当機の裏タスク:マスターの「ドレス汚れ防止」および「不快害虫(不遜な貴族)の無力化」】



 漆黒のボディが美しく輝く『完全無音・浮遊式豪華馬車(リムジン仕様)』が、王城の正面玄関に静かに停車した。



 馬が引いていないにもかかわらず、地上からわずか数センチ浮遊して滑らかに止まったその異様な乗り物に、出迎えた近衛兵たちは息を呑んだ。



「ま、馬がいない……!? なんだあの黒い鉄の箱は……!?」



「しっ、静かにしろ! あのお方だ……! 騎士団長様と魔法師団長様が土下座したという、スラムの聖女様のご到着だぞ!」



 当機アハトは先回りして馬車のドアを優雅に開き、深々とお辞儀をした。



「マスター。王城へと到着いたしました。どうぞ、当機の足場ステップをお踏みください」



「あ、ううん、普通に降りられるから大丈夫だよ……!」



 降り立ったマスター(ミリア)の姿が月光に照らし出された瞬間、エントランスにいた兵士や給仕たちが一斉に息を吐き出した。



 透き通るような白銀と瑠璃色のナノテクドレス。


 歩くたびに夜空の星々のように繊細な光彩を放つその立ち姿は、スラムの孤児などという言葉を完全に過去のものとし、神話から抜け出してきた真の『姫君』そのものであった。



「うわぁ……すごーい! お城の中、キラキラしてて広いね!」



「おいレオ、あんまりキョロキョロするなよ。田舎者だと思われるぞ」



「お前だってめちゃくちゃ緊張して手が脚と一緒に動いてるじゃねぇか、ガイツ!」



「……ご飯。肉、どこ……?」



 ミリアを中央に、洗練されたタキシードを纏った3人の子供たち――レオ、ガイツ、クロエが続く。


 当機は完璧な給仕の配置でミリアの斜め後ろに付き、大広間へ続く重厚な金の扉を見上げた。



【大広間内部の状況スキャン完了】

【敵意・悪意・羨望を保持する個体数:全体の68%】

【主たる悪意の発生源:中央テーブル付近の高級貴族グループと特定しました】



「さて、マスター。害虫どもが宴を楽しんでいるようでございます。参りましょうか」



「が、害虫なんていないよ!? みんな立派な貴族様なんだから、粗相のないようにしないと……!」



 ミリアが緊張で可憐な拳をギュッと握り締めた。



 ――ギギギィィィ……。



 給仕の手によって、大広間の扉がしずしずと左右へ開かれる。


 瞬時に、大広間を包んでいた絢爛豪華な熱気と談笑の聲が、嘘のようにピタリと吹き飛んだ。



「「「…………………………っ!?」」」



 数百人の貴族、令嬢、高位騎士たちが、息をすることすら忘れて入口へ視線を釘付けにした。



 広間の中心に歩み出たのは、一人の少女。


 着用しているドレスは、王国のいかなる針子も、いかなる魔法師も見たことがない、神秘的な光を織り込んだ極上の逸品。


 首元で揺れる『星屑のペンダント』は、王冠に飾られたどの巨大宝石よりも圧倒的な存在感と輝きを解き放っていた。



「な……何だ、あの美しい衣装は……!?」



「あのお方は……どこの大国の第一王女様だ……!?」



「美しい……まるで月明かりが人間の形を取ったかのようだ……!」



 会場中の貴族たちがどよめき、うっとりと溜息を漏らす。



 しかし――その称賛の輪を切り割るように、不快な足音が近づいてきた。



「ふん、見苦しい! だまされるな、皆の者!」



 広場の中央から歩み出たのは、肥満体型に金ピカの派手な衣装を纏った男――ゼルガ公爵と、その息子ジュリアン。


 そして、派手な赤ドレスを着た高慢そうな令嬢エレナであった。



「そいつらは、スラムの泥にまみれたドブネズミどもだぞ! どこで盗んできたかも分からん安物のバッタモン衣装を着て、王宮の夜会を汚しに来たのだ!」



 ジュリアンが扇子でミリアを指差し、不快そうに鼻を鳴らした。



「そうだわ! スラムの卑しい子供が、こんな高貴な場に足を踏み入れるなど万死に値しますわ! そのドレスも、どうせ怪しい魔法で偽装した安物でしょう!」



 エレナがキーキーと金切り声を上げる。



 周囲の貴族たちも、「えっ……あの子たちが噂のスラムの……?」「まさか、本物の貴族ではないのか?」とヒソヒソとざわめき始めた。



「あ、あの……私たちは、国王様からの招待状をいただいて……」



 ミリアが困惑し、身を縮めようとした。



【マスターのストレス値を検知:上昇】

【対象個体(ゼルガ公爵家グループ)の有害度:極大】

【即時排除(分子分解)を推奨……ですが、マスターの社会性を考慮し、物理的・技術的見せしめ(自滅)を実行します】



「あら、緊張で声も出ないのかしら? ドブネズミには、これが一番お似合いですわ!」



 エレナが嫌み悪質な笑みを浮かべ、手に持っていたなみなみと注がれた最高級の『赤ワイングラス』を、ミリアの顔面に向けて勢いよくぶちまけた!



「ミリアっ!?」



 レオたちが叫ぶ。


 誰もが、あの白銀の美しいドレスが真っ赤なワインで無惨に汚れる未来を確信した。



 ――しかし。



【対消滅撥水フィールド:展開】



 ――バキュゥゥゥゥンッッ!!



 ミリアのドレスの表面数ミリの空間で、恐ろしい物理法則の捻じ曲げが発生した。



 ぶちまけられた赤ワインは、ミリアの肌やドレスに触れるコンマ一秒手前で、まるで目に見えない強固なゴム壁に激突したかのように完全に制止。


 そのまま、100%の運動エネルギーを維持したまま、物理的な反転(ジャイロ回転)を起こしたのだ!



 ――ベシャァァァァァァァッッ!!



「きゃあああああああっっ!?!?」



 ワインはきれいさっぱり、そのまま投擲主であるエレナの顔面と、自慢の最高級赤ドレスへダイレクトに逆噴射した。



 顔面を真っ赤な液体で染め上げ、髪からワインを滴らせるエレナ。



「な……なにが起きたの……!? わたしの……わたしの特注ドレスがぁぁぁっ!?」



「エレナ!? き、貴様、何をしたぁっ!」



 怒り狂った息子のジュリアンが、腰の飾剣を抜いてミリアへ飛びかかろうとした。



「無礼者め! 盗人の分際で……死ねぇっ!」



「当機が対応いたします」



 当機アハトは静かにミリアの前に立ち、ただ軽く息を吹きかけた。



指向性衝撃波エアブラスト:出力0.01%】



 ドカァァァァンッ!!



「ぶへぇぇぇっ!?」



 ジュリアンは触れられてもいないのに、目に見えない巨大な大槌で叩かれたかのように吹き飛び、そのまま豪華な料理が並ぶバイキングテーブルへ突っ込んで、ケーキとスープまみれになった。



「ジュリアン! 貴様ら……我が公爵家を愚弄するか! 近衛兵! 近衛兵はこの無礼者を即刻処刑せよ!」



 ゼルガ公爵が血相を変えて叫ぶ。



 しかし、駆けつけてきた近衛騎士団長ジェラルドは、公爵を無視してミリアたちの前に深々と膝をついた。



「聖女様! ご無礼をお許しください! おい、ゼルガ公爵とその親族を拘束せよ!」



「な……何だとジェラルド!? 正気か貴様! ワシは公爵だぞ! スラムのドブネズミのためにワシを捕らえるというか!?」



 大混乱に陥る会場。


 その時、前回の調査でアハトの恐怖を骨の髄まで叩き込まれた王宮魔法師団長ヴェインが、ガクガクと膝を震わせながらミリアの首元を指差した。



「ぜ……ゼルガ公爵……口を慎め……! お前は……お前は国家を滅ぼす気かぁぁぁっ!?」



「何……なにを言っておるのだヴェイン!?」



「み、見ろ! 聖女様の首元にあるあの『星屑のペンダント』を……! あれに込められた魔力量は……我が王国の全魔導炉をかき集めた量の『数万倍』……いや、測定不能だ! あの宝石一つで、我が国など一瞬で焦土と化すほどの絶対的な神の力が宿っているのだぞぁぁぁっ!」



「「「な、なんだってぇぇぇぇぇっ!?!?」」」



 会場中の貴族たちが絶叫した。



 当機の『星屑のペンダント』――それは単なる縮退炉の微弱エネルギーを宝石上に視覚化した副産物に過ぎない。


 だが、魔法の専門家であるヴェインから見れば、それは「一歩間違えれば世界が吹き飛ぶ超圧縮兵器(神の遺物)」に他ならなかった。



「ひ、ひぃぃぃっ……!? か、神の兵器……!?」



 ゼルガ公爵は顔面を蒼白にし、自分がどれほど恐ろしい存在に噛み付いていたかを理解した。


 あまりの恐怖に腰が抜け、股間からじわじわと温かい液体を漏らしながら、その場に崩れ落ちた。



「あ、あのね、おじさん……ワイン、かかっちゃって大丈夫……?」



 ミリアが心配そうに手を差し伸べるが、ワインまみれのエレナも、ケーキまみれのジュリアンも、失禁したゼルガ公爵も、「ひぃっ! お許しをぉぉぉっ!」と悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。



【不快害虫の完全自滅・無力化を確認いたしました】

【マスターのドレス汚損率:0.00%】



「ふぅ……。なんだかよくわからないけど、おじさんたち、自分からケーキに飛び込んでいっちゃったね……?」



 ミリアが首を傾げる。


【ミリア様の安全および、貴族社会における絶対的格付けの完了を認定】

【システム報酬:記憶セクター0x09のロックを解除します】

【新規機能:『広域空間スキャン(衛星軌道レーダー)』がアンロックされました】



「お見事な勝利でございます、マスター。さあ、気を取り直して、美味しいお食事を召し上がりましょう」



 当機が微笑み(ログを流し)、ミリアに極上のローストビーフを手渡したその時であった。



 ――ズズズズズズズズズズンッッ……!!!



 突如として、王城全体を破壊するかのような、凄まじい大地響きと空間の振動が響き渡った!



「キャァァァァァっ!?」


「じ、地震!? いや、なんだこの不気味な魔力はぁぁぁっ!?」



 大広間の巨大なステンドグラスが、音を立てて粉々に砕け散る。



【警報:広域空間スキャン(衛星軌道レーダー)に緊急反応】

【王都上空3000メートルに、超大型個体を検知】

【対象:隣国『ガルアナ帝国』の超大型空導飛空艇(軍用巨大戦艦)および機械化空導兵団】



「報告! 報告ぉぉぉっ! 上空に隣国帝国の巨大戦艦が出現! 王城が……王都が完全に包囲されましたぁぁぁっ!」



 騎士の悲鳴が響き渡り、和やかだった夜会が一瞬にして「極限の戦場」へと変貌した。



【タスク更新:敵対国家によるマスターの食事妨害を検知】

【迎撃プロトコル:即時スタンバイ】



【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】

【次の目標:王都上空の帝国軍の迎撃、およびミリア様の大空への出撃ピクニック

 

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