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第32話 【調査団】王宮からの使者。過保護なセキュリティが国家最高峰を無力化します

 

【現在位置:王都スラム街・ミリア様邸(超ハイテク防衛要塞)】

【環境スキャン:外部より高濃度マナを保持する生体反応、計12個体を検知】

【当機の裏タスク:マスターの「ティータイム」の妨害を徹底排除。および不審者の無力化処理】



「ん〜っ! アハトさんの焼いてくれたイチゴのタルト、ほっぺたが落ちちゃいそう!」



 マスター(ミリア)が、フォークを手に満面の笑みを咲かせていた。



【マスターの幸福度カウンター:99.8%を計測】

【システム報酬:調理プラントの『宮廷極上洋菓子レシピデータ』が完全展開されました】



「お気に召していただけて光栄でございます、マスター。おかわりは無制限に自動複製可能でございますので、どうぞご遠慮なく」



 当機アハトは純白のエプロンを整え、ミリアの紅茶に『特級アールグレイ(ナノ抽出)』を注ぎ足した。


 現在、我が家(元・スラムの廃屋)のリビングは、完全自動空調システムによって室温22度、湿度50%の極上空間に保たれている。


 外の埃っぽく貧しいスラムの風景とは完全に隔離された、まさに地上最後の楽園であった。



 しかし。


 その穏やかなティータイムを汚そうとする、無礼な不審者たちの足音が近づいていた。



 ――ズシン、ズシン、ズシン。



 要塞化された我が家の重厚な防音ドアの向こう側に、鎧の擦れる不穏な音が響く。



【センサーログ:外部接近個体を分析中】

【対象:王国近衛騎士団長(レベル65)、王宮特級魔法師団長(レベル68)、および直属の精鋭10名】

【危険度判定:害虫レベル。マスターの食事の邪魔になるため、迅速な駆除を推奨します】



 ***



 一方――防音扉のすぐ外側。



「……おい、魔法師団長。本当にここなのか……? あの『迷宮を一瞬で消滅させた怪異』の潜伏先というのは……?」



 汗だくになりながら刀身に手をかけるのは、王国最強の剣士と謳われる近衛騎士団長・ジェラルドであった。


 その隣では、王国最高峰の魔導士である魔法師団長・ヴェインが、ブルブルと手元の魔導書を震わせている。



「は、はい……! 探知魔法の反応は、間違いなくこの不気味な建物から発せられています……! ですが、おかしいのです……!」



「何がおかしい!?」



「この建物……外側には『一切の魔力』が存在しません! まるで周囲の空間から魔力そのものを遮断し、消滅させているかのような……異様な『無の領域』が形成されているのです……っ!」



「な、なに……!? 魔力を消滅させているだと……!?」



 ジェラルドの背中に激しい寒気が走った。


 彼らは、王都のすぐ足元に突如現れた「未知の超特級戦力」を調査し、最悪の場合は国家の威信をかけて接収・鎮圧するために派遣された精鋭部隊であった。


 だが、目の前に立ち塞がるのは、スラムのバラック小屋とは思えない、継ぎ目のない白銀の金属で覆われた異様な建造物。



「ひ、怯むな! 我らは王国の威信を背負う近衛騎士団! 相手が何者であろうと、王の命に従い――」



 ジェラルドが意を決し、扉に向かって叫ぼうとした、その瞬間であった。



 ピンポンパンポ〜ン♪



 軽快で清々しい「チャイム音」が、無機質な壁から響き渡った。



「「「ヒッ……!?」」」



 熟練の騎士たちが、ただの電子音に跳び上がって武器を構える。


 直後、白銀の金属扉が、何一つ音を立てずに左右へと滑らかにスライド(自動ドア)した。



「ようこそお越しくださいました。訪問販売、または衛生査察の方でしょうか?」



 そこに立っていたのは、一人の儚げで美しいメイド――当機アハトであった。


 塵ひとつ付いていない純白のドレス、人間離れした整いすぎた容姿、そして何より――生命感を一切感じさせない、深海のように静かな瞳。



「(な……なんだ、この女は……!? 魔力が……気配が……まったく感じられん!? だが、存在そのものが空間を歪めているような、底知れぬ圧迫感……!)」



 ジェラルドはゴクリと固唾を呑み込み、なんとか自尊心を保ちながら声を張り上げた。



「我らは王国近衛騎士団、および王宮魔法師団である! 『スラムの聖女』と呼ばれるミリア殿、ならびに『古代の地下迷宮』のコアを回収した者たちに謁見を要求する! 素直に調査に応じよ!」



「拒否いたします」



「なっ……!?」



 当機はコンマ一秒の躊躇もなく即答した。



「現在、マスターは午後のティータイム中でございます。糖分補給および精神の休息は、育ち盛りの個体にとって最優先されるべき生理的欲求。いかなる権力者であろうと、これを害することは許されません」



「貴様……王国の命令を拒絶する気か!? 実力行使も辞さぬぞ!」



 ジェラルドが剣を抜きかけた、その時。


 魔法師団長ヴェインが、焦りから勝手に手を掲げてしまった。



「ええい、問答無用! まずは拘束魔法で動きを封じる! 《縛鎖の雷獄サンダー・チェイン》――」



 王宮最高峰の絶大なる雷撃魔法が放たれようとした。


 しかし。



【脅威度レベル:極小。攻撃行動と判定し、自動迎撃(防衛セキュリティ)を起動します】



 当機はただ、静かにパチンと指を鳴らした。



【対消滅バリア:極小展開】

【指向性マイクロ波:対象の脳波をリラックスモードへ強制同期】



 ――スウンッ。



 ヴェインの放とうとした大魔法の構築陣が、当機の掲げた掌の前で、まるで「ろうそくの火を吹き消す」かのように一瞬で霧散した。



「は……? わ、私の特級魔法が……消えた……!?」



 さらに次の瞬間。


 ジェラルドたちの頭上から、温かな桃色の光と、甘い芳醇な香りが降り注いだ。



「「「あ……ぁ……?」」」



 剣を構えていたはずの近衛騎士たちが、突如として膝から崩れ落ちた。


 全身の筋肉から急速に緊張が抜け、脳内に大量の多幸感物質エンドルフィンが分泌されていく。


 長年の過酷な訓練による肩こり、慢性的な腰痛、精神的ストレスが、光を浴びた瞬間に綺麗さっぱり消失したのだ。



「こ、これは……何だ……!? 体が……軽い……!? 怒りや殺意が……まったく湧いてこない……っ!?」



「害虫駆除用アロマおよび、精神安定マイクロ波の照射でございます。これで少しは、静かにお話ししていただけますでしょうか?」



 当機は完璧なお辞儀をした。


 自慢の最高戦力12名が、指一本触れられることなく、たった一瞬で戦意を喪失させられ、ヘラヘラとした脱力顔で床に座り込んでいる。



「(バ……化け物だ……! 魔法も、剣も、国家の武力すら……この女の『おもてなし(防衛策)』の前には一粒の塵に過ぎん……っ!)」



 ジェラルドは恐怖で全身の血が凍りつくのを感じた。


 その時、奥の部屋からひょっこりと顔を出したのは、イチゴのタルトを口につけたミリアであった。



「あ、アハトさん? 誰かお客さん……? あれ? 立派な甲冑を着たおじさんたちが、みんな床にペタンって座り込んでる……?」



「ご安心ください、マスター。遠方よりお越しの見学者様方です。長旅でお疲れのようでしたので、精神の洗浄を行っておりました」



 当機は給仕用のワゴンを押して前へ出ると、近衛騎士団長たちの前に、出来立ての『イチゴのタルト』と『特級紅茶』を差し出した。



「どうぞ。マスターのお食事を邪魔しなかったお礼として、当機お手製の試作品をご賞味ください」



「ひ、ヒィッ……毒か!? それとも我らを奴隷に変える呪いの薬か……!?」



 恐怖に震えるジェラルドだったが、目の前のタルトから漂う、この世のものとは思えない甘美な香りに抗うことができなかった。


 ゴクリと唾を呑み込み、震える手で一口、口へと運ぶ。



 ――ジュワァァァァァッ!



「「「~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!??!?」」」



 一口食べた瞬間、ジェラルドとヴェインの瞳から、滝のような涙が溢れ出した。



 口内で弾ける極上の甘み、最高級のバターの風味、そして果実のフレッシュな酸味。


 それだけではない。一口飲み込んだ瞬間、彼らの体内の魔力量が跳ね上がり、全ステータスが恒久的に底上げされる感覚が走ったのだ。



「う、美味すぎる……! なんだこの食べ物は……! 神の食べアンブロシアか……!?」


「魔力が……枯渇していた私の魔力回路が、一瞬で溢れんばかりに満たされていく……っ! なんだこの聖水のような紅茶はぁぁぁっ!?」



 騎士団長も魔法師団長も、プライドを完全に投げ捨てて、子供のようにタルトを貪り喰い、紅茶を飲み干した。



「ふふっ、おじさんたち、美味しそうに食べてるね! アハトさんのご飯は、世界一なんだよ!」



 ミリアが嬉しそうにニッコリと微笑む。


 その無垢で聖母のような笑顔を見た瞬間、ジェラルドたちは悟った。



「(ち、違う……! このお方は、王国の転覆を企む悪魔などではない……! 我々のような愚かな人間を、圧倒的な慈悲と神の技術で導こうとされている『本物の神』なのだ……っ!)」



 大いなる勘違い(アンジャッシュ)が、国家最高峰の頭脳の中で完璧に結実した。



「聖女様……! 無知ゆえの非礼、何卒ご容赦を……っ!」



 ドシーンッ!!



 近衛騎士団長ジェラルドと、王宮魔法師団長ヴェインは、床に深く額をこすりつけ、見事な土下座を捧げた。



「えっ!? ええっ!? なんで土下座!? タルトあげただけなのに!?」



 ミリアがパニックを起こして手をバタバタと振る。


【国家上層部からの敵対判定を解除】

【ステータス:絶対的崇拝(神格化)へと上書き完了いたしました】



 当機は満足のいく結果に、静かに頷いた。



「マスター。彼らは貴方様の寛大な心に深く感銘を受けたようでございます」



「ち、違うと思うけどなぁ……!?」



 頭を抱えるミリアをよそに、平伏したままのジェラルドが、懐から眩い金箔の施された一通の書状を取り出した。



「聖女様……! 実は本日、我が国王陛下より、聖女様と従者の方々を『王城の夜会パーティー』へ正式にご招待するよう、賜ってまいりました……! どうか、我が国の王とお会いしていただけないでしょうか……!」



「えっ……? 王城……? パーティー……!?」



 ミリアが目を丸くする。


 スラムの泥にまみれていた少女へ贈られた、国家最高峰の夜会への招待状。



【新規タスク受領:マスターの王城夜会への参加プロトコル】

【準備タスク1:マスター用『絶対防御機能付き・ナノテクパーティードレス』の錬成を開始します】

【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】

【次の目標:王城夜会への殴り込み、および不遜な貴族たちの物理的・技術的無力化】

 

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